作戦
司書殺害された現場から2名が出てきた。アルカ種特徴の赤い鱗肌に黄色い目の他に白い髪を肩まで伸ばし、それは真っ直ぐ伸びている。服は白のスーツ姿で、スカートの後ろから尻尾が出ている。戦争省長官である。その斜め後ろでついてきているのは士官の黒色の制服の兵士だ。
「人が虎視眈々と自由を得ようと承認を得る為の戦を行えないよう、再び世界が戦から回避する為にも人間の魂を奪う、それが東暦が始まって最初の世界会議で決まったこと。それが今になって不穏な雰囲気が漂っている」
「殺ったのは人間ではなくアルカですよ?」
「事件はそれだけではないわ。その少し前に収容施設からこの街へ奴隷を移送中に何者かによって襲撃を受け、兵士が殺られ他の奴隷も殺害された。ここから近い。しかも、一人分奴隷の数とそいつの魂が封じた指輪がなかった」
「まさか……」
「そのまさか。いなくなった奴隷の顔と図書館に現れたその奴隷の顔と一致した。問題は一緒にいたアルカの動機よ」
「未来書を読んでいたのは判明しています」
「火のないところに煙は立たない、既に煙はのぼっている。直ちに近くにいる兵士をここへ招集しなさい」
「はい」
罪を犯さない人間などいない。そんなことは分かっていた。
「やはり、この日が来るのね」
その頃、私達は白い門を潜り、石造りや漆喰の建物が特徴の街に到着していた。中央にある八角塔は遠くからでも目立ち、派手な赤い色をしている。そんな街の名はヴィリス。街の旗のシンボルも八角形の図を掲げていた。
「私は6も8という数字も嫌いなんだよね。なんで7じゃないわけ」
主人は突然そう言って私が驚いていると、主人はハッと我に返り奴隷に話しかけた自分の気の緩みに酷く後悔した。その足取りは少し早歩きになり、目的地なのか漆喰の二階建ての建物、朝食つきの宿へと入っていった。カウンターには顔色の悪そうな太ったアルカが椅子に座っていた。赤色からやや薄暗い紫ぽい色だ。
「部屋は4番で」主人がそう言うと、太ったアルカは黙ったまま後ろの木製の棚からキーを取り出し、その番号が振られたキーを渡すと主人は黙って受け取るなりカウンター横のドアへ向かった。ドアには従業員専用関係者以外立ち入り禁止と書かれてある。そこにキーを入れ鍵を開けた。私がえ? と思っている間に主人が入るので私も続いて入った。照明のスイッチは部屋に入って直ぐにあり、主人がそれをカチッと入れる。照明と壁は白い。主人は土足のまま、私は靴がないのでそのまま奥へ進む。入り口から通路沿いにはトイレ、シャワーがある。通路を抜けるとワンルームあり、ベッドが二つと小さなテーブルがあり、木製の椅子にシルフがそこへ座り本を開いていた。私達が入っていくタイミングでシルフは本を閉じ私達を見てからテーブルの上に本を置いた。
「近道を使ったか」
「はい」
「ここに来るまで誰かつけられたりしたか?」
「いいえ」
シルフは暫くアルカの目を見た。
「いいだろう。なら、次の命令を与える。今、お前達はこの国で一番の有名になった。どこへ行こうと兵士や警察の目に止まるだろう。それだけじゃない、一般市民に紛れた私服警官もいる。諜報員だってな。だが、今のところまだシルフの影までは連中はつかめていない。それどころか連中は逃亡奴隷が事件に関わってることで人間がテロを企てていないか懐疑的になっている。人間には反乱させないよう家族とバラバラにし魂まで奪ってその機会を潰してきた。それでも絶対ではない。今、お前達が未来書を読んでなにを企んでいるか、連中なら国家に対する反逆だと気づくだろう。間違いではない。そしてそれを阻止する為に連中はお前を全力で追うだろう」
シルフは私を見た。
「そこでお前達には更に目立ってもらう。その意味が分かるよな?」
「惹きつけ役。あなた達に目がいかないように」
「そうだ。勿論、お前達が捕まるようなヘマをしたらその時は」
シルフは指輪を見せた。
「殺す」
あれが主人の魂…… 。
「それじゃ本題だ。お前が見た未来書、あれは観測者によって見える景色が変わる本だ。つまり、連中が未来書を読んでも、景色が違う。一方で未来書が見せるのは起きる未来だ。さて、お前は自分を通してこの国の未来を見た。その通りに行おうじゃないか。まずお前達にはこれをばら撒いてもらう」
ベッドの上にある大きなカバンを見た。それはぱんぱんになっていてアルカが近づきチャックを開けると大量の貨幣の束が次々と溢れ落ちた。
「まさか」
それを見て主人は一瞬で理解した。私には分からなかったけど。
「そうだ、偽札だ。これをあちこちで使い、大量にばら撒くんだ。寄付にもそれを使え」
それはこの国の通貨の信用に影響する。アルカはよく見た。
「どうやったの? ここまで似せるのには」
「そう、造幣局のアルカを脅迫し造らせた者だ。一番はそいつに偽札を紛れこませることだが、奴隷にしてしまうと造幣局の入り口でバレるからなぁ」
主人が司書にバレたようにということだろうか。
「金はパワーだ。そいつに毒を混ぜる」
「こんなの直ぐにバレるわ」
「構わないさ。問題はそれがどれくらい使用されたかだ」
「わざと気づかせるってこと!?」
「そうだ。そして、それをお前達がやる」
「軍や警察は直ぐに気づき世間はテロか戦争になると不安になる……それが作戦?」
「無論、それだけで直ぐに国家が消えるわけではない。私の任務はそもそも情報収集とこの国にスタングレネードを放つだけだ」
「その間にシルフは本格的にこの国に攻め込む……」
シルフは否定も肯定もしなかった。
「命令は以上だ」
シルフはそう言うと立ち上がり部屋から出ていった。扉の閉まる音がすると、主人は札束の入った鞄をベッドの上から床へ投げ落とした。
「クソッ! 任務が終わったら私達はきっと消される」
「え……」
「私達は知り過ぎた。シルフにとって喋る舌を抜くより殺した方が確実だと考える。結局、こうなる運命なんだ」
「……」
「なんだよ、哀れに見えるか? 魂を奪われ国家を裏切った女が最後その敵に殺されるのが笑いもんか? なら笑えよ! 笑ってみろよ」
私は両膝をつき頭を下げた。
「思っておりません御主人様」
「私が裏切ったんだ、皆を、家族を。早くに死ぬべきだったんだ!」
「あのシルフを殺すべきです」
「殺す? どうやって? 私の魂を持ってるんだよ」
「私の魂はあのシルフは持っていない」
「まさか」
「私が御主人様の魂を取り返します」
「人間のお前が?」
「私が裏切らないよう御主人様はそのまま私の魂を持っていて下さい。そうすれば私は取り返した御主人様の魂を必ずお返しすると分かるでしょう」
「お前が先に私の魂を潰すかもしれない」
「それはあり得ません。国を持たない人間に居場所はありません。この世界で生きていくには私の御主人様であり続けて下さい」
「あくまでお前は私の奴隷でいると。いや、分からないな。一度裏切った者は二度裏切るかもしれん。ああ……そう言う私もそうだったか」
「私は御主人様を信じます」
「何故」
「私があのシルフから魂を奪い返せば私が少しは使えることを御主人様に示せるからです」
アルカは暫く考え込んだ。どうせシルフに殺されるか、捕まって国家反逆罪と加担の罪で処刑されるか……既にお互い詰んでいる……たかが人間如きに理解されるなんて。しかもこの奴隷に賭けるなんて馬鹿げてる。きっと、私は血が昇って冷静な判断が出来てないんだ。
「分かった。あなたに賭ける」
「ありがとうございます」
「でも、今のあなたでは確実にあのシルフには勝てない。ジョブを解放させて魔法を使えるようにするの」
「は、はい」
「その前に聞かせて。これは私の為? あなたの為?」
「それは御主人様の為でございます」
「そう……」
「?」
「一つだけ教えてあげる。人間には秘密のことを。実は傷ついた魂を生き返らせる方法がある」
「!?」




