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MBSラジオ短編賞1応募作品<ラディーレンの輪>

作者: アクアビット

「小説家になろう」初参加です。

「MBSラジオ短編賞1」応募作品として投稿します。

よろしくお願いいたします。

前日から積もった雪。

家を出て、新しい雪を踏みしめながら歩く中学生の少年、純一。

歩き出してすぐに、後ろから声を掛けられた。

「純一さん」

振り向く前から判る、知人の声。

落ち着いて、馬鹿に丁寧な言葉使い。

「雪合戦を、しませんか」

「なんで、俺と」

同じ歳の高富少年。

地元で名士と呼ばれる家柄の長男坊が、どうして最下層で暮らす純一に構うのか。

ばかにして、からかっているとしか思えない。

「僕がキミと、遊びたいからですよ」

断りきれずに連行された、近くの公園。

木の枝に積もった雪を掬う純一。

雪玉を作りながら、向こうで友人を増やす高富を見守る。

学級委員長でもある彼には、他人を惹きつける魅力が確かにあった。

純一にはないものを、高富は最初から総て、持っていた。

「チームを分けましょう。僕と純一さんがリーダーです」

「じゃ、俺。高富チーム」

「私は、純一さんのチームに入るね」

「俺は、どっちでもいいや」

「じゃんけんしようぜ」

始まった雪合戦。

空気は凛と冷えて、風に晒す頬は切れそうに痛い。

なのに、公園から笑い声が耐えることはなく、みんな汗ばむほどに雪合戦に熱中した。

小さなかまくら状の本陣を守りながら、相手の陣地を壊すか、大将に雪玉をぶつけると勝ちだ。

「前田。おまえ左から回りこめ」

「了~解~」

純一の指示は的確だ。

あずさは、素早いから囮な」

「うん、わかった」

頬を赤くして、意気込む梓。

「(雪玉に)当たるなよ」

「大丈夫。当たらないよ」

瞳はきらきらと嬉しそうだ。

純一が陣地からそっと顔を上げて、相手を確かめた。

高富は、正面にいる。

「俺と梓が正面から行く。桐嶋キリは右から行ってくれ」

「おうよ」

一旦身を隠して呼吸を整えた。

仲間と息を合わせる瞬間だ。

「合図するぞ」

抑えた純一の声に、全員が強く頷く。

「3、2、1……GO!」

銀世界に飛び出す、色とりどりの仲間達。

雄叫びを上げて、囮の梓を利用しながら正面から突っ込む純一。

「高富い!」

待っていたように立ち上がり、淡い笑みで迎えうつ高富少年。

「……やっぱり。正面から来ましたね」

優雅な立ち居振る舞いは、学校で書道を習っている時と大差ない。

「はあっ!」

「ふっ!」

大将が互いに正面から、渾身の一撃を放つ。

丁寧に固めた雪玉が、指から離れ、加速して相手を狙い飛んでいく。

「当たれ!」

「避けろ、純一!」

「高富、伏せろ!」

仲間達の声が公園に響いた。

同時に、硬い雪の塊がぶつかり合う、乾いた拍手のような音が一回。

思ったより大きかったその音に、驚いて顔を見合わせる純一と高富。

「高富、今の」

「ええ。見ました」

急いで駆け寄る二人。

「正面衝突したのか」

「凄い確率ですね」

楽しそうに笑う高富。

「俺と同じくらいに硬い雪玉、作ったんだな」

雪玉を作っていた自分の執着心を思い出し、高富に重ねる。

(口を尖らせて、一心不乱に、雪玉を作ったのか……おとなしそうな、こいつが)

「……あれ」

欠片を確かめようとしゃがんだ純一が、首を傾けた。

「欠片がないぞ」

「他の雪と混ざったのではないでしょうか」

「いや。俺のは枯葉が少し入ってたから、判るんだ」

「それほど粉々に、なってしまったのかもしれませんね」

「うーん」

腑に落ちない純一の頭に、後ろから当たる誰かの雪玉。

「隙ありっ!」

「痛っ!」

勝利を喜ぶ高富チーム。

それどころではない純一。

(消えたように見えたけど。気のせいなのか……)

高富は、学校でも純一を頼った。

「純一さん。さっきの授業なのですけど」

試されているのかと思う。

「おまえに解らないことなんて、ないだろう。高富」

「確認したいのです」

穏やかに、親しげに笑う高富。

「アタマ良いからな、純一は」

マラソンの授業で、隣に並んだ桐嶋キリと話した。

高富は、身体が弱くて見学だった。

本人は参加したいのだが、親が許さない。

「家柄じゃなくて、おまえ自身を評価してるんだと思う」

「そうなのかなあ」

「羨ましいよ。高富に認められるなんてさ」

中学校を卒業後、高富に誘われるまま同じ高等学校に通った。

肩を並べて3年間、一緒に勉強を続けた。

高校最後の夏、純一は担任の先生から呼び出しを受ける。

「純一おまえ、大学進学の意思はないと聞いたんだが」

「はい。就職します」

家が貧乏だから、これ以上の進学は望めない。

知識を活かした技術屋になろうと、地元の工場に見学に行き、仮ではあるが内定も貰った。

「勉強が嫌いなわけじゃないよな」

「それは。まあ」

高富とかわす議論は楽しかった。

勉強の内容だけでなく、そこから派生した互いの夢や人生観を語るのも好きだった。

「実はな」

担任の先生は、周囲に人なんかいないのに声を潜める。

「高富が」

またか、と思った。

この学校に上がるとき、高富が家まで誘いに来て、親を説得して帰って行った。

お陰でこの3年間、しっかり勉強は出来たが、学費その他を捻出し続けた親には頭が上がらない。

「おまえと一緒でないと進学しない、って言い出したんだ」

「そうですか」

「高富は大学側から、特待生で来て欲しい、って誘われているんだ。それをおまえ一人のことで蹴るなんて、どういうことなんだ」

「俺には判りません」

「純一が悩むのは学費のことか」

「はい、そうです」

それだけだ。

それが一番、重要だ。

この国は、勉強したい人の応援をしない。

「もし。タダで行けるとしたら、おまえ、高富と一緒に勉強を続ける気はあるのか」

「そんなこと」

「高富は、そう言っている」

大きなため息が純一の全身から零れて落ちた。

力を抜いて椅子に座り直す純一を、不思議そうな表情で見守る担任の先生。

「……分かりました。進学します」

==========

『頭脳の高富・技術の純一』

大学時代についたあだ名のようなものだ。

研究所に入ってからも、それは二人の代名詞になっていた。

幼馴染み以上の信頼関係を結ぶ二人の、息の合った仕事ぶりは高く評価されていた。

研究所から現場へ、派遣される形で舞い戻った純一を高富が訊ねた。

==========

「あれから、何年経ったんだ」

「懐かしいですね。今夜の雪で思い出したのですか」

想い出から、二十数年が経っていた。

「あれは、絶対、消えたんだって」

「あり得ないでしょう。その為に学んだ物理学ですよ」

足元には、熱いくらいの達磨ストーブ。

置かれたヤカンから湯気が音を立てている。

しゅうしゅうと、湯の沸く音だけが空間に吸い込まれる静かな夜。

「思いがけず雪見酒になりましたね」

カウンターの向こうから、店主が二人に皿を差し出した。

「へい、お待ち。焼鳥と、おでんね」

受け取った純一が笑顔を見せる。

「ありがとう。ああ、美味そうだ」

「この店に来たら、純一さんは必ず、焼鳥とおでんですね」

「ああ。これを食べないと帰れない」

鍋に立てられた徳利を摘み出して、熱燗をお猪口に注ぐ。

「それで。報告って、何」

啜るように呑む癖のある純一。

「まだ公開はされていませんが。実験の計画変更が、やっとICFAに承認されました」

ICFA=国際将来加速器委員会。

高富と純一は、超・大型加速器の実験に携わっていた。

「変更計画の提出は夏前だったぞ。何ヶ月かかったんだ」

古い友人に会えた嬉しさに、アルコールの勢いも手伝って、純一の口調は甘えて拗ねた感じになっていた。

「認められなかったらどうしてたんだよ」

「当初の計画のまま推進されたと思います」

事も無げに返す高富。

彼の頭脳に失敗はない。

「そんなに危惧することでもないと思いますよ、僕は。最初の計画だって、充分計算され尽くした数値でしたから」

「いや。危険過ぎる」

木製のカウンターに、強めに置かれた空のお猪口。

「強過ぎる力は何も生まない」

純一の声が小さくなる。

「むしろ、総てを……消してしまうかもしれない」

(……あの日の雪玉のように)

「どうしたのですか。らしくないですね」

明るい高富の声に、我に返る純一。

「ああ、うん。そうかな」

「ヒッグス粒子の研究は、世界的にも始まったばかりです」

少し疲れた高富の理知的な顔が、親友に夢を語り、少年の輝きを取り戻していく。

「この国が、国際拠点になれるチャンスなのです。成功すれば、ノーベル賞ですよ」

「そうだな」

「この研究は社会への貢献度も高いのです。環境エネルギー問題への新しい提案。医療や農業の進歩」

「確かに。がん治療や核廃棄物の処理に使えるなら、俺だって強引にでも推進したいよ」

青白かった頬が室温とアルコールでほんのり染まり、饒舌に語り出す、研究者・高富。

「僕はこの研究に、人生を賭けるつもりなのです」

ILC=国際リニアコライダー。

物質に質量を与える『ヒッグス粒子』の、精密測定をする、世界唯一の実験場所に選ばれたのが日本の東北地方だった。

直線距離で約二十キロメートル。

電子と陽電子を正面衝突させて、人工的なビックバンを作り出し、宇宙が出来上がるまでの過程総てを、観察する巨大な地下施設。

「純一さんは、どう思いますか」

「何が」

カウンターに片肘を突き、舟を漕ぐように頷いていた純一。

「可能性ですよ。キミは、この実験で何を、知りたいですか」

その質問に、純一は暫く無言で高富の顔を眺めた。

店主が空の皿を下げ、酒のおかわりを勝手に注ぐ音を、片方の耳で聞きながら。

「タイムマシン、かな」

その応えに、高富は満足そうに頷いた。

「やはり。そうでしたか」

高富は、ばかにして笑ったりしない。

幼い頃抱えていた純一の劣等感は、高富自身が拭い去ってくれた。

夢のような仮説を、本気で追いかけるのが、俺達の仕事で、選んだ道なんだ。

「おまえは」

反対に訊いてみた。

「高富は何を、追いかける」

「……脳の解放です」

じっくり考えて、高富は誓うように呟いた。

「人間の脳って、殆んど使われていないじゃないですか。もったいないですよね」

「高富は、他の人よりも使いこなしてると思うけど」

「ほんの数%、解放するだけで発狂するとも言われている未知の領域が。自分の身体にあるなんて素晴らしいと思いませんか」

「研究者として」

「はい。個々における脳の解放で、世界が変わると、僕は思っています」

「……平和な世界に」

「はい!もちろんです」

==========

外に出ると、気温は更に下がって、道路が凍っていた。

「おお、寒い」

「そこ。滑るぞ。気を付けろ」

送り出す店主の声を背中で聞き流して、暖簾をくぐる純一。

先に出た高富の足元は覚束ない。

「大丈夫。僕だって、雪国の子だよ。雪くらい……あっ!」

「ほらみろ」

滑って転んだ高富の手を引こうと、笑いながら近付く純一。

「おい」

暗がりから声がした。

敵意が剥き出しの唸り声に、純一の身体は勝手に身構える。

「お前たちの実験をやめろ」

目だし帽の上から黒いキャップ。

全身黒の防寒着。

くぐもった濁声は、そう言った。

「何だおまえ」

高富の手を引きながら、純一は身体の向きを変える。

「何言ってんだ。おまえ、誰だ」

「危険な実験は辞めろと言ってんだ」

むしろおまえが、と言いたくなる位危険な香りを漂わせた大柄な男は、ぶつぶつと唸るように喋りながら純一に迫る。

「俺達の山を汚すんじゃねえ」

「逃げましょう、純一さん」

立ち上がった高富が後ろから声を掛けるが、拳を握りこんだ純一が退く気配は無い。

「高富。先、帰ってろ。俺の部屋の鍵」

お坊ちゃん育ちの高富と違って、負けん気の強い純一に喧嘩は日常だった。

白衣を着た武闘派だって、この世には存在するんだぞ、誰だか知らないオッサンよ。

「俺はコイツを『説得』してから帰るよ」

後ろ手に放った部屋の鍵を、受け取った高富が呻いて倒れた。

「高富?!」

慌てて振り向いた純一の背中に重たい衝撃。

世界が暗転する。

==========

どのくらい倒れていたのか。

「純ちゃん。おい、大丈夫か」

自分の名前を呼ぶ店主の声が、遠くから聞こえて、だんだん大きくなってくる。

意識が戻ると同時に、身体のあちこちが軋んで痛んだ。

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

「いや、びっくりしたよ。急に怒鳴り声が聞こえたから」

「俺も驚いた。刺されなくて良かった」

肘や腰を擦りながら、冷え切った身体をゆっくり動かす純一。

「あ、そうだ。高富は」

近くで同じようにうつ伏せていた高富に近寄り、抱え起こす。

「大丈夫か、高富」

「うう、ん……痛いです」

「骨は」

「……折れてないと思います、多分」

雪の上に座り、高富に積もった雪を先に払う純一。

「全くいい迷惑だよ」

吐く息が白い。

「俺達の山とか言ってたから、地元民だな」

頷く高富の口からは、ため息のような音しか出ない。

「例えば俺が死んだって、この計画が止まることはないのにな」

焼鳥屋の店主が、励ますような声色になった。

「あれかい、純ちゃん達はリニア何とかって工場建設の関係者だったのかい」

「うん。そうだけど」

「俺は応援してるよ」

実験施設が完成すれば、世界中から人が集まる。

「俺は、世界を相手におでんを売りたいんだ」

「はは……そりゃ、凄いや」

「頑張ってくれよ!負けるな」

「うん。ありがとう」

==========

雪を踏みしめ、家まで帰る。

吐いた息が凍って落ちそうな寒さだった。

「とんとん拍子、って訳にはいかないよな」

鍵を開けながら、黙ってついてきた高富に向かって呟く純一。

「妨害は想定済みだけど、やっぱ、キツイよ」

部屋に上がりながら、高富が静かに返す。

「さっきの暴漢ですが。本当に地元の人かは判らないですよ」

「え」

「僕達がこの計画を進めることで、予算を削られる他の研究所があるということも、お忘れなく」

察した純一の声色が心配に染まる。

身体はまだ痛い。

「何かあったのか。そっちでも」

「そうですね。いろいろ」

高富が所属する研究者会議と、決定権を持つ学術会議は、同じ研究をしながら、むしろ対立関係にある。

この国には他にも、研究センターや協議会と名前を付けてバラバラに動く組織があるから、世界に比べて一歩が遅れるのだ。

同じ研究を、横の繋がりを軽視してそれぞれが独自に進めるにも訳がある。

「宇宙を産み出そうという強大な力ですからね」

点けたばかりのストーブに近付いて、上着を脱ぐ高富が話す。

「個人的に誘われることも良くありますよ」

「どいつもこいつも」

鼻息の荒い純一が、高富にハンガーを渡した。

「人類に便利なものは、兵器にもなります」

ハンガーを受け取ったままの姿勢で、高富が続ける。

「だから僕は、人類の脳を開放したいと思うのです」

「悪を凌ぐ賢さの善、か」

「あと少し、人がお利口になったら、争いなんかなくなると思うのですけどね」

高富の少し悲しい微笑みに、純一は明るく声を張った。

「呑み直そう!いい酒があるんだ」

ようやく上着を片付けて、高富が訊く。

「肴は何ですか」

「高富の好きな、海老の塩辛」

「あるのですか。いいですね」

==========

「紆余曲折あったけど」

あれから更に、十年が経った。

北上山地の花崗岩を削るところから始まった大規模な工事。

強靭な岩盤を盾にして、巨大な建造物が地中深くに完成していた。

「いよいよ試運転ですね」

期待を声色に載せて、真っ白な壁を見上げる研究者と技術者達。

「不安要素は残ってる」

難しい顔で純一が呟いた。

「人類が、経験したことのない規模の正面衝突だぞ」

「失敗したら、文字通り大事故ですね」

冗談めかして笑う関係者に、呆れたため息を返す純一。

「大丈夫。心配ないですよ、純一さん」

すぐ後ろで他の研究者と話していた高富が声をかけ、純一は振り向いて言い返した。

「そりゃ、高富の計算だからな。そこは信頼してるよ」

でも……と、純一の声は心にしまって小さくなる。

(簡単な実験にも失敗はある)

「それは僕だって十分承知していますよ」

高富の声は明るい。

「何十年、キミと組んでやってきたのでしょうね」

落ち着いて聡明な高富の声は、聞くものに安心感を与えた。

「純一さんは、僕の注文に完璧に応える、最高の技術者です」

無条件の信頼が、高富の瞳から伝わってくる。

照れて言葉を返せない純一に、高富は大きく頷いて見せた。

「僕の計算と純一さんの技術。このチームに失敗はありえません」

頷きを返して、純一はコントロール・ルームを見上げた。

「もう一度、加速器を確認してくるよ」

「では、先に戻っています」

研究者と技術者、それぞれが配置につく。

サイレンが鳴り、赤いランプが注意を呼びかける。

「チームA、準備OKです」

インカムから聞こえる仲間の声。

「チームB、異常なし」

「チームC、OKです」

高富の声が、世界に名を残す大実験開始の合図を伝えた。

「ではこれより、試運転を開始します」

各所で次々とスイッチが押され、加速器が動き出す。

真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに繋いだ。

数え切れないほどの加速装置が唸りだす。

「ん」

開始数秒後の違和感。

「高富」

インカムで呼びかける純一。

返事が来る前に、施設内が真っ白に光り輝いた。

純一の頭に浮かんだのは、あの日の雪玉。

楽しく遊んだ友人の笑い声。

==========

「純一さん。雪合戦をしませんか」

穏やかなのに断りきれない強引さで、高富が純一を公園に誘う。

「はあ。なんで俺なの」

「僕がキミと遊びたいのです。さあ」

「しっかたねえなあ」

暖かそうな防寒着の背中を見て歩きだしながら、ふと、純一は首を傾けた。

「あれ」

この景色。

「なあ。高富」

「何ですか」

振り向く所作までもが優雅な高富。

優しく微笑み、純一の言葉を待つ。

見えてきた公園には、友人が沢山遊んでいた。

「前にも雪合戦。したことあったっけ」

「今年は、今日が初めてですよ」

初雪ですから、と、鼻の先を赤くして、高富が返す。

「ちょっと待て」

「どうしたんですか、純一さん」

何か、思い出しそうな気がする。

大切な何か。

それを忘れると、自分の生命いのちよりも大切な何かを失うことになる。

「皆さん。雪合戦をしませんか」

「いいね」

「やろう、やろう!」

真っ白な公園に、子供達の歓声が吸い込まれていく。

<END>


タイトルの「ラディーレン」とは、「消失」のドイツ語変換です。

楽しんでいただけたでしょうか。

リニアコライダー、現実世界ではどうなったんでしょうね。

確か、2018年末には決定されると公式HPにはありましたが。

<参考文献等>

・ニュースイッチ

宇宙誕生直後のビッグバン再現、〝リニアコライダー”って何だ?

https://newswitch.jp/p/12575

・岩手県ーILC推進 公式サイト

http://www.pref.iwate.jp/seisaku/suishin/ilc/index.html

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙を作り出せるほどのエネルギー再現実験に取り組んでいるのに、前向きで互いへの信頼関係も最後までうつくしい主人公たちでした。 途中、不穏な雰囲気もありましたが、ラストが非常に爽やかでほっと…
2019/01/13 11:00 退会済み
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