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学園ではツンツン、放課後はデレデレはツンデレというのだろうか?

 天王寺とは暗くなる前に別れた。

 女子とこんなにも話したのはいったい何年ぶりだろう。

 

もしかしたら人生で初めてかも……と思いかけたけど、久宝寺先生とならあるか。

 同年代の女子とはおそらく初めてだけど。

 

 何だかんだで明日、遊びに来ることになってしまった。

 ……掃除機くらいはかけておこうかな。

 

 他にやるべきことは特に思いつかなかった。

 グラビアアイドルの写真集はもともと隠してあるし。


 そして家の住所をダイレクトメッセージで送っておく。

 とりあえずこれでいいだろうと次の日を迎えた。


 学園ではいつも通り過ごしていたのだが、教室を移動してるところで天王寺と偶然遭遇してしまう。

 ぎょっとして固まる俺に対して、天王寺は冷淡に言った。


「申し訳ないけど、邪魔よ。通してくれない?」


 女王様のような高慢ささえ感じさせる言葉に俺は逆らえず、ささっと道を譲る。


「るりか、さすがの貫禄」


「あの男子、召使いみたい」


 取り巻きの女子が感心したり、俺を揶揄する声が聞こえてきた。

 初めて知ったけど、学園での天王寺ってああいう態度なのか……?


 俺と接してた時とギャップがひどすぎるだろ。

 このやりとりはクラスメートに目撃されてたらしく、久しぶりに話しかけられる。


「摂津、邪魔扱いされてたな」


「天王寺、冷たくてちょっとこわいよな」


「近寄りがたいにもほどがある」


 男子たちはみな俺に同情的だった。

 天王寺に近寄りがたいイメージなんてなかったとは言えない空気である。


 知り合った経緯が特殊すぎるせいなんだろうな。


「おう、こわかった」


 と俺は話を合わせておく。

 その後特に話題もなく、いつものようにぼっちに戻った。


 気楽な時間になったのでSNSを立ち上がると、ラピスラズリの名前で謝罪が届いていた。


「失礼な態度を取っちゃって、本当にごめんなさい。あのほうが摂津くんの迷惑にならないと思って……」


 と理由も書かれている。


「おかげで誰にも疑われてないよ。ぐっじょぶ」


 と軽い調子で返しておく。

 すれ違った時の態度だけ見れば信じがたいが、昨日の態度から見ればおそらく俺が怒ってないかヤキモキしてそうだ。


 すぐに返事が届いて「よかったー」と安心が伝わってくる。

 こっちもよかったんだけど、返事早いよな。


 友達はいいのか?

 俺としては不思議で仕方がない。


 SNSで聞くのは何となくためらわれるので、スマホをしまって机の上に顔を乗せる。

 何となくネットを見る気分じゃない。


 まったりとした時間を過ごそう。

 コミカライズがどうなるのか気になるけど、時間かかるって先輩たちに言われたしなー。


 今日も空が青いなぁ……。

 放課後になっていつものようにまっすぐ家に帰る。


 みんな部活に行ったり、友達とカラオケに行ったり、コンビニに寄ったりしているらしい。

 これまではちょっとうらやましい気もあったが、今日は違う。


 今から天王寺がやってくるのだと思えば、人をうらやむ気持ちは吹っ飛ぶ。

 立場上、誰かに自慢するわけにはいかないんだが。


 天王寺だって本当は男の部屋に遊びに行ったと言われたくないんじゃないかなという気もちょっとある。

 まだ四月だというのに、今日はちょっと暑い気がした。


 雨は正直きらいなんだけど、涼しくなるなら降ってもいいかな。

 なんて身勝手なことを考えながら家にたどり着いた。


 天王寺のクラスのホームルームがいつ終わったのか知らないけど、さすがにしばらく時間はかかるだろう。

 と言ってもあまり余裕でいるのもなぁ。


 お茶くらいは出さないとまずいだろうし……女の子に出すものっていったい何があるんだろう?

 親には言いたくなかったし、相談できる相手がいなかった。


 久宝寺先生に聞いてみるべきか?

 いや、今からじゃさすがに間に合わないよな。


 そうだ、座布団くらいは出そう。

 どこかに来客用の座布団があったはず……。


 一階に降りてごそごそと探しまわると、青い差布団が一枚見つかった。

 ホコリをかぶってるわけじゃないし、これでいいや。


 一応パンパンとはらってから部屋まで持ってあがる。

 これで客人をもてなす準備はできたかともかく、友達が来てもいいと思えるようになった。


 ところで俺と天王寺は友達でいいんだろうか?

 わりと深刻な悩みに気づいたところで、玄関でチャイムが鳴った。


 天王寺が来たな。

 出版社からの郵送物が届くようなタイミングじゃないし、宅配便についても聞いてないので自信がある。


 天王寺だということをたしかめてからドアを開けた。


「こんにちはー」


 彼女は学園ですれ違った時とは違い、太陽のような笑顔で軽く手を振ってくる。

 今日の服装は十代女子のファッションで取り上げられているような服装だ。


 上着はうすい緑のシャツかな?

 下はスカートじゃなくてパンツスタイルだ。


 顔もスタイルもいいせいで、ファッションモデルが飛び出してきたと言ってもみんなが信じるだろう。


「いらっしゃい」


 俺はちょっとドキドキしながら招き入れる。


「お邪魔します」


 と言って入ってきた彼女は赤いハンドバック以外にも茶色の紙袋を持っていて、靴を脱ぐ前に差し出す。


「これ、お土産よ。よかったらあとで食べましょう?」


「おお、ありがとう」


 受け取って中身を確認すると、クッキーだった。

 市販品かと思ったが、メーカーのロゴもなく栄養情報のシールらしきものもない。


「もしかしてこれ、手づくり?」


「ええ、そうよ。お口にあうといいんだけど」


 天王寺はさらりと言った。


「女子力高いんだなあ」


 女の子の手作りお菓子をもらうなんて人生で初めてかも。

 と思ってから訂正する。


「おっと、料理スキルと女子力を結びつけるのはまずいか」


 今の時代、料理が上手い男性は増えてるし、料理は女がやるものっていうのは偏見と誤解されるリスクがある。


「私は平気だけど、気にする人はいるのかな?」


 天王寺は小首をかしげた。

 誰かの影響だと見抜かれた気がする。


「久宝寺先生だよ。女が料理できなくて何が悪いって。まあたしかに別に悪くはないよね」


 と話す。

 だって俺も料理なんかできないもんな。


「なるほど。久宝寺先生って料理苦手なんだ。ちょっと意外かな」


 天王寺がそんなことを言った気持ちは解る。

 あの人、見た目はおとしやかで家庭的だもんな。


「言わないほうがいいよ。気にしてるから」


 言う機会なんてない可能性が高そうだけど、一応忠告しておこう。


「ふふふ、了解」


 天王寺は楽しそうに返事をする。

 ぴしっと敬礼をしたけど、なかなかさまになっていた。


「中に入ってくれ」


 彼女を中に通し、ひとまずダイニングルームへ案内する。

 うちはそんな広くないからほんのちょっと歩けばいいだけだ。


 天王寺は物珍しそうにしながらも、きょろきょろはしない。

 カバンを隣の椅子に置いて腰を下ろした彼女に、俺は麦茶をいれて渡す。


「ありがとう」


 天王寺は恐縮した様子で受け取り、ひと口飲んだ。


「ふう」


 と吐いた息も魅惑的なのは、彼女が美少女だからだろう。

 仕草の一つ一つに男がドキッとする力があるのはずるい。


「さっそくお菓子食べてもいいか?」


「いいわよ」


 質問すると彼女はクスッと笑った。


「楽しみにしてくれたの?」


「ああ、めっちゃ美味しそうな匂いがさっきからただよってきてる」


 正直に打ち明けた。

 ちょうど小腹がすいてくる時間になってることもあって、最高にクリティカルを食らってる。


「どうぞ召し上がれ」


 改めて許可が出たので、俺は大きな白い皿を取り出して二人の間に置く。

 そして一気に袋を開けてクッキーを出してしまう。


「わぁ、ワイルドなんだね」


 天王寺は目を丸くしている。


「おっと、ちょっとがさつすぎたかな」


 言われて初めて気がつき、反省した。

 男同士ならともかく女の子相手だとないのかもしれない。


 ましてや作ってくれた本人だしな。


「ううん、待ちきれないって感じが伝わってきて、好ましいわよ」


 ところが天王寺はうれしそう微笑むだけで、気にしていないようだ。

 これが作り手の感覚ってやつなのかな。


 小説なんかもそうだけど、作ってる人の感覚はそうじゃない人には理解できない領域があるもんなあ。


「遠慮なく」


 と手を伸ばした時、天王寺が待ったをかけた。


「手は洗った?」


 何となくだがどうでもいいとは言えなかったので、立ち上がって水道で洗う。


「天王寺も使ってくれ」


 蛇口の真下にかけられてる白いタオルで手を拭きながら彼女にもすすめる。


「ありがとう」


 天王寺はタオルは使わず、ハンドバックから取り出したハンカチを使う。


「ハンカチってバックに入れてるんだ?」


 何でポケットに入れてないんだろうと不思議に思った。

 それが彼女に伝わったらしく、苦笑気味に返事が来る。


「女子の服って基本ポケットはないし、あったとしてもかざりで何も入らないのよ。入るタイプも中にはあるかもしれないけど」


「えっ、そうなんだ?」


 女子のファッション、あんまりじろじろ見たことないけど、そんなことになってるのか。

 そりゃ女性はみんな常時ハンドバックを持ち歩いているわけだ。


「また一つ知識が増えた」


 賢くなれたかどうかは解らないが。


「やばいな。女性のファッション、ポケットありで出しちゃったかもしれない」


 異世界ファンタジーだから現実とはファッションが違うんです、でごり押しするしかないか?


「そんな描写なかったと思うけど」


「うん?」


 あまりにもさりげなく言われたので、あやうく聞き流すところだった。


「ヒカミ先生の作品の内容はほぼ覚えてる自信あるもの」


 笑顔で断言される。


「お、おう、そうか」


 そう言われると大丈夫な気がしてきた。


「ファンってありがたいなあ」


 まさか悩みが一瞬で解決してしまうとは。


「すてきな作品を書いてくださる作家さんもありがたいわよ。むしろ作家さんあってのファンじゃないかしら」


 天王寺はそんなことを言うが、個人的にはあまり好ましくない。


「否定する気はないけど、ファンあっての作家だってのが俺の意見かなぁ」


 だって作家は読んでもらえないとはじまらないからな。


「ふふ、やっぱりヒカミ先生ってすてきな人だわ」


 天王寺はうれしそうに笑う。

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