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竜に喚ばれた男  作者: 下総 一二三
第3章「ムルドゥバ武術大会」
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リュウヤ・ラング対魔人ジクード

 倉庫内から発生した爆発が天井を崩壊させると、異様な爆発音に気がついた町人々は、立ち上る噴煙の中に二体の巨人たちの姿を認めた。

 やがて、強い風が煙を押し流すと、一方が不吉な浅黒い肌を持つ人間型の巨人であるのに対し、もう一方は絶滅の危機にあるとされる竜がいることに人々はどよめいた。


 ――聖戦の始まり。


 メキアに現れた白竜が、そう告げて統治する魔王軍の長官を倒したという噂を思い出していた。

 だとすると、もう一体の不気味な巨人は魔王軍で、あの白竜はそれと闘っている。

 竜は人間を見下してはいたが、魔族と違い愛玩あいがん動物程度の価値で人間と接している。

 そのために人間も竜に好感を持つものが昔から多かったし、加えてムルドゥバは魔王軍と戦ったばかりである。

 それに、陽光に照らされた白竜が燦然さんぜんうろこを輝かせて神々しく闘う姿に、人々は自然と白竜に声援を送るようになっていた。


「がんばれ!ドラゴンさん」

「魔王軍なんか、やっつけちゃえ!」


 老いも若きも男も女も屋根や二階の窓から塔の上からと、見物出来る位置に人々は陣取って、声を張り上げている。

 もっともクリューネことは、バハムートは声援に応えるどころではなかった。街から少しでも遠ざけようと、バハムートと同じくらいの体格となったデッドマンと組み合い、咆哮しながらすくい投げで海に放りこんだ。


 ――ブレス攻撃は海でやらないと……!


 地上で闘えば、風の影響で飛び火して、街に燃え移る可能性がある。沖で戦えれば存分に使えるはずだとバハムートは考えていた。


「……まるで、怪獣大戦争だな」


 揉み合いながら海で格闘するバハムートとデッドマンを一瞥して、リュウヤは昔の怪獣映画を連想していた。見たことはないが、雄叫びを挙げながら戦う姿は、それしか思い浮かばない。


「さて、今のよそ見で襲いかかってくるかと思ったんだがな」

『誘いだろ?さすがに、わかるよ』


 チッとリュウヤはわざとらしく舌打ちした。よそ見しながらも、リュウヤの念はジクードに残したままで、襲いかかってこれば用意があった。


「それにしても、お前はナイフを捨てて、素手で闘うつもりか。舐められたもんだな」

『舐めてないといったろ。この身体なら、徒手空拳で闘う方が発揮しやすいんだ』

「……ふたつ聞く」


 脇構えのまま尋ねるリュウヤに、ふたつかよとジクードが苦笑しながら首を傾げた。


「ひとつ目は、テトラに接触したのは狙い通りなのか。ふたつ目。人間に変身しても、お前みたいな“魔人”に変化する奴は竜魔戦争でもいなかったはずだ。魔空艦の他に列車に車の噂……。ここ数年で技術が進歩しすぎている。魔王軍で何が起きている」


 質問が多いねとジクードが笑った。不思議と邪気の無い笑いに聞こえた。


『ひとつ目だけ答えるよ。テトラとの接触は全くの偶然。それからのお前たちとの接触も全くの偶然だよ。それが誤算だった。テトラがあれほど強く仲間思いで、お前らが竜の一族とはね』

「……わかった。もういいよ、ジクード」


 リュウヤが静かに足を踏み直すのを見ると、ジクードは腰を低くし、前手をかざすように構えた。

 そのスタイルは伝統空手に似ていると思った。


『ダアッ!』


 いきなりジクードが叫ぶと同時に、炎の塊に似た玉がリュウヤに放たれる。魔法の大炎弾ファルバスかと思ったがそれとも違う。身体からのエネルギー波だと直感した。

 リュウヤは脇構えのまま、炎の塊を避けながら突進した。後方で激しい爆発が起きたが一目もくれなかった。勢いのままリュウヤが右下から逆胴ぎゃくどうにルナシウスを放つと、ジクードは刃を脛で受けた。


「何!」


 驚く間もなく、ジクードが打ってきた手刀だったが、リュウヤはそれをダッキングでかわして体当たりでジクードを飛ばした。

 だがジクードは軽く後方に退いただけだった。地につくと、跳ねて地を這うように殺到してきた。


 ――来い!


 リュウヤは八双に構えを変えて、ジクードを迎え打った。


『だだだだだあああああっっっ!』


 凄まじい圧力と、手刀による突きの猛攻がリュウヤを圧した。手にしていたナイフよりも鋭利な一撃がリュウヤを襲い、頬や肩がわずかな斬られた。だが、それらは皮膚をわすがに削っただけで、リュウヤは粘る。押されても体勢は崩れなかった。


「んなろ!」


 隙を見いだし、踏み込んで胴を深々と斬ると、ジクードは倉庫の壁に叩きつけられるほど飛ばされた。しかし、その刃には手応えがない。


大炎弾ファルバス!」


 リュウヤが追撃して攻撃魔法を放つ。しかし、ジクードも雷鞭ザンボルガで炎を掻き消した。


「ちっ……」


 舌打ちして息をつくリュウヤに、ジクードは不敵の笑みを浮かべる。


『君の剣が、僕に通用しなかった気分はどうだい』

「……斬られなかっただけで、防げなかったじゃねえか」

『これも立派な防御さ。ポイントを争う試合じゃないんだからね』

「まあ、そうだな」

『わかるだろ、僕の硬質化した身体。君に斬れるかい?』

「斬れるな」


 静かにだがはっきりとした口ぶりで言うと、リュウヤは身体を沈めて再び脇構えに構えた。

 自分に絶対の自信を持っているように見える。一本の剣が佇立しているようで、それがジクードには気に入らなかった。


 ――どうせ、でまかせだ。


 ジクードはそう信じ、指先に力を込めて、じりじりと間合いを詰めた。ジクードが右に動けばリュウヤも右に動く。


 ――もう一度だ。


 リュウヤが怯んだエネルギー波から連続技を仕掛ける。

 剣も通用しないとわかったのだから、ジクードとしては構わず攻めるのみ。


『おらあっ!』


 ジクードは膨大な力を込めて、エネルギー弾を放った。だが前にはリュウヤの姿がない。いつの間にか懐まで接近していた。

 ジクードは連撃を放つ。 しかし、リュウヤはカカンと軽く弾き返して、転身していた。

 ふわりと風が舞った。


 ――だが、貴様の剣が通用するものか。


 口を歪めるジクードに、リュウヤはヒュンという空気の抜けた音とともに、柔らかく身体へと吸い込まれように剣を放った。


 ――兜の継ぎ目あり、石にも筋目あり。


 リュウヤの剣は、ジクードが通用しないと自信を持っていた硬質化した皮膚に、その筋目を見出だしていた。

 次の瞬間、存分に斬り裂いたルナシウスの刃によって、ジクードの脇腹から鮮血が吹き出していた。

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