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竜に喚ばれた男  作者: 下総 一二三
第15章「第二次グリュンヒルデの戦い」
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リュウヤ・ラング対魔王ゼノキア

 怒りという感情は、力を沸き立たせる要素のひとつではあるが、ほとんどの者は力を上手く操れず、力を増したと錯覚して身体は力んで強張ってしまい、結局は自らの力で自分の身を拘束するだけとなる。

 ゼノキアはその怒りという感情を上手くコントロールし、力に転用できる数少ない存在だと自覚していた。


 ――だが、ここにもいたのか。


 挑発に使った亡き友人テパの話に激昂げきこうするリュウヤの剣は、これまでよりも冴えを増し、ゼノキアを圧していた。

 繰り出す刃を凌ぎ、返す刃は身を凍らす鋭さがある。ゼノキアの剛剣をふわりと柔らかくいなし、速さを競っても蝶の羽根によって瞬時に追いついてくる。

 どれほど鍛えていたとしても、肉体は普通の人間。

 竜の力を失ったリュウヤ・ラングの体はガラス細工、せいぜい陶器といったところで、力でははるかにゼノキアが勝る。実感としてはテトラ・カイムより力は劣り、ゼノキアの一撃がまともに当たれば致命傷となるはずだが、リュウヤ・ラングはそれらを全て自身の技のみでカバーしていた。

 リュウヤは柳々(りゅうりゅう)と流れる風のようにゼノキアの剣をかわし、返す刃でゼノキアの肌をわずかにだが傷つけていく。

 ゼノキアの剣は一太刀もリュウヤの肉体に届いていなかった。

 絶妙な剣技に、ゼノキアは内心舌を巻き、力に変えるという自身の怒りはいつの間にか冷めてしまい、焦燥しょうそうの念がゼノキアを支配しようとしていた。


『おのれ!』


 力任せにラグナロクを振るったが、リュウヤは八双からやわらかく受け流して転身し、脇構えの変化から一気に踏み込んで袈裟斬りから刃を放った。

 防ぐだけしかできず、ゼノキアはラグナロクの刃を盾代わりにして辛くも弾くと、そのまま距離をとって、ようやく息をつくことができた。


「どうした。魔王様の力はそんなもんか。たかが人間の剣にさがるのか」

『……』

「人てもんを見くびるなよ」


 ゼノキアは大きく呼吸をしながらリュウヤをじっと見つめていたが、肩に痛みを感じ、触ってみるとヌラリと指が濡れた。防いだと思ったが、防ぎきれなかったらしく、わずかだが血が指先についている。

 以前にも刃を交え、幾つか軽い傷を負っているが、その時は小細工を使うという印象しか持てなかった。だが、考えを改めなければならないとゼノキアは思った。


『……“リュウヤはあなたより強い”か』

「あ?」

『テトラが言っていた言葉だ。なるほど、今の剣技は凄まじい。テトラの言葉にも納得できる』

「……」

『これまで、貴様のような剣士と出会ったことはない。万夫不当とは貴様のようなやつにふさわしいのだろう。貴様を真似したがる連中の気持ちもわからんでもないな』


 今度はリュウヤが黙る番となった。

 ゼノキアの誉め言葉に、嬉しかったり誇らしいからと耳を傾けるために黙ったのではなかった。人間など虫けら以下とし、その存在を一顧だにしないゼノキアが誉め言葉を口にすることで、リュウヤはより警戒心を増していた。距離はあったが、足を踏み直しゼノキアの動きに備えた。


『認めよう。リュウヤ・ラング。貴様は本物だ。たしかに私の先を行っている』

「……」

『だが、戦いとは剣だけではない。私は全てを以て貴様に追いつき、そして越えてみせるぞ』


 自分に言い聞かせるように、静かに佇むゼノキアから不意に強烈な殺気が放たれ、リュウヤは総身が粟立つのを感じた。

 ゼノキアは手をリュウヤに向けた瞬間、ゼノキアの足下に魔法陣が生じた。手の内に魔力を溜め込んで一気に解き放ち、地が割れて、無数の巨大な火柱がリュウヤを呑み込もうと屹立した。

 魔族王家に伝わる超高位魔法“逸昇耐無(ウィザード)”という火炎系魔法を放出したが、リュウヤは光の羽を広げながら、次々にのびあがる火柱を巧みにすり抜けていく。

 魔法効果が消えたと思った刹那、ラグナロクを肩に担ぐような姿勢で、ゼノキアが眼前に迫っていた。


「ち……!」


 ゼノキアの速さが増したわけではない。

 リュウヤ・ラングを本物と認めることで、ゼノキアの意識が変化し、攻撃や動きに幅が増えていた。

 八双から振りかぶってきた刃をリュウヤは体をひねってかわしたのだが、続いて下段から斬りあげてくる。鋭い斬撃だった。しかし、そのときには、リュウヤはゼノキアの横を身を低くして駆け抜けてかわしていた。汗止めからこぼれるリュウヤの髪を、わずかにラグナロクの刃が薙いでいった。

 ゼノキアの視界には、細やかな光の粉が空中にきらきらと舞っていた。


『ちょこまかと動く!』


 ゼノキアは振り向き様、地面に大炎弾(ファルバス)を放つと、爆煙に紛れて後退しながら印を結んだ。ゼノキアの上空に無数の魔法陣が浮かび上がる。

 ゼノキアは手を振りかざすと、魔法陣から氷の塊が生じ、刃となって四方に散開した。


『……行け、“氷刃散華(ドライフラワー)!!”』


 解き放たれた無数の氷の刃は、咲いた花のように拡散して四方からリュウヤへと襲いかかる。リュウヤは鎧衣紡(プロメティア・ヴァイス)の羽根を輝かせて後退しながら、蕾が閉じるように氷刃の群がリュウヤへと集まったところで、一気に天翔竜雷(アマカケルリュウノイカズチ)を放った。

 竜を模した巨大なエネルギー波が氷刃散華(ドライフラワー)を呑み込み、一瞬で蒸発させてしまうと、そのまま、エネルギー波は地表を抉りながら、ゼノキアへとばく進していった。


「いっけえーーーー!!」

『うおおおおおお!!』


 天翔竜雷(アマカケルリュウノイカズチ)がゼノキアに到達する直前、ラグナロクから放った闘気の一撃が天翔竜雷(アマカケルリュウノイカズチ)に激突して、猛烈な爆発を起こして生じた光球は天まで照らした。


「くっ……」

『ぬうう……!』


 凄まじい衝撃波を近距離から浴び、リュウヤとゼノキアは身動きができず、それぞれバリアを張って、土砂と灰が吹き荒れる黒煙の嵐を耐えるしかなかった。


『ずありゃあああーー!』


 ゼノキアがラグナロクを跳ね上げると、二つの激突したエネルギー波は一直線に空へと昇っていった。

 青白い強烈な光が空に消え、代わりに穏やかな日射しに照らされる二人は、汗みどろになって対峙していた。


『リュウヤ・ラング……!』


 ゼノキアは歯を食いしばって、顔の汗をぬぐいながら目の前に映る強敵を睨み据えた。


「見事だ。魔王ゼノキア」

『それは、こっちの台詞だ』


 汗まみれになりながら、二人は笑みをこぼした。どちらも何故笑ったのか、自分でもわからないでいる。ただ、沸き起こる高揚感に笑みを浮かずにいられないでいた。


『リュウヤ・ラング。私の全てを受ける覚悟はあるか』

「あ?わざわざ受けるかよ、そんなもん」

『せっかくだ。そう言わず、受けてみろ。世界を統べる者の意思と力。貴様には到底持てないものだ』

「だから、そんなものもいらねえよ」


 リュウヤは吐き捨てるように言った。


「……アイーシャは、もうすぐお姉ちゃんになる」

『なに?』


 予想もしない言葉に面食らって、ゼノキアはリュウヤが何を言ったのか、はじめは理解できないでいた。


「弟ができたんだ。はやく、この戦いを終わらせて、家族や仲間と笑って暮らすんだ。セリナのあったかい手料理も食べたい。テメエの思い描く世界とか時代とか、クソみたいなもんにこれ以上付き合っていられるか」

『それで私に勝つつもりか』

「勝つさ。この世界は……、想いを力に変える」

『くだらんことを。失望したぞ、リュウヤ・ラング!』


 ゼノキアは印を結ぶ指先を動かすと、高らかに声を張り上げた。


『“我らを祝福する鐘よ”!』


 声とともに、ゼノキアからすさまじい魔力が膨れ上がっていく。ゼノキアの周囲に無数の鐘が現れ、大音響を鳴らしながら更に魔力は増大していった。


“響け、響け。天を鳴らせ

 地よ、鐘の音に鳴動せよ

 海よ、鐘の音に粉砕せよ

 森よ、鐘の音にその葉を枯らせ

 鐘の音は我らが勝利を告げる証

 すべてにすべての者に鐘の音を届けよ”


 ゼノキアから発する魔力は大気を大地を揺るがし、詠唱だけで全てを焼き尽くす勢いがある。リュウヤは大地に踏みしめる足に力をこめ、凝然とゼノキアを見据えていた。


『受けてみろ。私の最大魔法……』

「来やがれ、耐えてやるさ!」


 リュウヤは騎馬立ちになり、刀身を横にした両手を前につきだした。


「頼むぞ、鎧衣紡(プロメティア)!」


 鎧衣紡プロメティア・ヴァイスから放出された魔力が弥勒の刃に集まると、リュウヤの意志にさらに増幅されて分厚い強靭なバリアを形成していく。


聖歌福音鐘(ジーングールベーール)!!!』


 ゼノキアの咆哮とともに発せられた巨大なエネルギーの津波は、大地を粉砕しながらリュウヤをバリアごと飲み込んでいった。


  ※  ※  ※


 激震とともに空に広がる光球はグリュンヒルデの戦場からで確認でき、ムルドゥバ軍旗艦“ペルセウス”の乗組員たちは、艦橋に飛び込んでくる異様な光量を目にして言葉を失っていた。モニターに映るレーダーも異常な数値と反応を示し、情報が錯綜して通信係が対応に追われていた。


「あれがリュウヤ・ラングとゼノキアの力……」

「そうだ」


 わかりきってはいたが、艦長の呟きに誰も答える者がいなかったので、アルドが短く答えた。


「しかし、ゼノキアはともかく人間の力としては常軌を逸しています。いくら鎧衣紡(プロメティア)があるとはいっても……」

「リュウヤ・ラングは“この世界は想いを力にできる”と言ったらしい」

「想いを力に……?」


 多感な学生辺りが詩で語りそうな文言を、艦長は真顔で反芻していた。口にしたのがアルドでなかったら、艦長は失笑していただろう。


「リュウヤ・ラングの放つ力は、精神力ということですか?」

「基本的に、あのミスリルプレートから生じる力は魔力を増幅したもの。コントロールするのは精神の部分なのだが、リュウヤの言い方だとそれだけでもないようだ」


 と、アルドは正面を向いたまま言った。巨大な光球が完全に消滅すると、思い出したように戦闘が再開した。艦橋は喧騒に満ち、爆発の衝撃で船が激しく揺れたが艦長とアルドの会話を妨げるほどではない。

 艦長が乗組員に指示を送るのを待って、アルドは口を開いた。


「彼は異世界の人間だ。彼の住む世界には魔法が存在しないらしい。だから、この世界との違いを感じられるのだろう。もちろん、幾ら違いを感じとることができても、彼のように具現化した膨大なエネルギーを、意のままに操ってしまうような精神力を持つ異世界人など、そうはいないだろうが」

「……」

「そこはさすがに、“竜に喚ばれた男”というべきかな。我々の勝利は近い」

「リュウヤ・ラングは、魔王に勝てると?」

「艦長はテトラ隊長がゼノキアと刃を交えた時の話を聞いてないか。“リュウヤ・ラングはその先にいる”と」

「……」

「さ、君も艦長の業務に専念したまえ。まだ戦いは終わっていないのだ」


 アルドが促すと、艦長は興奮を隠しきれないといった表情で、乗組員たちに檄を飛ばした。勝利は目前という言葉を聞いて、艦長の声はそれまでよりも張りがあり、明るさに満ちていた。

 アルドはそんな艦橋の様子を眺めながら、艦長席からおもむろにハンドセットを手にとり、“5”と記されたボタンを押した。二回ほどのコール音の後、プツリと音が切れ無言が続いた。だが、人がいるのは、小さな呼吸音とわずかに物が擦れる音で伝わってくる。


「アデミーヴか」

“はい、マスター”

「ケイン君はちゃんと眠っているか」

“はい、そばの席でぐっすり”

「もうすぐ出撃だ。リュウヤとゼノキアの位置はわかるな」

“はい、マスター”

「戦いはリュウヤが勝つ。しかし、弱らせても殺させるなよ。ゼノキアは大事なパーツだからな」

“はい、マスター”


 頼んだという言葉を残して電話が途切れた。

 薄暗い部屋の中、アデミーヴと呼ばれた幼い少女が、不通音の流れるハンドセットをじっと眺めている。感情のない、冷たい瞳で。

 やがて、アデミーヴはハンドセットを元の壁の位置に戻すと、ゆっくりと室内を見回した。


「……リュウヤ・ラング、感じる」


 アデミーヴが止まった先には、一人の痩せた男が椅子にぐったりと座り込んでいた。白衣をまとい、うなだれたまま動かない男の表情は見えないが、左胸には紅い血が白衣に滲んで、大きな丸い染みをつくっていた。血は腕を伝って流れ落ち、床を濡らして小さな水溜まりをつくっていた。

 かつてケイン・キューカと呼ばれていた男は、アデミーヴの手に掛かって第二通信室に置かれた悪趣味なオブジェと化していた。

 アデミーヴの冷たい視線はケインの肉塊を通り過ぎ、無機質な鉄の壁を凝視していた。

 もちろん、ただ壁を眺めているのではなく、その先に映るものに神経を集中させていた。

 じっと、その時が来るの待って。


  ※  ※  ※


『どうだ、私の聖歌福音鐘(ジングルベル)は……』


 ゼノキアは喘ぎながら、視界を覆う濃い噴煙を睨んでいた。

 ゼノキアの最大攻撃魔法“聖歌福音鐘(ジングルベル)”を正面から喰らって、これまでに耐えられた者はいない。跡形もなく消し飛ぶか、奇跡的に生きていたとしても、ぼろ雑巾のように地に伏しているかだけだったのだから。


『どうだ、リュウヤ・ラング……。いかに蝶の羽根でも、この魔力に耐えることはできかっただろう……』


 くっとゼノキアの口から声が洩れると、堰をきったように大声で笑い始めていた。疲れきっていたが、込み上げてくる感情をゼノキアは止められないでいる。

 何十年かぶりに味わう、実に爽快で愉快な気分だった。

 普段の傲岸不遜なゼノキアに戻り、腹の底から込み上げてくる喜悦の感情をそのまま吐き出し、哄笑を黒煙立ち込める空に響かせていた。


「やはり私は魔王ゼノキア。世界を統べる者。最強の存在。誰も敵わぬ!」


 エネルギーをかなり消耗してしまったし、バハムートが残っているはずだが、リュウヤさえ片付ければ、あとは何とでもなる。

 ゼノキアは最も近い戦闘区域を探ろうとした。先ほどから、幾つか近くで戦闘が行われていたのは気がついていたが、注意を向ける余裕などなかったのだ。

 だが、神経を集中させた瞬間、直近で異様な力を感じた。リュウヤがいた位置からだ。


『なんだと……?』


 慌てて目を向けると、黒煙の中に青白い電流がはしるのが見えた。信じがたい光景を目の当たりにして、ゼノキアは目を見開いて黒煙を凝視していた。

 やがて煙が風に流されていき、その下から人の姿が浮かんできた。

 片刃の剣を横にして両腕の付きだし、騎馬立ちの姿勢に構えるリュウヤ・ラングがそこにいた。

 埃で顔は汚れていたが、目立った外傷もない。


「……どうだ、ゼノキア」

『バカな。嘘だろう』


 ゼノキアは呆気にとられるあまり、間の抜けたような声が自分の耳に届いた。

 あり得ない。

 驚愕するゼノキアに、リュウヤは口元を歪めた。


「これが、想いの力てやつだよ」

『何が想いの力だ……!』


 ゼノキアはギッと歯を鳴らし、右手にラグナロクを形成した。

 馬鹿げている。

 自分の渾身の最大魔法が、大昔には命を削る覚悟で使った魔法が、家族を守る程度の意志しか持たない、たったひとりの人間に通用しなかったというのか。


『私の世界制覇の志が、たかが、家族を守る意思に劣るだと言うのか!?』

「大事なのは何を想うかじゃない。その想いの強さだ!鎧衣紡(プロメティア・ヴァイス)は想いを体現してくれる」

『抜かせ!』


 ゼノキアは吼えると、爆発したように闘気を燃え上がらせて、一気に猛進してきた。歯を剥いた口には泡を溜め、憎悪に満ちた表情は魔王という名にふさわしく思えた。

 

『行くぞ、リュウヤ・ラング!』

「来いよ、魔王ゼノキア!」


 互いの咆哮が天を揺るがした。

 ゼノキアの長身がさらに大きく、山が迫るような迫力をともなってリュウヤを覆ってきた。剣が上段から到達する直前、脇構えのリュウヤは一歩踏み込み、身体をわずかに斜めに傾けながら思いきりゼノキアの肩目掛けて“弥勒”を振るった。

 擦れ違った時、リュウヤは自身の刃から肉を裂いた感触が伝わってきた。


『ぐあ……!』


 呻き声と重い音がし、振り向くとゼノキアが地面に突っ伏している姿があった。

 激しく喘鳴ぜんめいし、抑える肩からは濃い血が流れ落ちている。

 リュウヤは額に手をやった。エリシュナの袖を使った汗止めが斬られてひらりと舞い落ちたが、それだけだった。


「魔王ゼノキア。これで終わらすぞ」


 無傷のリュウヤは、ゼノキアを睥睨へいげいするように近づいていった。ゼノキアが歯を食いしばりながら睨みあげてくるが、どうすることもできないでいる。リュウヤに油断は無く、治癒魔法で傷を治癒できても、斬られる距離だとわかっているようだった。治癒魔法は傷を癒しても失った血や疲労まで回復させるわけではない。

 リュウヤはゼノキアの傍らに立つと、大きく上段に構えた。

 斬首を執行する役人のように。


「……ミルト村のみんなのために」


 あとは刃を振り下ろすだけ。

 その時だった。

 リュウヤの傍で金色の光が発し、その中から小柄の人影が現れた。

 銀色の鎧をまとった幼い少女。

 未来のために守るべき、愛しい我が子。


「……アイーシャ、か?」


 自分の目を疑いながら、突然現れた幼き少女に戸惑いながら声を掛けると、少女はガラスのような瞳でリュウヤをじっと見つめ返してきた。


「私のなまえは、アデ、ミーーヴ」


 次の瞬間、リュウヤ・ラングは地面に叩きつけられ、視界は墨で塗られたように真っ暗になっていた。

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