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101 vs 神 五

 縄を解かれるとすぐにミトに抱きしめられ、抗う間もなく唇を重ねられた。


 「んがっ……」


 もがいてもビクともしない。がっちり関節決められて、下手に動くとあちこちが痛い。

 ああもう、わかったってば。がっつくなよ、逃げたりしないから。


 「んっ……」


 舌を伸ばし、ミトの体にエネルギーを流し込む。楓機構、全開。作り出されたエネルギーを口に集め、そのすべてをミトに渡した。

 ミトの両腕が、ぐいぐいと僕の体を抱き締める。

 ち、ちょっとまて、そんなに抱き締めるな……苦しいだろ、バカ。あ、こら……どこ触って……


 「んあっ……も、もういいだろ!?」

 「いやいや、まだまだ」


 ミトが「にへっ」と笑って、また唇を重ねてきた。

 ああもう……いいけどさ、それで元気になるのなら。

 そういや、本気のキスなんていつ以来かな……あ、いや、違う、これはキスじゃない、ただの、そう、ただのエネルギー受け渡し。人工呼吸みたいなものだ。

 ちくしょう、勘違いするなよ、これはキスじゃないからな、ミト!


 「うし、充電完了!」


 たっぷりと十分ぐらい、僕はミトに吸い取られた。ミトの傷口は完全にふさがっている。にやけた顔が妙にツヤツヤしているはおまけの効果か。


 「別れは済んだかね」


 七王と九部が僕とミトを包囲し、武器を構えている。まあ、悠長に抱き合ってキスしてたからな、そりゃ追いつかれるか。

 あ、だから、キスじゃないっての。ああもう、調子狂うな、このやろう。


 「大人しくその悪霊を渡せ。さすれば我らも寛大な処置を……」

 「断る」


 食い気味に返事をしたミトが、ドン、と大地を踏む。


 「(これ)は、俺のだ!」


 瞬きする間にミトの手に打出の小槌が現れた。

 そして、次の瞬きを終えたとき、打出の小槌が地面に叩きつけられ、爆発するような衝撃波が生まれた。


 「うわっ!?」


 その衝撃波に吹き飛ばされそうになった瞬間、ミトが僕をつかんで抱き締めた。


 「つかまってろ」

 「……うん」


 ミトの体に抱きついて僕は驚いた。

 マジでこいつ全快してやがる。なんでだろ。鬼にとって猛毒のはずなのに。ひょっとして小人族にとっては回復薬だったのか? そういやこいつでは試したことないから、どうキクのか知らないや。


 ま、後で考えるか。


 「うりゃあっ!」


 ミトの衝撃波に吹き飛ばされて体勢を崩した神に、ミトが猛然と襲い掛かる。僕はミトを援護すべく呪いを生み出し、背後から迫る神にぶつけた。


 「ぐはっ!」


 ミトの打出の小槌を受け止めた神が、受け止めきれずそのまま潰れた。僕が生み出した呪いに足止めされていた神が、ミトの第二撃を食らって吹き飛ばされた。


 「うむ、絶好調!」


 こいつ化け物か。相手は七王と九部だぞ。なんで一撃で倒せるんだよ。僕なんて、逃げることすらできなかったのに。


 「貴様、何者か!」


 七王のリーダーが焦った顔で問う。ミトはニィッと笑い、答えるより先に打出の小槌を振り下ろす。


 「三代目一寸法師、ミトロビッチ」


 高らかに名乗ったミトだけど、相手には聞こえていないだろう。なにせ、木槌の下敷きだ。


 「ミト、さっさと逃げる!」


 一対一では敵わないと見て取ったのか、神が一旦退き隊列を整えた。まだ十五体残っている。舐めて一対一で挑んできたから叩き潰せたが、いっせいに飛びかかられたらさすがにきつい。


 「そりゃいいけどよ」


 小槌を振りながら回し蹴りをする、という曲芸をやってのけながら、ミトが僕を見た。


 「どこに逃げりゃいいんだ?」

 「どこって……」


 ミトに問われ、僕ははっとなった。


 「そういや、ここってどこなんだ?」

 「……月だ」

 「月? おいおい、どうやって来たんだ?」

 「知るかよ」


 おそらく鈴丸の力で連れてこられた。七王と九部を退けたとして、さてどうやって地球へ帰ればいいのか。


 「ほいさあっ!」

 「このっ!」


 打出の小槌と僕の呪いが、飛びかかってきた神を弾き飛ばす。

 考えることは山ほどあるけど、まずこの死地を脱してからだ。とにかくここから逃げよう。

 さて逃げるとして、遠くに見える街らしきところへ潜り込むか? それとも街からは離れて荒野のどこかに身を隠すか?


 「どうすんだ?」

 「……街へ行こう。まずはどこかに隠れて態勢を整えよう」

 「わかった」


 ミトが気合一閃、同時に飛びかかってきた神五体をバリアのようなものを発して跳ね返した。


 「うっしゃ、零、しっかり捕まってろよ!」

 「うん」


 状況は最悪。でも僕一人じゃない、ミトがいる。

 だとしたらここが月でも、なんとかなるような気がしてきた。


 ──そう考えながら、やたらとたくましいミトの首に抱きついた時。


 ドクン、と僕の中にある楓機構が強く脈打ち、急激に力を失っていった。


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