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「村井さんと仲良かった人たちは…… 」
四条は、僕に聞いてきた。
「もう居ない。皆さん卒業して、就職されていきました。変わった人で、村井さんを探すと言って卒業した人もいたけど」
「居たね。村井マニア。正直、村井さんの変人ぷりは許せたけど、あの人は許せなかった。 」
「志保、デートとか誘われてたよね」
志保は、とても嫌なそうな顔をしながら僕の方を見た。僕は、当てずっぽうで言ったつもりであったが、どうやら本当だったようだ。
「うっそー。マジで。実際のところデート行ったの?」
四条は、興味津々である。
「行った」
志保は、頭を抱えて、髪の毛をくしゃくしゃにしながら、絞り出すように言葉を発した。
「マジで! マジで! 」
四条は、興奮を抑えきれないうようである。僕はいたって冷静であった。特に興味もない。
「最悪だったよ。帰り際に抱きついてきて、キスしようとするし」
「え、したの!? 」
四条の興奮も頂点を極めているような雰囲気だった。
「するわけないじゃん。そういうのは勘弁してください、ってビンタして断りました」
四条のテンションは、ジェットコースターのごとく落下し、少し上昇して、通常のテンションに戻った。
僕は、正直なところ恋愛経験というものが無いため、その男の人の気持ちがよくわからないのだが、男女の気持ちが高まる(この場合は片方だかが)と、互いの体を求め合うということなのだろう。
「なるほど。あの先輩が顔を見せなくなって、最後の追い出し会だけ来たのは、そういう理由だったわけね。話してみると意外と出てくるもんだね。俺も知らないことが、まだまだあるものだ。勉強不足です」
四条が、よくわからない世界に行きそうになった瞬間、学校のチャイムが鳴った。どうやら、朝の1限目が終了したようが。1限、90分であったはずだから、僕らはそれくらい話し続けていたことになる。
勉強するには長い時間ではあるが、話をするのには短い時間である。
人間の感覚は、不思議なものだなと実感をした。
「最近、集まってなかったような気がするけど、久しぶりにサークルに顔出しますか」
志保が、僕と四条を誘った。
「そうしようか。烏丸くんも来るでしょ?」
四条が、僕の方を向いた。返事に期待している雰囲気が伺えた。
「行くよ。その代わり、顔出したらすぐ帰る。飲みとかは行かないからね」
「おっけです。じゃあ、また授業が終わり次第、部室集合で! では、解散」
志保が、手を天井に向かって掲げて、その場は解散となった。
僕が予定していたことは何もできなかったけれど、村井さんの話や志保の意外なエピソードも聞けて、これはこれで楽しかった気はする。人と一緒に時間を過ごすという行為は、そんなに得意ではないけど、顔を知っている人たちと過ごす時間は、悪くない。
僕は、カフェの前で志保たちと別れた。実際のところ、僕は2限は授業がなく、3限からであった。
僕は、左右を見回して一人になれそうな場所を探した。目に見える範囲にはなさそうであったため、とりあえず、校門に向かって歩くことにした。