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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
幕間 〜 零とミトロヴィッチ
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15 将門の首塚

 地下迷宮のような東京駅から外に出て、とりあえず皇居の方へ向かって歩き出した。地下鉄に乗るという手もあるが、久々に東京の様子を見たかったから歩いて行く事にした。

 ほんのしばらく来なかっただけで、東京は随分と変わっていた。車の量、人の多さ、バカでかいビル。いったいどれだけの人間が集まってこの町を作っているのかと思うと、そこで消費されるエネルギーと浪費される人間に敬意を表したくなった。


 「ここか」


 東京駅から二十分。巨大なビルが立ち並ぶ中、平将門の首塚がある小さな一角が、まるで異空間のように静かな佇まいを見せていた。


 「ふうん」


 これはなかなか、と僕は帽子を取って首塚に登った。

 だが、奥の首塚へ行こうとしたところで足を止め、やれやれ、と肩をすくめた。


 「なんだ、ここにいたんだ」


 僕は帽子を被り直し、右手に置かれていたベンチを見た。


 大男がいた。


 筋肉の塊みたいな男で、ここ数日共に行動していた宮田祐一よりもさらに大きな男だ。長い銀髪に、目つきの悪さを隠すサングラス。服は相変わらずライダースのレザージャケットにGパン、バッシュというスタイルだ。お気に入りのコーデらしいが、夜道で会うと怖いから少しは考えろ、と何度も苦言を呈している。だが、僕の苦言を聞き入れる気はないらしい。


 「探したぜ。どこにいたんだ」

 「京都、かぁらぁのぉ、坂出」

 「あ?」


 僕のふざけた口調に、彼、ミトロヴィッチが眉をひそめる。


 「坂出……ちっ、崇徳院の方だったか。読みが外れたな」

 「さすがにこっちはマークがきついと思ってさ」


 僕の主食は、人が抱える恨みつらみ、格調高くいうと怨念だ。

 普段は行きずりの人間からちまちまと怨念をかき集めているが、ここまで力を失ってしまうとそれでは回復しきれない。そこで、完全回復を狙って、日本三大怨霊と言われる菅原道真、平将門、崇徳院の怨霊を食いに行くことにした。

 だが怨霊として大きな力を残しているのは、未だ体と一つになれない平将門のみ。菅原道真はもともと忠誠心厚い真面目な男で怨霊になるような男ではないし、崇徳院は京都の白峰神宮に祀られることで神となり、怨霊としての力はかなり小さくなった。僕が神々との戦いで失った力を取り戻すために来るとすれば平将門の首塚。そう考えるのが普通だろう。


 「ハデにやられちゃったからね。コソコソ動くしかなかったよ」

 「まあ、正解だったな」


 いわく、僕を食らおうとあまたの神々がこの一帯で待ち構えていたそうで、追い払うのに一苦労だったという。


 「それはそれは。苦労かけたね」

 「で、大丈夫なのか?」

 「白峯寺で残りカスをなんとかかき集めたよ。邪魔が入って、危うく消えるところだったけど」

 「で、足りないから行きずりの男を食った、てか?」

 「よくおわかりで」


 彼が呆れたように笑い、肩をすくめた。


 「今朝七時過ぎ。高松発の寝台列車の中で、三十代半ばの男の変死体が発見された」

 「へえ」

 「大柄な男で、発見時は全裸。中身が空っぽだった」

 「それは、才能がないとかそういう意味?」

 「そうじゃない。文字どおり、空っぽだった」


 体液は吸い取られ、内臓はきれいになくなり、ただ皮と骨だけだった。ご丁寧に見た目は損なわないよう細工されていて、一見しただけではそんな風になっているとは思えなかったそうだ、と彼は言う。


 「怖いね。猟奇事件じゃないか」

 「しかもその男は、自分の部屋ではなく隣の部屋で見つかったそうだ」


 僕は笑う。彼は淡々と続ける。


 「そして、その隣の部屋に乗っていたはずの乗客が、姿を消しているらしい」

 「へえ」

 「ちなみにその隣の部屋に泊まっていたのは、二十歳くらいの女性だったそうだ」

 「ふうん。ひょっとして夜這いをかけたのかな?」

 「お前が誘い入れたんだろうが」

 「決めつけるね」

 「長い付き合いだからな」


 彼がジロリと僕を睨んだ。うん、これはもうバレている。まあ、隠す気もなかったけど。


 「お前が食ったんだな?」

 「うん、食べたよ。あんまり美味しくなかったけどね」


 僕は微笑を浮かべて、無言になった彼を上目遣いに見た。


 「……妬いてくれた?」

 「あほか」

 「ひどいなあ。僕は本気で君を愛しているのに」


 僕のその言葉が終わるかどうかというところで、彼のたくましい腕が僕の首に巻きつき、へし折らんばかりの力で締め付けられた。


 「いいから何があったか話せ」


 彼が僕の耳元で口を開いた。相変わらず色気のある低い声だった。その声で甘い愛を囁いてくれたら、迷うことなくこの身を委ねるのに。


 「わかったよ、ミトロヴィッチ……いえいえ、敬愛する三代目一寸法師様」


 おどけて言った僕の言葉がミトの逆鱗に触れたようで。

 僕は、バキリと首の骨を折られた。


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