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第1話「割に合わない命」

王都の東区。

泥と排泄物の臭いが常に漂う、巨大な掃き溜めのような街だ。


薄暗い路地裏の片隅で、ジンが皮袋を放り投げてきた。

受け取ると、中で硬貨のぶつかる鈍い音がした。


「今日の稼ぎだ。表通りで酔い潰れてた商人から抜いた」

「……銀貨三枚と、銅貨が少し。割に合わねえな」


中身を手のひらに空けながら俺が言うと、ジンは壁に背をもたせかけて鼻で笑った。


「贅沢言うな。衛兵の目を盗んで泥水すするよりはマシだろ」

「昨日、トビーが死んだ」


俺の言葉に、ジンの笑みが消えた。


「……流行り病か」

「いや。ガルド一家の借金取りに追われて、西の路地裏で刺された。死体は今朝、荷馬車で貧民窟の穴に放り込まれたよ」

「そうか」


ジンは短く応え、懐からシケた煙草を取り出して火をつけた。

悲しむ素振りはない。この街で、親の顔も知らない小悪党が一人野垂れ死ぬことなど、路地裏のネズミが潰れるのと同じだ。


「トビーがガルドから借りてた金は、たかだか銀貨五枚だ」

「五枚。……そりゃあ、高くついたな」

「あぁ。俺たちは銀貨数枚のために、毎日衛兵に首を括られるリスクを背負って他人の懐をまさぐってる。トビーは銀貨五枚で命を落とした」


俺は手のひらの銀貨を握り込み、立ち上がった。


「リスクとリターンが壊れてる。こんな小銭稼ぎを続けていれば、遅かれ早かれ俺たちもトビーと同じ穴に放り込まれる」

「……何が言いてえんだよ」

「どうせ失敗すれば死ぬ盤面なら、一番でかい山を狙うのが合理的だろ」


ジンが煙草を咥えたまま、目を細めて俺を見た。


「一番でかい山?」

「トビーを殺したガルド一家だ。あいつらは東区の高利貸しを牛耳ってる。拠点にある金庫には、この街の連中から吸い上げた裏金が腐るほど眠ってるはずだ」

「正気か? ガルドの拠点は殺し屋崩れがうろついてるし、金庫には魔法の防犯がかかってるって噂だ。俺の指でも、魔法が相手じゃどうにもならねえぞ」

「だから、あいつらが勝手に金庫を開けて、俺たちの目の前に金を運んでくるように仕向ける」


ジンの動きが止まった。

俺の顔をじっと見つめ、冗談やハッタリを言っているわけではないと悟ったのか、ゆっくりと煙草の煙を吐き出す。


「……本気で言ってんのか」

「昨日、東区の入り口で死んでいた役人の懐から、少しばかり『面白い手札』を拾ってな。それを使えば、ガルドを自滅させられる」


俺はジンの肩を軽く叩いた。


「これから数日かけて盤面を整える。準備が終わった時、お前が一つだけ俺の考えた工作をしてくれれば、確実に金庫は開く。……どうする。このまま小銭を数えて死ぬのを待つか、それとも乗るか」


路地裏の淀んだ空気が、少しだけ張り詰めた。

ジンは短くなった煙草を石畳に落とし、靴の底でゆっくりと踏み躙る。


「……乗るに決まってんだろ」


ジンが悪ぶった笑みを浮かべ、俺を見た。


「で、俺は何をすりゃいい?」

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