友達がすぐに暴走するので…僕が死にそうです。
今僕は――人生の中で最大の危機に直面している。
僕の友達、前島くんはすでに臨戦状態。
眼前にはたぶんだけど――姿形から頭に角を生やしたゲームでよく見る「食人鬼」の群れ?数は…一、二、三、四…たくさん居すぎてわかんないや。
たぶん数百は超えるでしょう的な?まぁ…そのぐらい。
「コハル…」
「僕は小春だよ、前島くん」
「そうだったな…コハル」
もう正しく呼ぶ気はないでしょう、前島くん…。
僕より頭ひとつでかい前島くん。顔もかっこいい。女の子にも人気がある。
でも、これはもうこんな場面では関係ないよね。だってきっと「食人鬼」には僕らの美的感覚なんて関係ないだろうから。
◆◆◆
僕らは「桜が丘公園」にいた。
時刻は――午後四時を少しまわったぐらい。
なんてことはない。
前島くんが、2組の武石さんに告白されたので、どう答えればいいかなんてことを僕に相談してきたから、僕が「正直に君の気持ちを答えれば?」と、こんな相談もう何回目?とうんざりという気持ちで答えていたときだったかな。
前島くんが「そうだな」と言って、足元に落ちていた近所の子供が遊びで使っていた一メートル以上はある棒っきれを手にとったときにそれは起こった。
突然、ぴっかーとその棒が輝いて――。
あまりの眩しさに僕は目を閉じて――気がついたら、遠くに山々を望むこの大平原に僕は前島くんと立っていた。
◆◆◆
「ねぇ…前島くん。ここさ…たぶんだけど、こっちに向かってくる「食人鬼」はさ。僕らを狙っているというより、この先にいる…あっちの森の前にいる、人の集団に向かっている…って感じだと思うんだ」
「俺もそう感じた。さすがだな、コハル」
小春だよ、前島くん。
僕は心の中でそうツッコんだけど、この際どうでもいい。
そう。僕らの後ろには、数百人程度の人たちの集団がこっちを見ている。
と、いうよりも「食人鬼」を見ている。という様子だ。
「たぶん戦いのど真ん中に出ちゃったと思うんだよね」
「そうだな」
「と、いうことは、この戦いは僕らに関係ないことだと思うんだ」
「そうだろうな」
「あっちへ逃げない、前島くん」
「男が戦いに背を向ける気か、コハル?」
だから僕は…って、どうでもいい!!
それに「男」の使い方間違っているような気がするよ前島くんっ。
今、ここで命をかける時なのかなっ!?
「僕は無力だよ、前島くん!!」
「それでも男はやらなければならないときがあるっ」
君の力説はあとで聞くから、前島くんっ。
それに君の武器は、その棒っきれ一本だけじゃないかっ!!どうする気、前島くんっ!?
「行くぞ、コハルっ!!」
「ちょっ…前島くんっ!!?」
何考えてんだぁ―――っ!!!僕には棒っきれ一本も武器はないっ!!
前島くんの勢いに釣られたのか、しなくてもいいのに「食人鬼」の群れまで駆け出してきたっ!!
オーマイガっ!!僕はまだ死にたくな――いっ!!
あ――前島の野郎っ!!棒っきれ一本で「食人鬼」の群れに突入しやがってっ!!
ってか何、あの棒っきれっ!?「食人鬼」の武器である剣やら斧やらと互角に張り合ってるじゃんっ!!?どうしてっ!?
前島くんも、構わず「食人鬼」を切っては投げ、ちぎっては投げ、折って畳んで――そんなことはどうでもいいや。
すごいっ!!たったひとりで、たった一本の棒っきれですごくないかっ!?
すごいや、前島くんっ!!ブラボーっ!!ハラショーっ!!
最強だっ!!たった一本の棒っきれで「最強」してるよ、前島くんっ!!
なんて――前島くんの勇姿に見とれていた僕は――自分の立場に気がついた。
前島くんはひとり。そうだよね――数百いる「食人鬼」を全部相手に出来るわけもなく。
それは「食人鬼」たちが、前島くんひとりに向かっていくということが最低条件なわけで。
僕が近くに立っていれば――そりゃこっちに来るってもんで。
「う……うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
僕は無力なんだよ――っ!!
そんな叫びは当然「食人鬼」たちに届くはずもなく。
剣やら斧やら槍やらを振り上げて向かってくる――僕を殺そうと向かってくる相手に、僕はただ叫ぶだけ。
僕はまだ死にたくないっ!!
そう心の中で叫ぶだけで精一杯の自分に情けなくなる。
「コハル――っ!!」
前島くんが僕を呼ぶ声が遠くに聞こえる。
君との付き合いは一年ぐらいだったね。なんやかんやで楽しかった――ような。
でも君と友達になったばっかりに、僕の人生は大きく狂ったみたいだ。
さよなら――前島くん。
その時。僕は体の奥で――何かが熱く――弾ける感覚に襲われて。
僕の体が白銀に輝き、「食人鬼」の群れそのものを包み込むほどの光を発した。
らしいけど。
僕は自分の目の前は真っ白に包まれていくことしか覚えてなく、あとは意識がすっ飛んでいたんだと思う。
◆◆◆
「…はる…コハルっ!!」
前島くんの声で僕は意識を取り戻した。
「○△□○✖……」
えーと…。
僕は…天井を見る限りどこかのテントの中のような?
そんなところに寝かされているみたい。
それに。僕の右隣には前島くんと、僕にもっと近いところには――金髪のロングヘアに、耳が尖っていて――これは「エルフ」という生き物でしょうかぁ!?
そんな間違いのない美女が、僕を心配そうに覗き込んでいた。
その美女さんが僕に声をかけてくれているんだけど、まるで言葉がわからない…。
間違いなくここは「異世界」というやつですね。と僕は実感した。
って前島くん、いつの間に、その美女さんとお話をしている…。
君はどこまでなんでもありなんだよ、前島くんっ!?
って――え?あの――美女さんの顔が僕にみるみる近づいて――。
髪をかきあげる仕草がたまんねぇーじゃなくてっ!!
えっ!?自分の唇に、別の柔らかくて温かい感触を感じて。
「どう?」
美女さんが僕に話しかけた。
「はい…気持ちよかったです……」
って違うだろ、僕っ!!
「それはよかった」
美女さんはにっこりと微笑んだ。すっげぇ綺麗なんですけど。
「ここはエルフの森の前らしい。俺たちはこのエルフ族に呼び出された「勇者」なんだと。
それにこうすれば、この世界の言葉が話せるようになるらしい…」
なんて安直な…。
前島くんの説明に、僕は――生きる気力を失うほど脱力した。
「とてもかっこよかったわ…コハル」
って美女さんが――っておいっ!?どうして僕が「コハル」になってるんだ?お前のせいだろ前島っ。
「お前があの「食人鬼」をほとんど倒したんだぜ、コハル」
だから――前島くん。僕は…って――え?
「僕が…!?」
「えぇ。そうよ、コハル。私はターニャ。よろしくね、コハル」
もうコハルでもオハルでもどっちでもいいっ。
ターニャさんかぁ――笑顔がすごく抜群に綺麗です。
前島くんとターニャさんの話を要約すると、僕のあの光が「食人鬼」の群れを消し飛ばしたそうだ。
「え?僕、もしかしてチートっぽい…とか?」
「意味がわからんが?」
そうか。君はスーファミ(スーパーファミコン)しかやったことがないんだっけ――前島くん。つか、今の世の中、スーファミを持っている事自体、天然記念物かもしれないよ、前島くん……。
僕は起き上がり、テントの外に出てみた。
太陽が山に落ちかけていて――すごく大きい。
「ここは「異世界」なのかな…前島くん」
「そうだな。だが、これからどうするか……」
「そうだよねぇ」
でもこれから――ターニャさんと――僕はちょっとエッチな想像をしてみる。
「お前…今変な想像しただろうっ!?」
「し…してないよっ!!」
どうしてこういう嗅覚だけは鋭いんだ、前島くんっ!!
と、ここで前島くんの持つあの棒っきれがまたぴかーっと光って――嘘っ!?
僕、まだターニャさんとぉっ!?
◆◆◆
僕はがばっと体を起こした。
そして左右上下をくまなく見回す。
ここは間違いなく――「桜が丘公園」。
時刻は午後四時半すぎ――。
「……夢オチ――っ!?」
最悪なんですけど――っ!!?
「大丈夫か、小春?」
「僕はコハルだよっ…ってあれ?」
僕は前島くんを見つめた。
「…ってことは、俺とお前は同じ夢を見ていた…ということだな」
僕はベンチの上に寝かされていて。
僕の右隣には前島くんが覗き込んでいた。
「……そうくるかぁ…」
僕はそう呟いた。
「でも…あれだな」
「何?」
僕は不機嫌そうに、ベンチに腰掛け前島くんを睨んでいた。
彼が悪いわけでもないんだけどね。
「お前となら…またあの世界に行くのも…楽しいな」
「誰が行くか――っ!!」
僕は力の限りに――前島くんに叫んでいた。
でも――またあのターニャさんに会いたいとは――少しは思うけどね。
終わり