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スニーカーの紐を結ぼうとして、僕はしゃがんだ。
しゃがんだ瞬間、僕の目の前を自転車が通り過ぎて、僕は尻餅をついた。
「危なッ… 」
僕は、気を取り直して、灰色に変色しつつある白色のスニーカーの紐を両手を使って結んだ。
僕は、立ち上がって、大学に向かって歩き始めた。
大学へは、最寄りの駅から大きな幹線道路に面した道を、ただひたすらまっすぐ歩く。ただただ、まっすぐ歩くのである。周りの風景はほとんど変わらないし、車が通る音はうるさい。トラックなんて通り過ぎた時は最悪だ。排気ガスは臭いし、息苦しい。おまけに、地面が揺れるのである。
僕は、トラックが通る瞬間は、息を止める。口を大きくして歩く姿は、周りからはフグのように見えているかもしれない。
背負っているデイバックを時々背負い直しながら、僕は大学に向かって歩いた。
「おはよう」
志保が僕に話をかけてきた。志保は、大学の同じサークルの友達。入学した時に出会ったから、かれこれ2年くらいの付き合いになる。
「今日は、何の授業を受けるの? 」
「えっと……心理学かな」
「ああ、あのいるだけでいいやつ? 」
「そう、それ。だから授業中は他のことをしている予定」
「他のこと? 」
志保は、不思議そうな顔をして僕を見る。
「志保には、関係ないことだから、特に言う気は無いよ」
僕は、そっけなく言葉をかけた。
「ふーん、まぁ、別にいいけど」
大学に着くと、多くの学生が掲示板の前に集まっている。僕と志保も、その集団に引き寄せられるかのようにして、掲示板の前に向かった。
「あら、休講みたい。私の授業」
「あ、心理学も休講だ」
志保は、僕の方に体を向けてた。無言で僕を見ている。
「いや、だからやることが….…」
僕が、彼女に対して断りをいれても、彼女には関係ないらしい。彼女はただただひたすら僕を無言で見つめている。
「わかったわかった。次の授業まで暇をつぶすの手伝うよ」
僕が、返事をすると彼女の表情は、一瞬にして笑顔になった。彼女は踵を返して、大学の食堂のほうに向かって歩き始めた。
この大学は、最近建て替えられたばかりで、設備的には最新鋭の設備が揃っている。インターネットはどこにいても繋がるし、食堂もとても綺麗。図書館は、おとぎの国に迷い込んだような出来栄えで、本の中で暮らしているような感覚になる。(しかし、建て替えられた後で、学費は結構な金額、値上がりをした)
「志保、大学ってこんなに綺麗にする必要ってあるのかな」
僕は、足元を見ながら歩き、志保に問いかけた。
「ええ、綺麗なのいいじゃん! なんか、ワクワクするもん」
彼女は、ゆっくりとしたスピードで歩いているものの、飛び跳ねているようにも見えた。相当休講がうれしかったようである。
「その分、学費が上がってるんだぞ? 」
「でも、私は払ってないし」
「そうかもしれないけど……それに、休講分だってお金帰ってこないんだぞ? 」
「だから、私は払ってないから別に気にしないもん。私は、楽しければそれでいい。それでいいの」
彼女は、両腕をふって元気よく大学のカフェに向かって歩いている。
「さいですか……」
僕は、ガラス越しに見える大学の校舎内に目をやった。きっと、運動部であろう大学のジャージを着た集団が、プロテインの入ったボトルを手に持って歩いていた。彼らの脳みそは、筋肉でできているに違いないと思った。