千里、稲妻と代役。■2014/01/11 14:40
千里はペンを乱暴に置いた。ここのところどうしても集中力が途切れがちになっている。十五時まで、と思っていたのにも関わらず、これ以上机に向かっていられなかった。そんな自分にも苛立ち、深いため息を吐く。
「もう……っ!」
智之に話しかけに行ったことと睡眠を除けば丸三日、千里は勉強に没頭していた。一人きりの勉強は慣れているつもりだった。智之が来てくれなくても、また今までと同じに戻っただけだと。だけど満たされない。
勉強は自分のためのもの、という常識は、積み重ねの存在しない狭間においては意味を成さない。ならばせめて、頑張りを誰かに認めてもらいたい。でなければ、無限に広がる空虚さに押し潰されてしまいそうだった。
狭間では全く労することのない暗記教科は、自信を保つのに役に立つ。代わりに国語系教科は記憶云々よりも自分の感覚によるものが大きいため、場数を踏むことによって勉強した、と思うことができる。事実を知って以降は国語の勉強量を増やした。
センター試験まであと約一週間。まだ智之は立ち直ってはくれないのだろうか、と彼の拠点の方を見やる。丘の斜面に寝そべりぼんやりと空を見上げる姿があった。そこには青と白をバックにいくつかの浮島が――。
刹那、背後に晴天の霹靂。閃光が音もなく一直線に宙を裂く。眩暈を引き起こすほどの光が、おそらく千里のいる場所からそう遠くない場所に落ちた。
「今の、何だろう」
似た光ならば三日前にも目にしたのだが。しかしあれは徐々に強くなっていったのであって、こんな雷のようなものではなかった。疼く好奇心に従って千里は走り出す。智之の拠点とはほぼ反対の、島外縁部の方へ。
三分足らずで似非落雷現場へと到着する。そこは地面が抉られ悲惨な光景が――ということもなく至って平坦であったが、多分年下らしき小柄な女の子が、長い髪を乱したまま倒れていた。
「起こした方がいい……よね?」
誰も聞いていないと分かっていても、そうするべきか迷って口にしてしまう。返事がないので意を決して、千里は彼女の肩を揺さぶる。
「ねぇ、大丈夫? ねえっ」




