エピローグ
「天王寺、適当に読んでいいぞ」
と俺が言うと、彼女は目を輝かせた。
「いいの? せっかく遊びに来たのに?」
すぐに顔をくもらせる。
遊びに来たのに、俺のことをほうって漫画に走っていいのかと懸念してるのだろう。
「俺も適当に読んでるさ」
気にするなと笑う。
適度に漫画を読み返すのは楽しいもんだからな。
それにもしかしたら天王寺だって好きになってくれる作品があるかもしれない。
そう考えるだけでわくわくしてくる。
同じものが好きな仲間が増えるって最高に楽しいことだ。
「そう? じゃあ遠慮なく」
天王寺はきょろきょろと探す。
「どうせなら、読んだことないやつにしたらどうだ?」
「ええ」
天王寺が選んだのはネットから書籍化した『ダンジョンの覇者になる』という作品だった。
「お、それ面白いよ」
「知ってる。小説は買ってるもの。漫画までは手が回ってないだけ」
天王寺はニコリとして言った。
さすがのチェック力だなと感心する。
「俺は何を読もうかなぁ……」
迷った挙句、船場先生のを読むことにした。
女性ウケはよくないかもしれないけど、同じ作家としては勉強になるんだよね。
それに単純に面白いし。
勉強になりつつ楽しめるってのが個人的には重要な点だった。
たっぷり一時間くらいは漫画を読んで過ごすと、天王寺が大きく背伸びをする。
「あー面白かった。これ、買おうっと」
彼女はそう言うやいなや、スマホを取り出してすばやく画面をタッチしていた。
「お、オンライン注文?」
「そそ。書店のウェブストアだよ」
なるほど、それなら今ここでも注文ができるもんな。
それにしても行動が早いな。
「思い立ったが吉日ってやつか?」
聞いてみると、彼女は顔をこっちに向ける。
「だって少しでも早く買ったほうが作家さんの応援になるでしょ?」
「そのとおりだな」
俺は大きくうなずく。
「どうせなら書店さんで買えば書店さんの応援にもなるんでしょ?」
「全面的に正しいな」
作家の応援、書店の応援、両方の観点から申し分ない。
「まさに読者のかがみだな。最高だ」
拍手すると、天王寺は得意そうに微笑む。
「本好きの一員として業界を支えるべく、できる範囲で頑張らせてもらわなきゃね」
「ありがたい」
天王寺のような読者は本当にありがたい。
「作家を代表してお礼を言わなきゃ」
「気にしないで。こっちこそ、素敵な作品を読ませてもらってるお礼をしたいくらいなんだから」
拝もうとすると、彼女は女神のような笑顔で応えてくれる。
実際、女神様レベルにありがたい存在だった。