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「ねぇ、ねぇってば」
志保は、僕に話しかけていたが、僕はゲームに夢中であった。そろそろガチャが引けるくらいまでポイントがたまってきていた。
「烏丸は、将来どうすんの?」
「ああ、将来? 特に気にはしてないけど……」
「いや、そんな悠長な。もう、私たちは大学3年です。しかも冬です今。もう周りの人たちは就職活動をしております」
急に志保は、真面目な演技をして、僕に事の重大さを伝えようとしていた。
「それで?」
僕は、ピコピコを続ける。
「それでじゃないよ」
志保は、少し呆れているようである(目線は、スマホの画面にあるのだけれど)
「もう、いい。烏丸はそのままスマホの中のゲームと心中すればいいのよ」
志保は、コートを羽織って部室の外に出て行ってしまった。僕は、特に追うわけでもなく、そのままサークルの部室のパイプ椅子に座り、ゲーム内のポイント獲得に集中した。
しばらく僕は、スマートフォンのゲームに熱中している「ふり」をしていた。
正直なところ、僕はスマートフォンでゲームなんてやらない。先ほどまでの僕は正確に言うと、動画サイトの動画をスマホで流して、あたかもゲームをしているように見せかけていただけである。
最近の動画サイトにあがるスマホのゲーム動画はすごい。まるでプレイしているような感覚にすらなる。
スマホで起動していた動画サイトのアプリを閉じて、僕は机の上に置いた。そして、カバンの中から持ってきていた道具を取り出し、机の上に広げた。
本当は今日の午前中の授業中に、授業をサボってやろうと思っていたこと。
でも、幸か不幸か授業が中断してしまった影響で、取り組むことができなかった。周りに誰もいなし、取り組むには十分な環境である。
その後、1時間ほど、集中して取り組むことができた。やはり周りに誰もいないことはいいことだ。誰かがいるだけで気が散ってしまう。誰もいないため、気が散らないで済んだ。勉強とはそういうものだと僕は思う。
コーヒーチェーンとか、ハンバーガーチェーンで勉強している高校生とかを時々見るが、あれは自己満足であり、意味はあまりない。もちろん、わからないところを友達に教えてもらうという行為はとても大切である。でも、それを自分の骨身にする作業は、結局は自分自身でやるしかない。
いくら、高いお金を払って専門学校に行こうが、受験予備校に行こうが、その本人が勉強しなければ意味がない。お金さえ払えばなんとかしてくれるというのは、ない。彼らは、僕らに近道を提供してくれているだけなのだから。
これは、僕が大学受験で学んだことである。大学受験で勉強した内容なんてほとんど覚えてはいないのだけれど、勉強は自分でしなければならないということはとても心に残っている。だから、新しい勉強を始める時もうまくスムーズにいっている気がする。この覚悟があるとないとでは、勉強の効率性は違うのだ。
「あれ、まだ居たんだ」
志保が、扉を勢いよくあけて戻ってきた。姿を見る限り、先ほどまでのイライラは内容に見受けられた。
「もう、烏丸が相手してくれないから、駅の方まで歩いて本屋に行って立ち読みしてきた。就活関連の本の」
志保は喋りながら僕の目の前の椅子に座った。
「それで、成果はあったの?」
僕は、充実感を漂わせる志保に質問をした。
「まぁ、それなりにね。いまから、就活をしても間に合うということを願うばかりですよ本当。スタートが遅れているのは百も承知です。っていうかさ、それ烏丸の?その電卓」
志保は、机の上に置いてある物体に気がついたようだった。
「まぁ、そうだけど」
「電卓……だよね」
「そうなるね」
「何に使うの?サークルの運営費でも計算してたの?」
「いや、勉強」
僕は、机の上に置いてあった電卓をカバンの中にしまった。
「電卓の勉強? あなた、エンジニアにでもなる気? そんな素養あったっけ?」
志保は、首を傾げた。
「いや、無いから。数学とか苦手だし。ハンダとハンダゴテも使えないし」
「じゃあなんで」
志保は、しばらく考えていたが、数分後、僕が何をしようとしているのか、気がついたようだった。