雷獣Ⅰ
ザーッザーッ
晴天だと伝えられた天気予報は、初夏に似つかわしくない灰色の雲で
覆われていた。
そんな中一人のビジネスマンが、カバンを雨避けにし住宅街を走り回っていた。
男は鳥居を見つけると階段を駆け上がる。
複数の鳥居をくぐり抜けるとほ
そこは小さな神社だった。
ようやく登りきるとそのまま本殿に入り込んだ。
カバンを下げ、ハンカチを取り出し、スーツを拭く。
直後、
ドドーンッ
雲が光った後激しく降り始めた。
男は黙々と袖を拭いていたが、
「これじゃ、止みそうにないですね。」
不意に声を掛けられた。
振り返った先には和服の男が。
年齢は30代だろうか。
山吹色の羽織に、濃い灰色の着物、
薄い灰色の袴を着ていた。
礼装用ではなく、色褪せてる事から普段着である事が伺える。
「私、雷堂と申します。
退屈ですし、お喋りでもしませんか?」
知らない他人って事で警戒もしたが、
特に何もなさそうだったので、付き合う事にした。
「いいですね。
雷堂さんはこの地域の方ですか。」
にこやかに答えた。
「ええ。
お参りが済んだので帰ろうとしたら、
ご覧の天気で。」
「そうだったんですか。」
二人は四谷怪談で意気投合したものの、晴れる事は無かった。
すると雷堂がこんな提案をしてきた。
「そうだ。怪談話はどうでしょう。
今の時期にはピッタリだと思いますよ。」
「やりますか。交互に話しましょう。」
男はノリノリだ。
都市伝説や怪談といった話題に興味があり、
大学時代には友人達と共に心霊スポットに訪れたほど。
「いいでしょう。まず私から。」
雷堂は静かに話し始めた。