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天王寺は世話を焼きたい

 朝起きると、さっそく天王寺から「おはよう」というメッセージが届いていた。

 履歴を見ると七時前である。


「あいつ朝早いなあ」


 思わずつぶやき、返事を送っておく。

 朝一番で誰かとこうしてメッセージをやりとりするなんてなぁ。


 そう思いながら着替えて顔を洗うと、スマホが振動してメッセージの新着を知らせる。

 まさかと思って確認してみたら、やっぱり天王寺からだった。


「朝ご飯どうするの? もしかしてパン?」


 図星である。

 ごまかしても仕方ないので、正直に対応した。


「よく解ったな。もしかしてエスパーか?」


 冗談めかした返しに、天王寺は感心してくれなかったらしい。


「聞いた話から推測しただけなんだけど……もうちょっと健康に気を使ってほしいと思うのは差し出がましいかしら」


 彼女のメッセージには心配と不安がにじみ出ている。

 ごちゃごちゃ言われたくないという気持ちはたしかにあるんだが、同時に心配か

けて悪いなという思いもあった。


 だからとして一念発起して生活習慣を改善しようと思うかと聞かれたら難しいな。


 ぞう考えていると、次のメッセージが届いた。


「ごめんなさい! 不愉快にさせちゃったかも」


 これには気を回しすぎだなと思ったので、早めに返しておこう。


「気にしてないよ。心配してくれてありがたいとは思ってる」


 何というか、メッセージのやり取りだと相手の感情を読み取るのが難しいから、コミュニケーションに齟齬が生まれやすいな。


 よし、このことは伝えておこう。


「ただ、会って話したほうがいい気はする。俺は怒ってないけど、何か伝わってない気がするから」


 送るとやはり返信は早い。


「そうだね。了解! いつ話せそう?」


 決断も速いなーと感心する。

 いつ話せるか、か。


 学園はできれば勘弁してもらいたい。

 天王寺に話しかけられたらどれだけ注目を集めるか、どれだけの人間に詮索されるか解ったもんじゃない。


 想像するだけで胃が痛くなる。

 ファンミーティングもけっこう注目されてた気がするけど、あれ久宝寺先生のファンの集まりで、先生と仲がいい俺にも好意的な人たちばかりだったからよかったんだよ。


 学園に関してはぼっちの俺に好意的な層なんて存在を期待するほうがおかしい。


「放課後、どっか気兼ねなく話し合える場所がいいな」


 と提案しておこう。

 ぼっちでどこかに遊びに行くことがまずない俺と違い、天王寺ならどっかいい場所を知っているだろうと期待する。


 やはり返事は迅速に届く。


「一番いいのは摂津くんの家だと思うけど?」


 たしかになとつぶやいた。

 俺の家なら人目を気にしなくてもいいし、堂々と相談もできる。


 だが、同時に疑問も生まれた。


「二日連続で俺の家に来るって、天王寺は大丈夫なのか?」


 そんなにヒマじゃなさそうだけどな、と暗に告げる。


「今日なら平気よ」


 すぐに返事が届いた。

 そうか、たまたま二日連続で大丈夫だったりしたのかな。


「そっかぁ。じゃあ今日の放課後、昨日と同じ時間でもいいかな?」


「いいわよー」


 天王寺は恒例の即レスポンスである。

 予定は決まったのがありがたい。


 しかし二日連続で女の子がうちに来るとはなぁ。

 まあそういう意味はみじんもないだろうから、意識しないように気をつけないと。


 朝食はとりあえず菓子パンとカットサラダを買って食べる。

 個人的には別に不満はないんだけど、天王寺からすればツッコミどころがあるらしい。


 上を見ればキリがないのかもしれないが。

 昼飯はいつも通りテーブルの上に置いてある千円札をとる。


 これでコンビニでパンでも買えばいいんだけど、天王寺はいい顔しないかなぁ。

 しかし、他に何の手も思いつかないのでコンビニに行こう。


 と思ったけど、まっすぐ学校に向かった。

 昼食中にコンビニに行くのは校則で禁止されてないので、昼休みでもいいかと思ったのだ。


 どうせ時間潰すのに苦労するからな!

 コンビニに行って戻る時間が生まれると思えばいい時間の使い方と言えるかもし

れない。


 今日は朝天王寺とすれ違うということはなかった。

 昨日は偶然だったんだろうなー。


 今日も元気に寝て過ごす。

 どうせ誰も話しかけてこないし、先生だって俺を当てることはほぼない。


 ……計算通り、昼になったのでのそりと起き上がって教室を出る。

 廊下を歩いていると、天王寺を遠くに見かけた。


 あいにくと女子たちに囲まれている。

 天王寺に負けず劣らず華やかなギャル風美少女に、ちょっと気の弱そうな美少女、それからクールな印象の美少女という、美少女しかいないグループだ。


 それでも天王寺の美貌はひと回りもふた回りも上に見える。

 まあ俺の信者っていうひいき目がちょっとくらいは入っているかもしれないが。


 天王寺はちらりとこっちを見て、困った顔をする。

 けど、それは一瞬くらいだったので誰も気づかなかった。


 方角的に俺が下駄箱に向かってるのは予想できただろうし、となるとコンビニでも行くんだって推測は可能なのかな。


 ここで天王寺と遭遇するとはなぁ。

 キラキラ華やかな彼女と、いなくなっても誰も気づかない陰キャな自分っていう対比を実感するハメになってしまった。


 そっとため息をついて靴に履き替え、校門をあとにする。

 学園の敷地を出ると少し空気が軽くなるのは、俺の意識の問題なのかね。


 コンビニはほんの数分の距離にあるし、この時間帯ならまだまだいろいろと売ってる。

 菓子パンにするか、サンドイッチにするか。


 野菜サンドとミネストローネとあんパンを買って、イートインしよう。

 幸い席が二つほどあいてるので、スーツを着たサラリーマンと私服姿のお姉さん

の間に腰を下ろす。


 二人はちらりとこっちに目を向けたがすぐにそらしてしまった。

 できれば隅の席がよかったけど、こればかりは仕方ないよなぁ。


 無料Wi-fiを使ってネットを回遊しつつ、パクパク食べる。

 コンビニのいいところは、こうしてのんびりできるところだな。


 十分の時間制限あるけど、昼休みが終わる前に戻らないといけない俺にはちょうどいい。

 と思ってたら天王寺から「コンビニ?」と不安そうなメッセージが。


 話すをするのは放課後だったはずだけど、心配が抑えきれなかったのか?

 「ちゃんと野菜買ったよ」と写メを撮って送る。


 パンだらけの生活よりも健康にいいのはたしかだろう。

 栄養の専門家から見たらツッコミどころいっぱいかもしれないが、そこまで考えきれない。


 左右の目が気になるので執筆はせず、読むだけにしておく。

 お昼に続きを投稿する人もそこそこいるんだよな。


 朝に更新するか、昼に更新するか、夜に更新するかは作家ごとに違う。

 俺は一番人が多い夜を選んでるけど、更新する時間が一番多いところでもある。


 ライバルが少ないほうがいいって人もいるんだろうなー。

 のんびりした時間はやがて終わりを迎え、学園に戻らなきゃいけなくなる。


 もう少しで解放されると思えば、何とか勇気が出るってものだ。

 さっさと終わらせれば天王寺が家にやってくる。


 ご褒美タイムでいいのかね。

 何か今日は違う気がするけど。


 放課後、当番も部活も何もない俺はまっすぐに家に戻った。

 相変わらず両親はいない。


 今日はどうしようと思ったけど、昨日掃除したところだからいいかな。

 そんなに汚れるほどようなことをしてないもんな。


 玄関のチャイムが鳴ったのは昨日と同じくらいの時間だった。

 ドアを開けると、天王寺が立っていたので中に入れる。


「お邪魔します」


 そう言った天王寺の今日の私服は赤いニットにジーンズ、昨日見たハンドバックにやはり紙袋つきだ。


「これおみやげね」


 そう言って差し出す彼女の手にはばんそうこうが増えている。


「ありがとう」


 気づかないフリをして受け取った。

 キッチンまで通してお茶を入れる。


「それで? 何から話そう? 昼ならサンドイッチとかだよ」


 俺はさっそく答えた。


「わ、単刀直入」


 天王寺は目を丸くする。

 いきなり直接的に本題に入るのはそんなに意外なんだろうか。


「気まずくなりかねないことはさっさと終わらせるにかぎるだろ?」


「なるほど、そっかぁ。摂津くんはそう思うんだね」


 天王寺はふむふむとうなずく。


「じゃあ私も単刀直入で。差し出がましくなかったらなんだけど、私がご飯作ってもいい?」


 彼女の提案は正直予想していなかったわけじゃない。

 だからって実際に言われて驚かなかったかというと、そんなこともなかった。


「ご飯作るって、どういうことだよ? 夜は無理だけど、他は無理だろ?」


 朝とか昼とかはどうするつもりなんだろう。

 弁当を作ってる時間、天王寺にあるとは思えないけど。


「朝の分は作り置きできるし、昼はお弁当を渡せると思う。ダメかな?」


 彼女は真剣な表情だった。


「ダメっていうか、そこまでされても困るっていうか」


 いくら何でもやりすぎじゃないかって気はするんだよな。


「え、ダメなんですか?」


 彼女はきょとんとする。

 敬語にも戻ってしまった。

 えっ? これ、俺がおかしいのか?


「ネットだとクリエーター支援とかあるでしょう?」


「そう言えばそういうのあるな」


 俺は使ったことないけど、使ってる作家さんがいることは知ってる。


「ほしいものリストを公表して送ってもらってる人もいるでしょう?」


「ああ。そういう人もいるね」


 やはり俺はやったことがないけど、使ってる人はいるなぁ。


「同じことじゃない?」


 え、そうなのかなぁ。


「それとも摂津くんは、クリエーター支援なんていらないって思うタイプ?」


「いや、してほしいと思ってるタイプだよ」


 俺って未成年だからな。

 親の許可なしにできることなんてほとんどない。

 もしかしたら使えるサービスはあるかもだけど、ためらっちゃうんだよな。


「私がやろうとしてるのも支援でしょ?」


「言われてみればそうかもしれない」


 何だかそんな気がしてきたなぁ。

 クリエーター支援だって自分の住んでるところに荷物送ってもらうわけだもんな。

 郵便局留めを使ってるとしても、あんまり変わらないというか。


「俺が難しく考えすぎてたのかな」


「そうよ」


 天王寺にきっぱり言い切られ、そんな気になった。

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