女神様の依頼を受けて異世界へ
「女神様キター!」
目の前に女性がいる。
テンプレ通りの展開に「マジ?」と思ってしまう。
先ほど未確認生物がトラックに轢かれそうになっているところを助けて、俺(鏑木悠斗)は死ぬことになった。
意識が遠のいてくる中で、羽の生えた未確認生物に「異世界に連れていってくれ」とお願いしたらこの状況になってしまった。
女神様は裸にスケスケの衣らしきものを纏っているだけで丸見えである。
「髪の毛がブロンドの場合は下の毛もブロンドなんだ・・・」などと無粋な考えも芽生えてしまう
悠斗は引きこもり気味の30才である。
いや、既に死亡しているので”30才であった”というのが正しいのかもしれない。
「悠斗とやら、落ち着いたかな?」
「え、えっと・・・大丈夫です」
女神様は優しい微笑を称えながら話かけてきた。
「私を見て綺麗だと思ってくれることは嬉しいが、あまりジロジロ観察しないで欲しい」
反射的に「やばっ」と思ってしまう
というか「何故バレた?」と言う感じである
現実世界で身に付けた「視線を悟られずにチラ見するスキル」を看破されてしまった。
そこに女神様から追撃が入る。
「お主の考えたことがそのまま私に伝わってしまうので隠し事をしても筒抜けなのだ」
「そんなの聞いてねーし!」と思うが、会って直ぐに伝えてくれたので人を試すつもりも無さそうである。
「私のチョンピーを助けてくれて礼を言う、まことに感謝している」
そう言われて「チョンピーって何?」と頭に過ぎるが、直ぐに羽の生えた未確認生物だと想像できた。
「名前の趣味悪くね?」と思ったが意識が筒抜けだと思い出し、脳内で「素敵な名前です」と訂正する。
女神様は微笑を崩さず、更に会話を続けてくる
「人生をやり直してみたいようだが希望を叶えてやろう」
「異世界フラグ、キター!!」と心の中で絶叫した。
脳内で「エッチな目で見てごめんなさい、チョンピーを変な名前と言ってごめんなさい、お毛々の色とか気にしてごめんなさい」と全力で謝った。
「よほど嬉しいとみえるな」
目の前の女性はニコニコしながら続きを話してくる
「自分勝手で我侭な行いにより悔いる人生を送ってしまいました、もし次があるならば精一杯生きてみたいと思います」
本心からの悔いなので、女神様をまっすぐ見据えながら言うことができる、死ぬ前にこういった素直な子供だったらどれだけ楽しい人生が送れたかと悠斗は思った。
「次の世界で生きていけるようなスキルを与えるが希望はあるか」
「魔法を使ってみたいです」
悠斗は迷わず答える
「ふむ・・・魔法か・・・」
女神様は少し思案顔で虚空を見つめていたが、思い直したように言い放った。
「魔法を使う世界は文化のレベルが低いので苦労すると思うがそれでも良いか」
「かまいません」
「私の伝えることが出来るのは慈愛の魔法だ、それでも良いか」
「はい、問題ありません」
悠斗は即答する、もう人目を避けて生きていくのはまっぴらである。
努力で補えることであれば死ぬ気で頑張ってみたいと思っていた。
「それでは魔法を授ける代わりに、ちと頼まれごとをして欲しい」
「どんなことをすれば宜しいのでしょうか」
「これから移転する大地は私の管理しているところだが、しばらく放置していたので私の威光も薄れて来てしまったのだ、だから少しだけ名声を高めてくれれば良いだけじゃ」
悠斗は名声を高めるとという行為にピンと来なかった、具体的にどういうことをすれば良いのか見当が付かない。
「名声を高めるというのは・・・」
「日照りが続けば雨を降らせ、陽の光が少なければ雲を散らし、民が心安らかな暮らしができるようにしてくれればと思っている」
流石にそれを聞いて悠斗は戸惑った、転生先で天地を創造する神のような存在になれと言っているとしか思えない。
「そんなに構えなくても良い、どうせ出来ることは限られている」
「まあ、そうですよね」
悠斗は無理ゲーを押し付けられた訳でないことを理解して軽く微笑む。
「引き受けてくれるとして良いかな」
「わかりました」
「それでは法衣鞄に福音書を入れておく、よく考えて才能を伸ばし、民のためになるように努力して欲しい」
それを聞いている最中に視界がホワイトアウトしてくる。
悠斗は「ちょ・・・説明を省き過ぎじゃ・・・」と思ったが意識は虚空の狭間に落ちていった。
目が覚めたら見たこともない天井であった。
一度は言ってみたいフレーズだが現実に起きていた、俺は簡素なベッドから起き上がって今までのことを反芻する。
薄暗い部屋に窓から陽光が差し込んでいるので裸足で駆け寄り思い切り窓を開けてみる。
城壁に囲まれて雑多で活気が溢れる未発達な街並みが目に入った。
「異世界に来たんだ」
茫然として異文化が入り混じっている風景に魅入ってしまった、二度目の人生を送れるなんて想像もしていなかったことである。
かなり長い間を眺めていたので気持ちも落ち着いてきて、これからのことに意識が移ってくる。
「女神様の名声を高めなければいけないんだよな」
そうは思ったものの、この世界の常識もしらないし、魔法の使い方もわからないので動きようがない。
ある程度の常識を得てから名声を考えた方が良さそうである。
「まずは女神様が言っていた福音書だよな」
女神様に言われた法衣鞄に福音書が入っているという言葉を思い出し部屋を探してみるが法衣鞄が見当たらなかった。
悠斗は女神様は鞄を忘れたのではないだろうかと心配になってくる。
「どこにあるんだろ」
隅から隅まで探してみたが部屋の中には無いことが確信が持てた。
「法衣鞄って、まさかと思うがアイテムボックスのような物だったりして・・・」
そういった発想に思い至ったが魔法の使い方が判らないので八方塞である。
「法衣鞄!」
「アイテムボックス!」
必死に叫んでみたが何も出てこない。
それでは念じてみたらどうだろうかと意識を集中してみるとたくさんの物が存在するみたいである。
「これだ!」と思いながら本の存在を確認して「出てこい」と念じてみると、手の中に白っぽい表紙の本を取り出すことに成功した。
ずっしりと重量感のある本の感触を確かめながらベッドの上まで行き本を開いてみる。
福音書は羊皮紙で出来ており厚さの割にはそれほどページ数が無いような気がする。
最初のページには「神聖魔法に拠る身体の回復」と説明が書かれており、その下に魔方陣が描かれている。
「ヒールなんだろうか」と勝手に想像してしまう。
次々にページを捲っていくと「神聖魔法に拠る身体からの不要物の除去」「神聖属性に拠る魔法攻撃」などという説明が書いてある。
もしかして、この模様を覚えないと魔法が発動しないのだろうか。
細かく複雑な魔方陣を見て、これ1つ覚えるのにどれくらいかかるのだろうかと思案してしまう。
「魔力に拠る無属性攻撃 ☆☆☆☆☆」という魔方陣などは虫眼鏡で見ないと確認できないようなものまであるので先が思いやられる。
しかし努力すると女神様に誓ったので前向きに行こうと気持ちを切り替える。
ページを戻しながら魔法陣を眺めていると☆の数が減っているのが判る。
☆は難易度なんだろうと想像が付くし、☆1個の魔方陣は☆5個の魔方陣よりもかなり覚えやすそうである。
綺麗に描かれた魔方陣を悠斗が無意識に触ってみたらスッと魔方陣が消えていく。
「ちょ・・・」
慌てて指を離したが、跡形も無く消えてしまっている。
それと同時に風邪を引いたときになるような”寒気”が一瞬だけ襲ってきた。
しばらく放心していたが、まさかと思い”魔力による物理属性攻撃”に意識を集中してみる。
すると悠斗の体の周りに薄白い球体が3個ほど出現した。
「おおおおお、魔法覚えるの簡単じゃん!」
悠斗の想像どおりであれば「行け!」と念じると球体が飛んでいくはずである。
テーブルの上にある水差しを見つめて念じてみたら「フォン!」と弧を描いて球体は飛び出し水差しに命中した。
「パンッ」と乾いた音と共に水差しが10cmくらい動く。
水差しに魔法が向かっていった瞬間に「やばい」と思ったが、水差しは割れておらずホッとする。
思わず近寄って水差しを持ち上げて悠斗は思った。
「威力ショボすぎじゃね」
福音書を手に取り消えた魔法陣の説明を読む。
”球体の数は魔法レベルに依存、質量は魔力に依存”と書いてある。
悠斗は自分の魔力はどのくらいなんだろうと思案するのだった。