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竜に喚ばれた男  作者: 下総 一二三
第15章「第二次グリュンヒルデの戦い」
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僕が愛から学んだことは、どうやって君が誰かに撃たれる前に、その誰かを撃つかっていうことだけ

 魔空艦“レオナルド”の爆発は、近くにいた魔装兵(ゴーレム)を載せた魔空艇カイトを巻き込んで、暗闇の空に煌々とした爆華を咲かせた。


「“レオナルド”が墜ちたのか!?」


 ジル・カーランドは魔装兵(ゴーレム)のコックピットモニターに映った爆光を目にした後、レーダーで“レオナルド”と知ると、驚きのあまり言葉を失った。

 魔王ゼノキアと思われるエネルギー反応が突然消えたと思いきや、続いて現れたのが、新たな高エネルギー反応と、空に向かって屹立する光の柱に描かれる魔法陣。

 そして、突如爆発を起こしたムルドゥバ軍旗艦“レオナルド”。しかも撃墜されたものではなく、周囲の状況からも明らかに爆発は内部から発生したもので、事故か裏切りだとか不測の事態が起きたとしか思えなかった。


「何が起きてやがるんだ……」


 呻くジルのヘッドフォンに、シシバルの怒声が響いた。


“ぼさっとするな。奴が来るぞ!”


 我に返ったジルがレーダーから顔をあげると、正面のコックピットモニターには、ベヒーモスととも魔人化したアズライルが迫るのが映っていた。砂塵を巻き上げながら、アズライルが真正面から疾駆してくる。 その姿は圧巻で、突進する勢いに加え、“ハエタタキ”と呼ぶ魔装兵(ゴーレム)の腕をまともに受ければ、魔装兵(ゴーレム)などひとたまりもない。


「ちいっ!」


 ジルはペダルを力一杯踏みしめながら、操縦レバーを引いた。魔装兵(ゴーレム)の肩に乗るシシバルが、薙刀で凌いでくれたおかげで直撃は免れたものの、タイミングが一瞬遅れたせいで、アズライルのハエタタキが魔装兵(ゴーレム)の左腕を砕いていた。


『ジル、後退しろ!』


 シシバルはヘッドセットのマイクに叫ぶと、“ブリューナク”で連射式ボウガンを形成すると、肩についている手すりに掴まりながら、片手で矢を地面に向けて連射した。魔力を帯びた鉄の矢は硬い岩場を粉砕し、濃い爆煙を噴き上がらせた。


『小癪な真似を!』


 アズライルは構わず手綱を打ち、ベヒーモスを走らせた。間合いはわかっている。もう一息詰めれば、姿は確認できなくても振れば当たる距離だと思った。当て勘には自信がある。

 構わず砂ぼこりを巨体で粉砕しながら突進し、アズライルがハエタタキを構えた刹那、ぬっと巨大な黒い影がアズライルを覆った。


『なに……!』


 煙を割って、シシバルを乗せた魔装兵(ゴーレム)が、猛スピードで突進してきた。そのまま逃げて距離を取ると思っていたから、アズライルは完全に虚を突かれる格好となった。この場合、シシバルとジルの連携が見事だったと言う方が妥当かもしれない。

 既に“ブリューナク”は長剣を形成している。

 シシバルはすれ違い様、アズライルの胸元目掛けて振るったが、アズライルは寸前で身をよじってかわした。それでも剣先には手応えがあり、シシバルが振り返るとアズライルは左肩から血を流しているのが見えた。

 流れる血をそのままにして、アズライルが馬首を返したが、魔人化した漆黒の表情は苦痛に歪んでいる。その動作は、シシバルの目にはひどく鈍く映った。


『ジル、戻せ!』


 シシバルはヘッドセットのマイクに叫んだ。声に反応して機体を転身させた時には、既にシシバルは長弓につくりかえて矢を引き絞り、アズライルの心臓に狙いを定めていた。

 有望とされながら目立った成績もなく、魔王軍の頃は常に名手の陰にかくれて、器用貧乏と揶揄されていたシシバルだが、どれも武芸は一流で、もちろん弓矢の腕前も一流である。

 今、目に映るアズライルの胸も、シシバルには大きすぎるほどの的だった。


『さらばだ』


 とシシバルが口の中で呟き、矢を放とうとした時、どこからか女の声が響いた。


 ――兄さん、シシバル、上!


『リリシア!?』


 声に釣られ空を見上げると、上空から巨大な灼熱の光球がシシバルたちを照らした。


『ジル、とにかくかわせ!』

“わあってるよ!”


 ジルは叫びながら、推進レバーとペダルを矢鱈めったら力一杯に動かした。本能が命じるまま、どう動かしたのかジル自身でもわからない操縦だったが、辛くもエネルギー弾をかわすことができた。

 それでも地を抉る爆発の衝撃と風圧は凄まじく、魔装兵(ゴーレム)から生じた神盾(ガウォール)で爆風に耐えていたが、やがて灼熱の嵐がおさまると、立ち込める煙の奥からカラスのように騒ぐ耳障りな声がした。


『アズにゃん大丈夫なの?まあまあ、なんて深い傷なの。血が出てるじゃないの。ああもうヤダ。見てたら気が遠くなっちゃいそう』

『アズにゃん言うな。それにこれしきの傷で騒ぐな、みっともない』


 立ち込める噴煙の奥から、戦場に似つかわしくない軽薄なやりとりが聞こえてきた。やがて風で煙が晴れると、シシバルはドレス姿の中年男が、アズライルに治癒魔法を掛けている光景が視界に飛び込んできた。


『ミスリードか……』


 厄介な奴が来たと、シシバルは舌打ちした。


「兄さん、シシバル。怪我はない?」


 空から声がすると、シシバルたちの前に、翼をはやした純白のドレスに身を包む銀髪の女がふわりと降りてきた。アズライルたちを睨み据えた後ろ女の姿に、ジルは自分の目を疑っていた。


「お前……リリシアか?」


 人間であるはずの妹が、どうみても魔族の姿をしている。

 特殊な魔法の作用とも考えられたが、それとも違うような気がした。

 驚愕して上ずったジルの声に、銀髪の女――リリシア――は、紅い瞳を向けてジルを一瞥すると、ごめんなさいと悲しそうな吐息を漏らした。


「詳しいことは後で話します。それより、リュウヤ様のところに」

『リュウヤがどうかしたのか』

「異常な力の乱れ。向こうで何か起きている」

“リュウヤがやられたのか?”

「……だけじゃなく、ゼノキアも」


 リリシアはアズライルたちの襲撃に備えるために、腰を落として身構えた。

 アズライルとミスリードも、いまにも向かわんとばかりに正対しつつ、小声でやりとりをかわしていた。


『ミスリードよ。助けてくれた礼は言うが、肝心の本陣の守りはどうするつもりだ』

『私の部下がきちんとやってくれてるから大丈夫。それよりも、こんなとこで油売ってる場合じゃなさそうよ』


 ミスリードの潜めた声には緊張の色があった。いつもとは違う様子の変化に、アズライルはよほどの異常事態が起きたのだと覚った。


『……ゼノキア様の魔力が消えた』

『なに?』


 驚きの声をあげそうになるのを必死で抑えながら、アズライルは言葉を続けた。


『空に生じたあの蛇紋様の魔法陣はゼノキア様のものだろう。間違いじゃないのか』

『あれは別の誰か。わかんないけど、あそこで何かとんでもないことが起きてる』

『……』


 アズライルは小さく唸った。

 ミスリードは魔力をそれぞれ区別し、感じとることができる。それに、いい加減なことを言うために、持ち場を離れてわざわざここまでくるわけがなかった。

 アズライルはハエタタキを下ろすと、改めてシシバルに向き直った。


『……おい、シシバル。一時休戦だ』

『なに?』

『そこのリリシア・カーランドも感じているのだろう。あの魔法陣の下で何ごとか起きていると。我々はゼノキア様のため、貴様らはリュウヤのため。これ以上、ここで争っている場合ではなかろう』


 アズライルとミスリードの二人を、ゼノキアの下へ行かせるのは正直、危険だと思ったが、シシバルとしてもリュウヤがどうなったのか気がかりだった。

 逡巡するシシバルは、ふと視線を感じ、追うと横目でシシバルを注視するリリシアの視線とぶつかった。厳しい顔つきをしながら小さく頷くのが見えた。


『ジルはどう思う?』

「……」


 ジルは答えず、無言のまま、スクリーンに映るアズライルを睨み据えていた。

 アズライルは死んだ両親の仇。ようやくここまできて、後一歩のところまでだったのに逃したくはないというのが正直な気持ちだった。しかし、傲然と佇むアズライルたちの背後に写る魔法陣が、ジルの視界にちらついている。


“兄さん。お父さんたちもわかってくれる”


 外から聞こえるリリシアの声に、ジルは我に返った。スクリーンに映るリリシアは、悲しげに紅い瞳をジルに向けていた。


「……わかったよ」


 ジルは胸の内に残っている無念を押し殺すように、操作レバーをギュッと握りしめた。レジスタンスのリーダーだからではなく、ジル一個人としても、仲間の危機を放ってはおけない。

 ふっと短く息を吐くと、決然とした口調でジルが言った。


「いいぜ。一時休戦だ」


  ※  ※  ※


 リュウヤは光の柱の中に人影が浮かび、それがアルドだとわかると言葉を失ったまま、じっとアルドを凝視していた。アルドの傍にアデミーヴが飛翔していき、主をかばうようにしてリュウヤを見返してくる。

 無慈悲なまでの冷たい視線が、リュウヤを鋭く突き刺してきた。

 アルドは弱々しく震えるゼノキアを嘲笑していたが、リュウヤの視線に気がつくと、やあとあげた声は陽気で、かえってリュウヤが戸惑うくらいだった。

 

「リュウヤ・ラング君。これまでの働きは見事だ。よくやってくれた。ゼノキアも惨めな有り様。人間の勝利だ」

「将軍……、いったいこれは何なんです。アイーシャに何をした?」


 右腕を抑えながら、よろよろと立ち上がるリュウヤに、大剣を手にしたアルドは憐れみを含んだ微笑を浮かべていた。


「前に言っただろう。君の娘アイーシャに協力してもらいたいと。それに、もう君の娘ではない。今は“人型兵器(ホムンクルス)”アデミーヴ。新しい時代を切り開くために、露払いする私の大切な仲間だ」

「アデミーヴ……?仲間って、何言ってんです。子どもを何故、戦場に引っ張り出す」

「私は聞く。“大いなる力を持つ者は、大いなる責任を持つ”と。私はアイーシャに、その責任を果たさせているだけに過ぎない」


 リュウヤの悲痛な訴えも、アルドは軽くいなすように言った。


「君もアイーシャもこれだけの力を持っていて、自分の身の回りの幸せだけ願うのは、むしのいい話でしかない。幼いアイーシャはともかく、君の考えは受け身すぎる。それだから自分の村も守れないんだ」

「なんだと?」

「君が“竜の力”を得た時、さっさと魔王退治に向かえば、魔王軍の注目も君に集まって動いただろう。そうなれば、ミルト村だって滅びずに済んだのじゃないのかね。そう考えたことはないのか」

「……ある。だけど、この世界に喚ばれた時、ゼノキアに何の恨みもなかった。恨みをないやつを、わざわざ殺しにいくなんてできるかよ」

「で、結局、村は滅ぼされた。圧倒的な力がありながら」

「……」


 リュウヤは返す言葉がなかった。

 所詮は結果論でしかないことはリュウヤもわかっていたが、アルドの指摘はリュウヤが心の深いところで苦悩していた部分を抉りだしていた。絶望の余りに自らをくびり命を絶ったテパの最期は、今もリュウヤの心に暗い影を落とし、苦しめている。


「そうかもしれない。でも、だけど、アイーシャは関係ないだろう!」


 リュウヤは鎧衣紡(プロメティア・ヴァイス)を使って魔力を振り絞り、負傷した右腕と肋骨を治癒させると、残った魔力で蝶の羽根を形成した。鎧衣紡(プロメティア・ヴァイス)で増幅させているとはいえ、未熟な治癒魔法では痛みもかなり残る。しかし、痛みなどに構ってはいられなかった。


「アイーシャを返せ……!」

「リュウヤ・ラング。君は支配される側。信念の無い者など所詮は無力だ」

「家族や仲間と無事に暮らすてのは、信念じゃないてのか。俺には力で支配しようだとか、世界を変えようなんて考えたことはない。俺には野心なんて呼べるものはない。それで何がいけない」

「この期に及んで、馬鹿だな君は」

「……」

「君はこの世界に喚ばれた理由を軽く考えていた。やるべきことをしなかった。常に後手。それが今の結果。娘を失い、妻やアイーシャの友達も失った」

「妻……、セリナのことか?何をした」


 妻と聞き、リュウヤの頭の中が急に冷たくなった。痺れたような感覚がある。アイーシャはセリナや友達と一緒にいたはず。なぜ、今まで考えなかったのか。触れるのを怖れて、無意識に避けていたのかもしれない。


「セリナを……皆をどうした」


 目の奥が熱く、胃がキリキリと痛んだ。

 胸が締めつけられ、息が苦しくなる。いつの間にか、大量の汗が全身を濡らしていた。


「かなり派手に吹き飛んだからな。大好きな友達、愛した我が子に殺されるとはどんな気分だろうな」

「……!」


 リュウヤの頭の中で何かが弾けとんだ。

 冷えていた頭の中が急激に沸騰し、爆発しそうになっていた。心の奥底から一気噴き上がってくる怒りと憎悪の感情が咆哮となって、竜が吐き出す炎のように空を焦がした。


「この……クソったれがああああああっっっっ!!!」


 弥勒から放たれる“天翔竜雷(アマカケルリュウノイカズチ)”はアルドへとばく進していったが、到達する直前、アデミーヴが間に割り込み巨大なバリアを張って、天翔竜雷(アマカケルリュウノイカズチ)の強大なエネルギー波を拡散させた。


「エリシュナとムルドゥバを襲ったのと、同じタイプなのか!?」


 自分の娘が無事とわかり安堵しつつも、同時にアデミーヴが張ったバリアにリュウヤは驚愕していた。いかに操られているとは言っても、大元はアイーシャの力なはずである。ここまで高度な魔法が使えるようになっていたとはリュウヤでさえも知らなかったことだった。


「危ない危ない。力を手に入れる前にやられてしまうとこだった」


 拡散したエネルギー波は霧のようになって空中に漂う中、アルドの笑い声がした。人の肉体ではひとたまりもない熱波が迫っていたにも関わらず、その声は楽しげで余裕があるように聞こえた。


「アデミーヴがいてくれるから、私ともあろう者がつい、ボサッとしてしまったよ。君に偉そうなことを言っておいて、恥ずべきことだ」


 アルドがそこまで言うと、その身体を光が包み、次第に激しさを増していった。激光は霧のように空中に漂っていたエネルギー波の残滓を吹き飛ばし、やがて光が消え去ると、そこには軍服を着た青年が佇んでいた。

 疲れきった肌の皺や弛みが消え、肌には張りや艶がある。どちらかと言えば肥満と呼べる体型も腹が引っ込み、代わりに筋肉が盛り上がって軍服からはち切れんばかりとなり、岩のようにがっしりとした逆三角形の体つきになっている。

 外見は二十代半ばの青年を思わせる風貌に変わり、見る者が見ればリュウヤの方が年上に見えたかもしれない。

 素晴らしいと、アルドは身体を動かしながら言った。


「腰痛が消えたのが、何よりも嬉しい。さすが魔王ゼノキアの力といったところか」


 アルドがエクスカリバーを軽く振ると、猛風がリュウヤを襲った。鎧衣紡(プロメティア・ヴァイス)で衝撃を緩和させたが、嵐に耐えるだけで精一杯だった。


「……たしかに凄いパワーだ」


 鎧衣紡(プロメティア・ヴァイス)の羽根が輝きを増した。切っ先をアルドに向けながらリュウヤは吼えた。

 敵。

 リュウヤは内から沸き起こる嫌悪と怒りで身震いしていた。

(マスター)”と自称するアルド・ラーゼルという男は、新たな不幸を撒き散らす敵。本当の敵だとリュウヤは確信した。


「……だが、アルド。(マスター)とやらの力はこんなもんかよ!」


 パワーはゼノキア並。確かにそれは、恐ろしい力を秘めている。

 だが、そこまでだった。剣技にしても、腕は立つと耳にしているが、話に聞く限りではシシバルくらいだろうと推測していた。厄介なのはエクスカリバーだろうが、今のアルドに絶対的圧倒的な強さは感じない。


「慌てるなリュウヤ君。私はまだ完全ではない。言うなれば私は魂」

「魂?」

「これが完成するには“肉体”の他に、三つのものが必要だった。ひとつは持ち主を選び、持ち主の意思によって力を発揮する聖剣エクスカリバー。そして“肉体”を動かすための絶大な魔王ゼノキアの力。なにより志を成し遂げるための人の魂。これで、四つすべてそろった」

「……」

「これから、私の“肉体”をお披露目してあげよう。アデミーヴ!」

「了解。(マスター)


 アルドに促され、アデミーヴが空に向かって両手を掲げた。先ほどの聖魂寄生(ハレルヤ)の魔法陣よりさらに大きな魔法陣が闇の空に描かれる。


「ついにこの時がきた」


 陶然と魔法陣を見上げながら、アルドはエクスカリバーを天高く突き上げた。 剣先の魔法陣からキラリと光るものが、リュウヤとゼノキアの目に映った。銀色の菱形状の物体で、硬い光を放つそれは、何かの金属板だろうと思われた。


『あれは……ミスリル銀のプレートか?』


 ゼノキアが衰えた視力で、睨むように呟いた。

 魔王であるだけに魔法金属にも知識があり、老いた目でもすぐに正体を識別していた。

 暗い光沢を放つ銀色の金属板は次第に数が増え、キラキラと星のように瞬いている。ミスリルプレートは互いに繋がり始め、大きな菱形のプレートとなると、さらに繋がってひとつの物体を形成しようとしていた。

 アルドの身体はミスリルプレートに向かって上昇し、ミスリルプレートも形成しながらアルドに引きつけられていく。


「さあ来い。我が“肉体”プリエネル!」


 アルドの身体が金属製の“肉体”の中に収容された時には、ミスリルプレートはあるひとつの形をつくりあげていた。

 空には数十メートルを悠に超える巨大な鎧が浮遊している。足は無く、代わりに細長い菱形のものが尻尾ようについている。ムルドゥバ襲撃事件時に居合わせた将校がいれば、初期のアデミーヴを連想したかもしれない。

 鳩尾にあたる箇所は球状となっているが、それ以外は、腕も肩も指先でさえもすべて菱形で構成され、外見からは独楽(こま)を連想させたるそれは、兜に似た頭部から瞬く紅い一つ目で、リュウヤたちを睥睨していた。


『……何が“(マスター)”だ。結局は“機神(オーディン)”、ただの兵器ではないか』


 嘲笑うゼノキアの一言に、プリエネルから“もう違うな”とアルドの声が響いた。


“基本設計はファフニールやヒュドラを参考にしているがね。操縦席にあたるコアは私とエクスカリバーの力によって、特殊な結界をつくりだしている。魂である私がコアに入ることによって、プリエネルは完全なる(マスター)となったのだ。ここにいれば疲れや空腹、衰えもなく、もう眠りや休息も必要としない。プリエネルの目はこの星すべてを見通す。どんな悪や敵を見逃さない。私はいつでも君たちヒトの傍にいられる”

『……』


“まあしかし、(マスター)を疑うなら、まずはわかりやすく、私の力を見せてあげようか”


 唯一球状となっているプリエネルの腹部が上下に分かれて開き、プリエネルの一つ目と似たような不気味な紅い球体が現れた。

 紅い球体に、光の粒子が集まりプラズマを発生させながら、強烈なエネルギーの塊が滞留し増幅していく。震える大地に亀裂がはしり、砕けた岩の欠片や小石が光の粒子とともにプリエネルの紅い球体に吸い込まれていった。


「あの球みたいなやつが砲口なのか?」


 凄まじいエネルギーに、リュウヤもゼノキアも慄然としていた。


“トゥール・ハンマー。(マスター)の力をとくと見るがいい”


 カッと眩しい光がリュウヤたちを照らしたかと思うと、プリエネルの腹部から巨大な光の柱が屹立し、鋭い閃光が切り裂くように闇の空をばく進していった。

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