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奴隷エマの自由への道と聖域  作者: アズ
自由と脱出「波割りからの長旅」
6/21

近道とリスク

 自由という言葉について考えたことがないと言えば嘘になる。自由になりたい、自由になれたらと色んなことを想像した。家族はバラバラにならず、温かい家に住んでいて、お湯のお風呂に入って、色んな服があって、靴を履いている。勉強もして、遊んで、お喋りもして……そんな光景を夢で何度見たことか。でも、それは突然悪夢に変わる。アルカ達が私達の前に現れ私達人間はアルカから逃げだすけども、いつまでも追いかけるアルカ達に私はいつも捕まり、そして鎖に繋がれると魂を抜かれ、まだ奴隷を知らない無垢な背中に焼印を押されたところで私は目を覚ます。その現実も私は自由ではなかった。この世界ではそれを実現することは不可能なのは分かっている。私が人間だから。罪人だから。私が生まれる時からそれは決まっていた。人間の親から生まれたから。そして散々いかに人間が悪であり、人間が罪を犯すのかを人間でない者に説教され、だから従うことが唯一の贖罪になるのだと。それはそれをしたとて罪が消えるという話ではない。罪が消えることはない。なら、何故私は生まれ、私は今も生きているのか。罪なら、人間は何故まだこの世に生を持ち続けるのか。世界は生きることまでは剥奪しなかった。むしろ、それが残酷で罰になるのを知っていてのことなのか。かくいう私は何故死のうとしないのか。死が怖いから、痛いから、自分がなくなるから、本当は死ぬ勇気がないからだ。ただ命令に従い、命乞いをし、地面に這いつくばって生きている抜け殻。そうか、魂がないというのはこういうことなんだ。だから、アルカは私達人間の魂を抜き取るのか。

 それのいったい何の意味があるのか。





 翌日、女のアルカが私の腕を軽く蹴り、私はハッと目覚めた。こんなに熟睡するなんて、昨日の疲れのせいなのか。私は急いで起き上がり跪いた。

「奴隷のくせに主人より早起きも出来ないのか」

 それはシルフの声だった。

「まだ鞭打ちは未経験だったか? なら、その体に刻んで分からせてやろうか」

「申し訳ありません」

 シルフは舌打ちした。

「これからこの場所を捨てて西に向かう。昨日の図書館の騒ぎで警備が強くなっている。正午前には範囲を拡大するだろう」

 つまり、ここも危ないと。

「おいアルカ、道は分かるな」

 アルカは頷いた。

「遅れるなよ」

 シルフはそう言うと、風が吹き、シルフは風に乗って消えていった。

 それもそうか。私達の足の速度にシルフが合わせる筈もない。

 シルフがいなくなってからアルカは黙ったまま歩きだした。私は慌てて立ち上がり追いかけた。





 洞窟を出て西に向かい森を出ると広大な草原が広がっていた。私は思わず開いた口がふさがらなかった。そこは風になびく黄金、壮大なすすきが一望できた。だが、その空は雲が昨日より早く流れていて暗い色をしている。前を歩くアルカはそれを見て歩くスピードをあげる。私は走ってそれを追いかけた。だが、身体能力はあちらが上回る。更にアルカはスピードを上げ、私は全速力で追いかけた。なんでそんなに急いでいるんだろう? あの空と関係しているのか、もしくはシルフの言われた時間を気にしているのだろうか。とにかく私は直ぐに息が切れそうになり、横腹が痛くなった。唯一の救いは地面がアスファルトや砂利道でない分痛くないことだ。乾いた土はややサラサラしているが、土の深い部分はやや湿っぽい。それは草原を見渡してみると、所々動物が掘ったような土が掘り返されていたりするからだ。でも、その動物らしき姿は一切見当たらない。その時だった。ポツポツと空から水が落ちてきた。草のない禿げた部分にその水滴の湿る様子が見える。それは次第に増え埋まると、激しい雨が降り始めた。この辺りに雨宿り出来る屋根はない。私達は濡れながら走り続けた。腕を出した貫頭衣なので直に雨の冷たさが全身を襲う。足先も冷たくなり、ぬかるんだ地面は走りにくく余計体力を消耗していった。その上、顔面には雨粒が目に入ってきそうになり、視界も悪い。まさか、ずっと走り続けるんじゃないよね……目の前のアルカを見続ける限り、止まってくれそうにもない。すると、足を滑らせ私は盛大に転んだ。泥を被り、顔にも付着する。そこでようやくアルカは走るのをやめ振り返った。

「なにやってるの」

「も、申し訳ありません」

 私は慌てて立ち上がり再び走り出した。だが、さっきより遥かに足が重くなっていた。しかし、アルカが私に合わせてくれるわけではない。私が主人に合わせて走らなければならない。それが絶対の関係だ。それでも私は能力が追いつかなかった。それは徐々に視覚化されるかのように距離として離れていき、私は遂に思わず「待って……待って」と訴えた。アルカは走るのをやめ、遅れて走る私を見た。アルカは指にしている指輪を私に見えるように向けると「分かってる?」と冷たく言った。昨日傷薬を渡してくれたあの優しい主人はいなかった。いや、あれは次の行動に支障が出るから渡したのかもしれない。

「も、申し訳ありません」

 私は息を切らせながら私は精一杯謝罪した。アルカは既に服がびしょ濡れで髪から水滴が垂れていた。

「私があなたをここで殺してあのシルフに奴隷が逃げようとしたから始末した、そういうことにも出来るんだよ」

「申し訳……ありません」

 そう言いながらも私が限界だと思ったのか主人は舌打ちし、いきなり大声を空に向かって上げた。

 私は主人を見た。主人は顔を上げたまま雨に打たれていた。頬に透明の水が流れ落ちた。私は何も言えなかった。

 主人もまた魂を人質を持つシルフの言いなりだ。だが、それは例え生殺与奪の権利を前に主人がやった行為とはいえ間違いなく自国に対する反逆行為に加担している。それは誰かに打ち明け助けを乞うことも出来ない孤独を意味する。主人がどの感情を内に抱えているかは私には分からないけど、だからといって私と主人が同じであると思い込んでるわけではない。私は人間で罪人、アルカはアルカだ。エコロジカル思想が人間とアルカや他種の共通の確信ではないのは言うまでもない。

「ったく……これじゃ廃墟の方突っ切るしかない」と文句を呟いた。

 どうやらそのルートは近道のようだが、何か嫌な予感がする。主人は何故かそのルートを避けようとしていたみたいだ。

 アルカは速度を落とし小走りに移動を始めた。

 空はピカッと光ったあとに轟音が続き、私は恐怖を感じた。あんなに静かだった空が今は騒がしく、空が怒っているみたいだった。あの光が地面へ落ちてくるんじゃないかと私は空を気にしながら走った。

 アルカは慣れているのかむしろ雨風に腹を立てていた。

 土砂降りは辺り一帯の気温をどんどん下げていった。私の爪の色がピンクから悪い色になっていく。歯がカタカタと震え音を鳴らす。我慢したくても体が反応してしまう。

 早く、早くこの状況が終わってくれたらいいんだけど。

 だが、暫くこの状況は続いた。それでも方向転換したからなのか、行く先のかなり遠くに小屋が見えてきた。

 この先町があるのか? でも、主人は廃墟とか言っていたけど。

 主人の影は空を覆った雲のおかげで分からない。主人が魂を抜かれていることにまず気づかれないだろう。

 だが、それは直ぐに気にする必要がなくなった。家畜用の建物や民家らしき廃墟がその先続いていただけで、そこに生活感はなかった。ドアにはチェーンがかけられ南京錠で封鎖されており、窓には板が打ちつけられているか鎧戸があればそれが閉ざされているが、二階部分が半壊しており屋根がなくなって柱が剥き出しになっている。壁も半分なくなっていて、何か事件か事故でもあった雰囲気だ。それが一軒だけでなく、あちこちで建物が壊れていた。その壊れ方はどれも長年放置され朽ちたといったわけでは明らかになかった。

 ここからは主人は歩き出したので私もようやくペースを合わせついていける。

 主人が言った通りここは廃墟だ。でも、それくらいなら嫌がる理由にはならないだろう。

 その時、真っ赤な蝶が荒れる空から突如として現れた。蝶は私達上空を飛び回り主人はそれを見ながら歩いた。すると、赤い蝶の羽に突然ボッと火がついた。

「え?」

「ちゃんと避けろよ」

 主人はそう言うと急に走り出した。私は慌てて走り追いかける。その時だった。蝶が空から急降下し火の玉となって私達のいる地上へと降り注いだ。

「なになになに!!?」

 地面に弾丸が当たったかのように穴を開け、刹那地中が爆発した。

「は?」

 赤い蝶は次々と空から現れ、また火の玉となって私達目掛け急降下する。どういう理屈なのか全くわけが分からない。なんで私達を狙うのかも、何故命を代償に突っ込んでくるのかも、何故爆発するのか、火がつくのか、あの羽や虫としての構造、全てが意味不明だ。

 思った以上に外という世界は危険が溢れていた。

 小さなミサイルが降ってくるかのように火の玉は当たり前のように降ってきては、私達はそれを走りながら避ける。

「無理無理無理!! 無理です御主人様」

「ならそこで死んでろ」

「も、申し訳ありま」

「謝るな! 謝る暇があるなら生き残れ」

 私達の走る後ろは爆発が続き、死は直ぐ後ろまで迫っていた。振り返る余裕すらない。私達はただ前を振り向かず走り続けこの廃墟を抜け出すしかなかった。




 その頃、私達が昨日いた街で図書館の司書殺害事件で兵士達やロボット兵器が街を巡回し物々しい雰囲気が漂っていた。容疑者として指名手配されているのは女のアルカと、その女の奴隷だった。だが、図書館地下の監視カメラ映像から殺害したのは主人のアルカだと判明している。奴隷はこの件について事情を知っているので、そいつからも軍は聞こうと2名を追っていた。それを知ったサーカス団長は驚いた。自分が会った連中だと気づいたからだ。

「まさか連中が司書を殺し逃亡とはな。主人の方はいいがあの奴隷だけはますます欲しくなった」

 団長はブツブツ呟きながら街にある奴隷市の建物の裏口から入った。ここは、収容施設に入りきれなかった人間がいて、奴隷教育している機関の一つだ。ここは他の収容施設と違い16歳で〈出荷〉が行われる。そして今まさに16になった少年少女が1列に並べられ、作業が行われていた。先頭の少年が連れていかれ、後ろに並んでいた少女は次が自分の番だとガタガタ震えている。目の前で魂を抜かれ、その無理矢理身体から抜いた魂が傷つけられると、魂は指輪に封じられる。その後熱々の焼きごてが背中に押し、一生消えない家畜の印を焼き入れる。

「次!」

 少女は泣き出したが無理矢理立たされ同じように魂が抜かれ焼印を押され奴隷にされ、女の悲鳴が響く。

 見慣れた作業を素通りし団長は椅子に座り足を組んでいる男へ挨拶をした。

「繁盛してるか奴隷商」

「なんだ、サーカスの団長か。お前こそ繁盛してるのか?」

「まぁまぁだな」

「なんだよ」

「実は客も飽きはじめてな。奴隷をいたぶって熱狂する客は要求がエスカレートしていくもんだ」

「だから飽きさせないよう数日には移動して各地回ってるんだろうが」

「それが他のライバルが幾つも現れてな」

「なんだ、お前が最初に始めたくせに後からきた奴に負けそうなのか」

「その言い方はないだろ。悪意があり過ぎだぜ」

 奴隷商は冗談だよと笑いながら言った。団長も分かっていてあまり怒ってはいなかった。

「なんでお前のところは出荷が遅いんだ」

「法律上は10歳未満は人間の犯した歴史、罪や奴隷に必要な最低限の知識とか、そういった教育期間が定められているが、一番売れるのはその歳じゃないんだよ。魚と同じ、小さい魚を売っても金は少ない」

「まぁ、分かるぜ」

「それで今日は何の用だ? 前買っていった奴隷が死んだのか?」

「いや、今日は魔法が使える奴隷が欲しくてな」

「そりゃ前も言ったがあんたの免許じゃそれは買えない。奴隷管理者第一種が必要だ。あんたは無免許だろ。それじゃ二種の50人以上の奴隷を持つことさえ出来ない。免許を取るんだな」

「取ろうとしたが落ちたさ。合格率は30%俺には厳しい数字だ」

「それは二種の合格率だ。一種はそれより低い」

「厳しいことには変わりがない」

「そうだな。そして、お前に売るのも厳しい。だが、法律には抜け穴がある。所有した奴隷が後から魔法を身に着けた場合は免許は関係ない」

「知ってるさ。金をかけて育てて魔法を習得した奴隷がうちにもいたさ。間抜けにもキメラに食い殺されちまったが」

「自殺か?」

「ああ、そうだ。なんで分かった」

「あんたの性格だ。腕や足を失い、今度は片目を失うかもしれない。それでもあんたのステージに立たされるんだ。死を選ぶだろうな」

「観客がそれを望んでるんだ。俺だって毎回奴隷を消費してたら出費がバカにならない」

「もうサーカスなんて辞め時なんじゃないのか」

「俺からサーカスを無くしたら何が残る?」

「さぁ?」

「それだ。俺は自分のサーカスをやめるつもりはない。俺のジョブ(実存)がそれを示している」

「別にお前の人生だ、好きにすればいいさ。だが、どうする? ライバルを消すのか?」

「それは考えたが、実は最近別の方法が閃いたんだ」

「その協力の依頼か?」

「そうだ。昨日司書殺しで指名手配中の主人と奴隷を知っているな? その奴隷が欲しい」

「おいおい軍と対立することになるぞ。やめておけ」

「情報だけでいい、お前の持っている情報をくれ」

 そう言って5つの指輪を指から抜き、それを差し出した。

「どうだ?」

「本気か?」

「ああ!」


※設定


個人が所有出来る奴隷の数は5人までであり、6人からは許可申請を街に出さなければならない。また、50人以上の所有には必ず奴隷管理者第二種以上の免許が必要となる。ただし、魔法の使用できる奴隷の場合人数に限らず奴隷管理者第一種の免許と街への許可申請が必要となる。また、申請すべき事由が発生した場合は一週間以内に申請を終えなければならない。

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