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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第1章 サンライズ
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12 シャワー

 電車が揺れる中、うつらうつらと、寝ているのか起きているのかわからない時間を過ごした。


 同じ夢を繰り返し見た。


 目が覚めたら、僕の部屋においで。 

 そして君の思いを僕に捧げて。


 あれは一体どういう意味だろう。考えてもよくわからない。だが、来いと言われたのがどこなのかはわかった。

 零の部屋だ。

 この部屋の隣、扉を開けたら、おそらく正面にある扉のその奥。私は、今夜零が過ごすであろうその部屋へ来いと言われたのだ。

 そして、私の思いを捧げろという。

 思いとは何か。まさか愛か? しかし私に零に対する愛などない。その男らしからぬ可愛らしさへの、そう、劣情なら確かに抱いた。だが、そんなものを捧げろというのか。

 そもそも相手は零でいいのだろうか。あの美しい声は、零の声なのだろうか。


 「あーもう、夢に意味なんかねえよ」


 寝不足で酒なんか飲んだから妙な夢を見たのだ、と結論づけた。

 悶々と考えていたら列車が止まった。どうやら岡山に着いたらしい。ぼーっとしたままなんとなく耳を澄ましていたら、零の部屋の扉が開き、階段を下りていく足音が聞こえた。


 「……シャワー、かな」


 一階にはシャワー室がある。A寝台の乗客には無料のシャワー券が渡されているから、きっと零はシャワーを浴びに行ったのだろう。

 私も、零の部屋に行く前にシャワーを浴びたほうがいいだろうか。


 「零の部屋に行って何する気だよ、俺」


 私は自嘲気味に笑うと、再び目を閉じた。

 それにしても、眠っていたはずなのに、私はどうして列車の中のことをよく知っているのだろうか。

 まるで、つい先ほど、自分で見てきたかのように。


   ◇   ◇   ◇


 次に目を覚ましたとき、列車は姫路に止まっていた。

 それなりに眠ったからだろうか、ずいぶんとすっきりしていた。私は起き上がり、体が汗でじっとりしていることに気づいた。面倒だが、気づいてしまうと気持ち悪く、シャワーを浴びに行くことにした。

 備え付けの浴衣に着替え、タオルとシャワー券を持って部屋を出る。正面の零の部屋は扉が閉まっていた。もう眠ったのだろうか、と思いながら部屋を後にし、一階のシャワー室へと向かった。


 シャワーを浴びると、さっぱりとした気分になった。


 シャワー室を出て部屋へ戻る途中で三ノ宮についた。ホームの時計を見ると、すでに日付は変わっているようだ。三ノ宮の次は大阪に止まるが、大阪を出ると次は静岡まで止まらない。

 階段を上り、部屋の扉を開けた。零の部屋の扉はやはり閉まっていた。やっぱりもう寝たか、と思いながら暗証番号を押して自分の部屋に入り、そのままベッドに寝転んだ。


 目が覚めたら、僕の部屋においで。 


 あの夢はなんだったんだろうか。

 妙にリアルで、しかし現実味のない夢だった。明日の朝、 酔って迷惑をかけたお詫びに零に朝食をおごり、その時に話してみようと思った。

 列車が、大阪に着いた。


 「もう寝るか」


 私は着ていた浴衣を脱いで裸になった。体が大きいのでホテルに備え付けの浴衣や寝間着は窮屈で仕方なく、たいてい私は裸で寝ていた。昨日は零が同室だったから寝間着を着ていたが……いや、酔って脱いでしまったのだが……今日は個室だ、裸で寝てもいいだろう。


 さて寝るか、とベッドに横になろうとした時。

 零の部屋の扉が開く音が聞こえた。


 どきりとして、私は耳をすませた。トイレにでも行くのだろうかと思ったが、零が部屋を出ていく様子はない。

 息を潜めて様子をうかがっていると、列車が動き出し、大阪駅を出た。

 私は息を呑み、震える手で部屋の扉を開けた。


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