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勘違い?

 クリエーター支援と同じだと考えれば気は楽だ。


「あんまりお願いするのもずうずうしい気はするけど」


「そう? ずうずうしいのは私じゃない?」


 天王寺はそんなことを言う。


「天王寺が? どの辺がずうずうしい?」


 俺にはさっぱり解らなかった。


「好きな小説を書いてもらうために、こうして押し掛けてるんだもの。ずうずうしいと言えるんじゃない?」


 彼女の言葉にはなるほどと思う。


「俺はそうは思わないなぁ」


 そう切り返す。


「もしかしたら作家だからかもしれないが」


 ありがたいと感じても、ずうずうしいなんて思わない。

 そんなことを思うのは罰当たりな気がする。


「それはあるかもしれないわね。ヒカミ先生のファンに私、刺されちゃうかも」


「だからそれはないだろう?」


 天王寺にはジョークのつもりはなさそうだけど、俺は本気には思えない。

 熱狂的なファンがいるならもうちょっと売れたり、ファンレターがくるんじゃないだろうか。

 天王寺はそっとため息をつく。


「作家さんからすればそう思えるのかしらねえ」


 こいつは話が通じないと言わんばかりだった。

 

「まあファンの心理は作家本人は解らないというのは否定できないよ」


 だって本人なんだから。

 肩をすくめて言い訳をすると天王寺はプッと吹き出す。


「それはそうよね」


 笑みをひっこめると、彼女は言った。


「摂津くんさえよければ今日も作らせてね」


「うん」


 俺は素直にうなずき、そして首をかしげる。


「でも食材、あるかな?」


「見せてもらってもいい?」


 天王寺はそう聞いてきた。

 断る理由がないのでうなずいて許可を出す。

 

 天王寺から手土産を受け取り、キッチンに向かった。


「あなたはお菓子でも食べて待っててくれる?」


「うん」


 俺は逆らえず、彼女の言葉に従う。

 今日のお菓子はビスケットだった。


 つまんで食べてみる、美味い。


「美味しいな」


「そう、よかった」


 天王寺はうれしそうに笑い、冷蔵庫の中を確認する。


「どうしよう。冷やしうどんに野菜炒めになりそうだけど、それでもいい?」


「何でもいいよ。と言ったら怒られるんだっけ」


 彼女の問いに俺は質問まじりに応じた。

 何でもいいと言ったら昔おふくろに怒られた記憶がある。


「今回は別にいいんじゃない? 私は気にしないから」


 天王寺は笑って許してくれたのでほっとした。

 彼女は俺の目の前に座ったので、立ち上がってお茶をいれる。


「あっ、ごめんなさい」


 彼女はあわてたようだ。


「いや、いいよ。一応天王寺が客なんだから」


 うっかり忘れそうになった俺が言えたことじゃないかもしれないが。


「じゃあありがとう」


 天王寺はよく笑うよな。

 こうしてみるとさ。

 

 学園で見かける表情からじゃ想像もつかない。

 お茶をいれたコップを渡しながら話題に出す。


「学園だとあんな風にクールな感じなのか?」


「ああ、あれ」


 天王寺は表情を少しくもらせる。


「男よけのつもりなんだけどね。クールなところもいいって言われて困っちゃって」


 彼女はめんどうそうな顔だった。

 モテる女はつらいんだなとしみじみと思う。


「大変なんだな」


 どう言えばいいのか解らず、ひとまず相槌を打つ。


「男ってそういうものなの? 摂津くんに聞いても、困るだけかもしれないけど」


「うーん。男ってかわいい女の子に本当に弱いからなぁ……」


 俺は男なので、それなりに気持ちは解った。

 天王寺なら明るく笑ってても、クールに突き放す感じでも人気は出るだろうな。


「そうなんだ」


 天王寺はそっとため息をつく。


「女の子だって自分好みの美形男子には弱いんじゃないか?」


「タイプの男性なら多少はね。イケメンなら許されるってのは幻想よ」


 俺の問いに天王寺はやんわりと、それでいてはっきりとした意思を込める。


「そんなものか。俺だって美少女なら何でもいいと思わないしな」


 結局のところそういうものなんだろう。


「摂津くんはたしかにそういう感じよね」


 天王寺は認めてくれる。

 どこかうれしそうなのは気のせいだろうか。

 やっぱりファンとしては作家が恋愛にうつつをぬかすのは困るってことかな?


「天王寺みたいに趣味が合う子は別だけどな」


「そうなの? 迷惑じゃないと解釈しておくわね」


 天王寺はにっこり笑う。

 営業スマイルって感じだなぁ。

 まあ俺のもお世辞だったし、それへの対応とすれば妥当かな。


 二人でビスケットを食べるが、話題が途切れてしまう。

 共通の話題なんてすぐには思いつかないな。

 

 なぜなら女の子と話す機会なんてめったにないからだ。

 どうすればいいんだろう?

 なんて思ってると、天王寺が口を開く。


「昨日、読めてうれしかったけど、無理はしなかった? 大丈夫?」


 心配そうにいたわってくれる。


「大丈夫だよ。やる気もらえたから、いつもより早く書きあがったくらいだよ」


 俺は心配するなと胸を張った。


「そう? ならよかった」


 彼女はほっと胸をなでおろす。

 自分が負担になったんじゃないのかって不安は消えてなかったようだ。


「気にしないでくれよ。無理だったら描かないんだからさ。それよりも感想を聞かせてほしい」


 と俺は要求する。

 彼女がどう思ったのか、知っておきたかった。


「そうね。相変わらずオスカーはかっこよかったわ!」


 オスカーとは主人公の親友の名前である。

 そのまま天王寺は三十分くらい延々と感想を言い続けた。


「私って世界で一番幸せな女じゃないかしら。大好きな作品をすぐに読めて、なおかつ作家さんともこうしてお話しできるんだから!」


 天王寺は感動しているらしい。

 たしかになかなかない展開だなとは思う。


「大げさだな」


 同時に俺は苦笑するしかない。


「大げさじゃないわよ、信じて」


 天王寺はそっと俺の手を握ってじっと見つめる。

 熱い目で凝視されると、ドキドキしてきた。


「う、うん。信じよう」


「よかった」


 彼女は太陽のような笑みを浮かべる。

 反則的な威力だけど、少しずつ慣れてきたかもしれない。


 彼女はニコニコしてじっと見ていて、自分が何をしているのか気づいていないようだ。

 

「天王寺、その手を」


 おそるおそる指摘すると、彼女はハッとして手をすばやく離す。


「ご、ごめんなさい」


 耳まで真っ赤になってうつむいてしまう。

 

「いや、いいんだよ」


 別に不愉快だったわけじゃない。

 どっちかと言えばうれしかった。


 女子と手を握った記憶なんて、まったく存在していない。

 男友達すらいないぼっちだからな。


「今日は何かゲーム持っていたかい?」


 気まずい空気を払しょくするため、無理やりに話をそらす。


「ううん。今日はお話をするだけだと思ってたから」


 天王寺の答えはもっともだった。

 流れが流れだったから、遊ぶ道具を持ってきてないのは不思議じゃない。


 俺の言い方も悪かったんだよな。

 話が終われば何か遊ぼうと返しておけば、天王寺はそのつもりで来ただろう。


「せっかくだし、まだ時間あるよな? 何かしようか」


「いいけど、何をする? マッサージ?」


 天王寺はそう言った。

 マッサージかぁ。


 悪くはないんだけど、二日連続だとちょっとという気もする。

 もっとも断るのも何だか悪い気がするので、言い方を選ぶ必要はあった。


「つらくなったらお願いしようかな」


「うん。遠慮しないでね」


 天王寺は腕まくりをしてみせたので、思わず吹き出す。

 意外とユーモラスなところがあるんだな。


 ギャップがかわいい。


「昨日の今日だからそこまでじゃないんだよな」


 どうせやってもらうなら耳掃除とかだが、さすがに言えなかった。


「他にやってほしいことってある? たとえば膝枕とか」


「膝枕?」


 思いがけない提案に、声が自然と高くなる。

 意外にもほどがある内容だった。


「え、いいのか?」


 膝枕ってやってもらうほうもだが、やってくれる女の子もわりと恥ずかしいんじゃないか?


「いいわよ? 摂津くんだけ特別ね」


 天王寺は恥じらいながらも、きっぱりと言う。

 この表情は反則だろ。


 思わずそんなに俺のことが好きなのか? と錯覚しそうになる。


「あんまり特別を連呼しないでくれ。勘違いしそうになる」


 一回くらいは注意しておいたほうがいいだろう。


「えっ?」


 天王寺は一瞬きょとんとする。

 そして次に顔から火が出そうなレベルで赤くなった。


「ご、ご、ごめんなさい」


 見るからに激しく動揺している。

 自分の言動がどう思われるのか、まったく気づいていなかったようだ。


「いや、気にしてないよ。ただ、注意してもらったほうがいいだけで」


「別にそこまで勘違いというわけでも」


 ごにょごにょ言ったのでよく聞き取れない。

 まるで本当に俺に好意があるって思えそうな言葉が出た気がするが……。


 さすがに気のせいだよな。

 ヒカミコウという作家に対する好意は本物だと解釈するべきだろうか。


「そ、それより!」


 天王寺は大きな声を出して強引に話題転換をはかる。


「よかったら、漫画を見せてもらえたらなって思うんだけど」


 こっちだって気まずい空気は避けたいので乗っかった。

 

「いいよ。俺の部屋に移動しようか」


 そう言って誘う。

 ひとまず問題や疑問は先送りにしたが、別にかまいやしないだろう。


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