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豊穣神のアポストロス  作者: 杏子菓子
3/5

エグザウディオ vs スライム

今日からエグザウディオと名乗ることになった青年は、日の出前に目を覚まして街を眺めていた。

バルドのオアシスに向かうと目標を掲げたので、気が競って寝ていられなかったのである。


宿屋の食堂に向かい朝定食を食べて移動経路の情報を得るためにギルドに向かう。

「店舗は日の出から日の入りまでの営業というのが常識」とおっちゃんに教えられたので気後れせずにギルドに入ってみた。

護衛の冒険者達は既に準備に向かっているのかギルドの客は1人も見当たらない。

受付には中年の女性が1人で座っていて暇そうに見える。


「バルドのオアシスまで行きたいのですが資料を見せてもらって良いでしょうか」

女性の職員は顔を上げやっと来たお客に精一杯の笑みを浮かべ聞いてきた。

「閲覧は資料室で見ることが出来ますが貸し出しはできません、記録をとることならできますが貸ペンと羊皮紙で銀貨1枚です」

エグザウディオはお金を払い筆記用具を手に入れ資料室に向かう。


ヒルデブルグの街からバルドの街まで南へ約200kmくらい離れている。

距離があるだけに途中の町で宿泊が必要になってくる。

バルドの街に到着してから更にトカゲ車に乗って3日でオアシスというルートだ。

バルドまでは馬車で4日で到着できるが、体力を付けるために徒歩の移動を選ぶつもりでいる。


途中で遭う可能性のある魔物はスライムのみということも判明した。

ジグリラーク街道は通行量が多いので人間に害を与える魔物は駆除されており、盗賊の出没もほぼ無いと見て良いらしい。

バルドから砂漠を行くには運が悪いとワームなども出現する可能性があるらしい。しかし、屈強な護衛が付く商隊と同行するので生命の危険は少ないということだ。


残るは移動中の水と食料になるが、エグザウディオは法衣鞄があるので何なく持ち運ぶことができる。手桶を買って井戸で水を汲み、露店で串焼きや小麦粉で肉を巻いた物などを買い込んだ。

「うむ、完璧だぜ」

宿屋に戻り昼飯を食べながら最終的な確認をして悦に浸っていた。


用意が終わったことを告げるとおっちゃんが煽ってくる。

「移動中はスライムを狩るんだって?」

「魔物を狩ったことがないので、経験を積もうと思いまして」

「スライムならヒルデブルグでも西門を出たところにたくさん居るぞ、試しに戦ってみたらどうだ」

「え?魔物って近くに居ないと言ってませんでした」

「スライムは別だろ、何処にだって居るんだし10才の子供だって倒せるしよ」




それから1時間後エグザウディオは西門の堀の横に立っていた。

敵対するのはスライム”最弱の魔物”である。

メイスをアイテムボックスから取り出して意気揚々と堀の周りを調べ始める。

5分も歩かないうちに粘液を撒き散らしたような跡を発見した。


「これってスライムの死体かな」

そのまま通り過ぎようと粘液地帯に踏み込んだ瞬間に異常な粘り気が脚に伝わってくる。

「え?」

サンダルを無理やり引き剥がそうと革紐が千切れそうである。

「これがスライムなんだ」

粘液を見回していると地面の中に染み込んでいたのかプルンプルンした肉厚のあるスライムに変化しつつある。

しばらく観察していると、サンダルからくるぶしへと粘液が這い上ってくるのでメイスを仕舞って素手で引き剥がした。

それほど苦労しなくても千切り捨てることができたが、あまり放置するのも良くないと思い脱出を試みて本格的に引き剥がし始める。


スライムの動作速度は「アリンコと同じくらい」なので、ゆっくり余裕を持って排除していける。

そんな動作を繰り返しているうちに、足の位置を動かせないのでバランスを失いスライムの上に尻餅を付いてしまった。

「あああ、汚れちまったぜ」

スライム一匹目から服は粘液の染み込んだものになってしまう。


余裕しゃくしゃくで戦っていたエグザウディオであるが、千切っても千切っても湧き出てくるスライムに若干の焦りを覚える。

「どうすりゃ死んでくれるわけ?」

スライムは地面から20cmくらいまでの厚みを満たすだけ増殖している

足首と尻は既に埋没してしまったような感じである。

エグザウディオは、いつまでも減らないスライムに「マジで死ぬのではないだろうか」と思うようになってきた。

じわじわ溶かされてしまうのではなかとビビリまくる。

「顔まで上がって来たら終わりだしな」


そうこうしているうちにエグザウディオはスライムを合流させない作戦を思いつく。

スライムを千切って堀まで投げ入れてしまえば這い登って来れず合体できなくなる作戦である。

千切っては遠くの堀に投げるのを繰り返す。

だんだんスライムの量が減ってきてやっと余裕が生まれてくる。


「スライムのクセに舐めやがって!」

更に千切っては捨ててを繰り返えしているうちに容量が半分くらの大きさまで減ってきた。減ってきたスライムを良く見てみると、小さな玉が動いているのを確認できる。

なるべくエグザウディオから遠くの位置へとゆっくり移動しようとしている。

「これじゃね?」と思いながらメイスを取り出して渾身の一振りをお見舞いする。


「ぐちゃ」という感触と共に玉が潰れると、スライムの拘束が一気に緩まってきた。そして10秒もしないうちに完全に拘束が溶け粘液が地面に吸い込まれていった。

エグザウディオは放心状態でしばらく眺めていたがこれで退治できたのかと安堵のため息を吐いた。

「びみょーに、ヤバかったな」

こんな戦いをしていたのでは先が思いやられる。次はもう少し戦い方を考えようと思い直すのであった。


スライムを倒して我が身を振り返れば粘液まみれで酷い状態である。

こんな状態では気持ち悪いので、宿屋に戻って着替えようと思う、たった1匹しか戦っていないのに酷いありさまに苦笑いする。



帰途に着くエグザウディオは更にスライムを発見する。


「隊長!スライムを発見しました!」誰もいないのに1人でおどけてみせる。


さっきの二の舞いは嫌なのでメイスで突っついてみるとウネウネと粘液の塊に性懲りもなく変化してきた。

今回は落ち着いてスライムを眺めながら核はどこにあるか探すことにする。


体積が増えてくると中心くらいに核のようなものが確認できる。

「こいつを潰せば勝ちなんだよな」

エグザウディオは核を目掛けてメイスを突き刺してみた。

核は少しだけ横に移動する。スライムのクセに避けるとは生意気である。


「おら、おら、おら、おら!」

グサッ、グサッ、と突き刺さるメイスを避けるためにスライムの玉は端っこまで追い詰められて移動して来た。

勝てると分って戦っていると楽しく戦闘行為ができる。

メイスで殴打可能な位置まで核が移動してきたので、野球のフルスイングの要領で玉を粉砕する。

「余裕じゃん」

さっきは何てバカな戦い方をしたのだろと後悔してしまう。



エグザウディオは井戸に直行して体と貫頭衣を必死に洗た。ベトベトが残っていたら服が溶けそうだし気分的に嫌だ。

貫頭衣しか普段着を持ってないので裸で洗濯をしてみた。ちょっと寒いけど開放感が抜群である。

大切な場所をぶらぶらさせながら洗っている自分に「異世界生活ってこういうモノだよな」と自分の行動を楽しんだ、決して露出癖がある訳ではない。

そして裏口からこっそり裸のまま部屋に戻った。


服を部屋に干し、ベッドに寝転がりながら今日の反省をすることにする。

「情報をしっかり確認しておくこと」、これがエグザウディオの出した結論である。

10才でも勝てる魔物でも、相手を知らなければ勝てないこともある。情報を確認しておけば余裕で倒せた相手なのだ。


中国の文献でもあったような気がする。

”自分を知り相手を知れば百回戦っても負けない”みたいな感じの文章だったような気がする。

今更ながら中国人の偉人は凄かったのだと感心してしまう。



夕飯の時間になり、おっちゃんに飯をねだりに行く。


「おっちゃん、なんか食えるものお願い」

「何がいいんだ」

「かなりお腹が空いているので肉が食べたいかな」

「あいよ、まかしとけ」

そう言って「モリモリ定食」の大盛りが出てきた。


定食を食べながら明日はバルドに向かうことを告げる。

ちょっとだけの付き合いだったけどしんみりしてしまって言葉に詰まる。


「まあ、達者でやれよ」との苦笑いに「頑張ってレベル上げてきます」と返すのが精一杯だった。




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