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豊穣神のアポストロス  作者: 杏子菓子
5/5

オアシス

陽が高くなるに連れて「ヴェロニカー、おっぱい!」と叫ぶ声が客車で木霊する。


「エクスにおっぱいを見せれば水が飲める」という冗談からの言葉だ。

「誰が見せるか!」と初めは付き合っていたヴェロニカもいまは暑くてスルーしている。

「エクソの水って冷めたいんだよなー」

「魔法で保存している水なんで汲んだときの温度なだけです」

「魔法使いはいいよなー、いろいろ便利なものあってさー」

「でも、毎日勉強しないといけないですし、大変なこともありますよ」

「確かにな、俺は5分と耐えられねーよ」


エグザウディオは偶然にも聖典を読んでいたので説得力が加わる。

「これ全部暗記しますから」と聖典をガデッツに見せる。

ガデッツを含め、それを眺めていた女性陣も目を逸らす。

”魔法職は絶対に無理”と思考放棄しているのがよくわかる。

武器を振り回している方が性に合っている面々ばかりである。



太陽が中天に届き商隊が停止する、休憩に入ったようだ。

各々がバッグから干し肉を取り出して食べ始める。

「じゃあ、おっぱいタイムで」とエグザウディオは桶を取り出して水を配り始める。

「ガデッツさんだけはさっきエクソと言ったのでナシの方向で!」


「それ、ひどくね」とガデッツが抗議をしてくる

「おおー、やっぱエクスは良いヤツだよー」

そう言いながらヴェロニカが隣にやってくる、距離が近いのでどきどきする。

「ちゃんとエクスって呼んでくれるなら配りますよ」

「二度とエクソ言わないから連れないこと言うなよ」

気温40℃を超す暑さのなかでも、冒険者は元気である。


小麦粉の皮で豚肉を巻いたもの”トルティーヤ”を法衣鞄から出してムシャムシャしていると、隣のヴェロニカが肘で腹を軽く突っついてくる。

何かと思って振り向くとヴェロニカの笑顔が近くにある。

目が合ったヴェロニカが下を向くので釣られて下を見た瞬間に「サラッ」とブラの肩紐を解いた。

隣り合って体育座りしているエグザウディオからはブラの中身が覗けてしまう。

おっぱいを見下ろす感じで先っぽには突起がちゃんとある。

もう一度ヴェロニカを見ると”オッケーだな”という感じで顔を赤らめながら肩紐を戻してしまう。

何もなかったように身繕ろいが終わってから「よし、エクスの水ゲット!」と声をあげた。


「え?」とマーニャが眉をひそめて凝視する


「それって、おっぱい見せちゃったってこと?」

「なんかさー、私は貸し借りがあるのが嫌なんだよ、だからチラッと…」

「チラッとって、あんた何考えているのよ!」

それにガデッツが呼応してくる

「どんなんだった」

どういったふうに説明しようかと迷っていたところにヴェロニカのエルボーがわき腹に突き刺さる

「ぐぼぉぉ」

「言ったら殺す!」

「ずびまぜん…」


エグザウディオはかなり痛かったのでヒールを使ったらどうなるんだろうと実践してみた。

”ヒール”と念じて脇腹に手をあてると痛みが引いてくる

こんなふうに痛みが引いていくのかと理解できる、体験できるのは貴重なことだ。

それを見ていたマーニャが、けたけた笑いながら指をさす。

「ヴェロニカが叩いたところをエクスがヒールしてるんだけど」


「ちから入れすぎだろ」

間髪いれずにガデッツから突っ込みが入る。

「そんなに思い切り叩いてないよな」

ヴェロニカも慌てて同意を求めてくる。

「僧侶の見習いなんでヒールを使う機会があれば練習しているだけなんです、そんなに痛くなかったですよ」

「バカだなー、そういうときはおっぱい揉まないと痛みが治まりませんって言うんだよ」

「そ、そうですよね」

エグザウディオはヴェロニカに向き直って「おっぱいを…」と言おうとしたが拳を握りこんでいるヴェロニカを見て口をつぐんだ。


はじめから配る予定であった水が、配ると注意されるようになって、結局みんなに配ることになった。

和気あいあいとしているトカゲ車の客車は非常に楽しいひとときである。





翌日、聖典を暗記しながら暑さに耐えていると「到着」と言う声が辺りに響き渡る。

エグザウディオは客車を降りて街を眺めてみた。

ほとんどの建物が土作りあり平屋で厚みがある。


「ここがオアシスかー」


住人は露出度の高い服に、白く薄い生地の日除け布切れを着けている。

地球も異世界も砂漠のようなところでは白い布は必需品なんだなと感心する。


客車で一緒だった面々は無駄口をきかず真剣な表情をしてオアシス街並みを見つめている。

新たな戦場に到着して気を引き締めているのがわかる。


「じゃ、みんな死ぬなよ」

「生きて次の街に行こうな」

「怪我したら頼るからよろしくね」


そう言って街の中央へ向けてバラバラに歩き始めていた、あまり深く係わることを避けているのだろう。

あっけないというか「これが冒険者なんだろうな」とエグザウディオは思った。

楽しめるときは楽しむ、遊ぶときは遊ぶ、冒険するときは本気だ。


気をとりなおしてエグザウディオも街の中心に向かって歩みを進める。

「まずは宿からかな」

適当に食堂や武器屋などを物色しながら一軒の宿屋を選ぶ。

宿を選んだ理由はラノベの知識に頼ったからだ。


”小さい女の子が客引きをする宿屋はハズレがない”という根拠のないものだが、ヒルデブルグの街でもハゲオヤジの料理屋でアタリを引いているので従ってみる。


値段はどこも一泊で銀板一枚程度、ヒルデブルグの3倍ほどする値段だが、直近の街から3日も離れているため輸送費も上乗せされてしまう。

生鮮品も無いだろうし、メシも高いし不味いのだろうと想像できる。


宿に案内されると1部屋しかない1軒家であった。

何処を見ても1軒家しかないので、オアシスの仕様のような感じである。

部屋にはベッドが1つ、小さなタンスが1つ、椅子とテーブルだけだ。


宿を決めた次は冒険者ギルドに向かう、精力的に動き回らないと暑さでどうにかなってしまいそうだ。

冒険者ギルドは円形に作られた広場の一角に建っており良く目立つ。

中に入るとヒルデブルグとは様相が違い、むさくるしい冒険者達が闊歩している。


「やっぱ冒険者ギルドはこうでなきゃ」

きょろきょろと眺めているとガデッツが掲示板の前で腕を組みながら眺めているのを見止めた。


「ガデッツさん、どうしたんですか」

「んー、どのパーティに入れてもらおうか悩んでるんだよ」

そういってアゴで掲示板の方を指す。

「どんなパーティ探しているんですか」

「そりゃーおめー、なるべく強いところだろ、命がかかっているからな」

エグザウディオもそう言われて掲示板に貼りだされている紙を読んで見る。


「俺はよ、レベル19なんだよ」

「はい」

「だけど募集しているのはレベル20以上っていうのが多くて困っちまうぜ」

「どうするんですか」

「んー…、レベル20までは地元のパーティに紛れようかと思うんだ」


”どういう意味があるのか”という顔をエグザウディオがしていたので説明してくれる。


「地元のパーティってよ、コアを目指さずに魔石だけを狙った稼ぎの良い狩りをするのさ、それに無理もしないしレベルも上がるのが早いんだよ。

「それで20になったらコアを目指しているパーティに入ってクリアという作戦なんですね」

「そういうことさ」

「ヴェロニカさんとマーニャさんも同じような感じなんですかね」

「あいつらはレベル16とか17って言っていたからコアを目指すだろうな」

「ガデッツさんよりレベルが低いのにですか」

「地元のパーティに入ったってレベル20超えるのには時間がかかりすぎるだろ、全員が同じレベルのパーティに参加するじゃねーか」

「事故とかないんですかね」

「そりゃーあるだろ、でもよ、ここの遺跡はそこまで稼ぎが良い訳じゃねーし、長居してもあまり良いこともないしな」

「まあ、遺跡に入っていれば経験値も稼げるし、魔石だって手に入りますもんね」


「エクスはどうすんだよ」

「私は見習いなので、しばらくはソロで魔法で戦ってみます」

「ヒールとか使えるんだろ?パーティだって探せば見つかると思うぜ」

「んー、まだ良く判ってないのでガデッツさんみたいに知り合いが居れば入れて欲しいですけど、レベル低いし相手にされないと思うのです」

ガデッツさんは思い出しながら笑っている。

「カードだけは更新しておいた方が良いぜ」

「そうですよね、じゃないと馬鹿にされっ放しでしょうね」


ガデッツとの会話を終えてエグザウディオはギルドの受付に向かう。

「遺跡の資料があれば見せて欲しいのですが」

混んでいない窓口に事情を話して資料室の使用許可をもらう。

資料を確認していると、死亡事故の多くが蛇や蠍に噛まれての毒に拠るものが多いのに気付く。

ちなみにマミーに噛み付かれても、ゾンビに噛み付かれても、死亡原因は毒になる。

ボーンやスケルトンは武器を持って攻撃してくるので致命傷にはなりにくいという感じである


「パーティに入るにはキュアが最重要っぽいな」


「使えないヒーラー」と言われるのも辛いのでキュアのレベルを上げてからパーティに入れてもらおうと心に決めた。

「そろそろ閲覧時間は終わりになりますが」

ギルドの職員が連絡に来たのでそれに合わせてギルドを後にする。


宿屋の方角に向かって歩いていると客引きのジュベッドちゃん(推定7才)を見つける。

食堂や宿から離れないで客引きをしているジュベッドちゃんは貴重な目印だ。

「おきゃくさん、おしょくじはどうですか」

素直に頷いて、ジュベッドちゃんと一緒に食堂に入る。


カウンターに腰掛て一番人気のある料理と飲み物を頼んだ、出てきたのはエールとイモリの丸焼きだった。

恐る々、イモリの丸焼きにかぶりついてみると白身の肉でうまい。

エールも温いがそこそこ飲める。


そこに30才くらいの女性が寄ってきた。

「冷やしは如何?」と艶やかな声で囁いている

何を言っているのか理解できないで、頭に「?」を掲げていたらマスターが説明してくれる。


「このお姉ちゃんにお金を払うとエールを冷やしてくれるぞ」

「まじですか!」

「もちろん有料だけどな、一杯は銀貨一枚だ」

「じゃあ、このエールを冷やしてください」

そう言って銀貨とグラスを渡す

女性が銅製のジョッキにさわっただけで冷たさが伝わってくる。

「おおお!」

たったこれだけで冷やすことができるのかと思う反面、初めて出会った魔法使いの凄さに感嘆する。


「あの…これはどのくらいで冷やしてもらえますか?」

そう言ってエクスは法衣鞄から桶を出してみた。

「手間賃だけだから銀貨一枚でいいわよ」

「じゃ、お願いします」

そういって次から次に出てくる桶に女性は苦笑いしている。

「凍らすこともできますか」

「できるけど、ちょっとだけ魔力を多く使うので銀貨2枚ね」

「じゃ、更にお願いします」

氷が2桶、冷水を6桶作ってもらって料金を払った。


イモリの丸焼きが美味しかったので追加で大量に注文して法衣鞄にしまっておいた。





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