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僕は、サークルの部室がある部室棟の前までやってきた。
部室棟の周りには、従業を終えて続々と学生たちが集まってきていた。集まってきた学生たちは、なぜか部室には入ろうとせず、部室の周りでたむろしていた。皆が揃うまで入らないという魂胆なのか。
サークル棟は、3階建である。
歴史あるサークルほど、上の階にあり、新参サークルは、下の階にある。
そもそもサークルの部室がもらえること自体も奇跡であり、もらえないサークルもある。サークルを立ち上げました、という役に立っているのかどうなのかわからない就活での一言欲しさにサークルを立てる輩もいるため、サークルの立ち上げは、レッドオーシャンの時代に突入しつつある。
僕は、上の階にあがる階段を通り過ぎ、広い広いサークル棟の端っこの部屋に向かって歩いた。
部室に向かう途中、トラップに引っかかった。この寒い冬の中、チアリーディングの格好をしている女子学生に目をうばわれた。しかし、僕は紳士である。一瞬にチラッと目をやるだけにとどめ、僕はそのチアリーディングの森を突破した。
そして、ようやく僕はサークルの部室に辿りつき、部室のドアノブを回して、部屋の中に入った。
「こんにちわ」
僕は、小さな声で挨拶をしながら中に入った。
部室の中に誰かがいる気配はなかったため、誰もいないのだろうと思った。
部室の中は、殺風景である。
誰が持ち込んだのかわからない、カビ臭いソファー。
誰が持ち込んだのかわからない、パイプ椅子とテーブル。
誰が持ち込んだのかわからない、古臭いゲーム機と液晶テレビ(かなり古いモデルのようで、とても本体も分厚ければ、液晶のベゼルも太く黒い)。
しかし、志保がよく掃除をしてくれているおかげで、部室は思いの外ほこりっぽくはない。僕もわりと綺麗好きであると自負しているのだか、志保はその上をいく。ありがたいことである。
僕は、カバンを部室の端に置いて、パイプ椅子に座り、スマートフォンをいじり始めた。
それから、1時間ほど、僕はスマートフォンでソーシャルゲームのガチャを引くため、ゲーム内の同じステージを何度も繰り返しクリアした。時間の無駄ではあるとわかっていながらも、僕はその沼から抜け出せないでいた。
部室の窓から、外をみると、真っ暗になっていた。
もうすっかり冬のため、まだ18時でも真っ暗になるのである。
「あー、ごめんごめん」
すると、ドアを勢いよくあけて志保が入ってきた。
「あれ、他のみんなは?」
志保は、部屋を見回しながら僕に聞いた。
「いや、誰も居ないけど」
僕は、スマートフォンをピコピコとタッチしながらいう。
「誰もいないの? さっき、四条とすれ違ったから、てっきり部室に行っているもんだと思ったよ」
「あいつのことだから、今日はもう帰ったんじゃないの」
「そんな気がするね。烏丸は何時間、ここにいるわけ?」
「1時間くらいかな」
「あらあら。それはごめんごめん」
「いいよ。別に。ゲームしてたし」
志保は、コートをパイプ椅子にかけて、荷物をおいて、僕の目の前に座った。
彼女が、何か僕に話しかけたそうにしている雰囲気は感じ取っていたが、僕は気にせずスマートフォンの中のモンスターを、ばっさばっさとソードで、切り刻んでいった。