表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷エマの自由への道と聖域  作者: アズ
自由と脱出「波割りからの長旅」
5/21

奴隷の生 4

 何も持たない男は直ぐには動かなかった。私は落ちている武器を見る。ナイフや槍、ハンマー色々落ちている中で武器は床の熱で既に熱くなっているだろう。私は男の方を見た。男は落ちている武器に目をやらずに剣使いをじっと見ていた。それは警戒に近い監視的な意味だ。私は足をバタつかせ熱さを少しでも紛らわせようとしながら考えた。男が剣使いを見て武器を拾う様子がないのは、例えば剣使いの言葉を信じ武器を取りに拾おうとして、そこを狙われたらどうだろうか? 剣使いは落ちている強そうな武器からは絶妙な距離感で離れていた。つまり、走れば届くかどうか。隙をつくには充分かもしれない。つまり、男は剣使いが紳士的にそう言っているのではないと疑っている。剣使いはどうした? という顔をつくる。だが、直ぐに自分が疑われているのだと気づくと鼻で笑った。

「そうかよ」

 剣使いは剣を構える。剣は斬った男達の血がべっとりと付いていた。

 剣使いは男と距離を少しづつ縮めようと近づく。男は回りながら後退するが、それも直ぐに追い詰められる。

「まずはお前からだ。そのあと女をやって終いだ」

 剣使いは自分の勝利を確信した。これを勝ち抜いている自分の姿をイメージしていた。それが見えてる時は負けない。

 剣使いは剣を握りしめて目の前の標的を睨むと、一気に決着をつけに勝負をしかけてきた。剣使いの先制、そして相手は無防備、勝ちは見えている!

 剣が男に向かって斜めに振り下ろされる。だが、男はなんと避けようとするのではなく前に出た。振り下ろされた剣が男のガードした前腕の皮膚と肉を斬る。だが、男はあえて腕を出し自分の手を斬らせてから反撃に出た。

 男は逃げられない避けれないことを前提に反撃のことだけ考えていた。男はあの状況でも冷静だった。自分の腕を犠牲にして自分を守りに反撃に出たのだ。それは剣使いにとって予想しないことだった。わざと斬らせる奴なんていない、無防備で逃げ回ってた男が反撃にくるなんて思ってもいなかった、結果男は剣を手から気づけば奪われ、男に斬られていた。

 斬られ体から血が流れているのをただ剣使いは見て「斬られた?」信じられないという顔をしながら絶命した。

 剣使いが倒れ、遂に私と謎の男だけが生き残った。

 男は私を見た。私はまだ無防備で武器を持っていなかった。

 男は奪った剣を持ったまま私に近づいた。足の裏が熱くてたまらない筈なのに、男の意識は私に集中していた。私が最初に警戒した男が一番最後まで残ったことに絶望した。

 どうやってあれを倒せっていうの? 終わり? 終わった? やだ……死にたくない。酷い目に合って恥ずかしいこともされて、なのにここでもう終わり?

 私は男から逃げながら落ちている武器を拾っては男に向かって投げた。投げられた武器は男からだいぶ離れたところに落ちたり、届かなかったりした。男は冷静だった。怒鳴るわけでも大声あげるわけでもなく、まるで冷徹な殺し屋みたいに。どうしてそうなれるのか分からなかった。それともこれまでも沢山殺してきたからなのか。

 私は逃げながら武器を拾っては投げるしかなかった。あれに近づいて真正面で戦う勇気も、勝てる気もしなかった。勝てるイメージがつかなかった。

 観客席からはさっきまでと違い盛り上がりに欠け、むしろブーイングが続いた。つまらないとか、戦えとか、やる気あるのかとか、とっとと殺られて死ねとか、私に対して酷い言葉を沢山浴びせ、ゴミが投げつけられた。瓶や缶とか色んな物が。そんなもんだから瓶の割れる音がした。私はその音で咄嗟に使えると思った。割れた瓶の破片を盾に、障害物として回りこみ、男との距離に使った。男は立ち止まった。そうだ、その筈だ。いくら火傷の我慢は出来ても破片を素足で行くのは我慢とは違う。だが、男は一旦後ろに少し下がるとすぐさま前傾姿勢になる。私は男のやろうとすることに気づいた。男は助走をつけ走って飛び越えるつもりだ。剣を持った男は私の予想通り走り出し、そして破片の手前で飛んだ。剣を構え勢いのまま私へ斬りにかかった。観客席からどわっと声があがる。決着か!? だが、私はまだ投げていない隠し持っていたナイフを男に向かって投げた。これだけ近づたら当たるだろう。ナイフ投げを練習したことはない。でも、それは上手く男の額に突き刺さり、男は目を開けたまま絶命した。

「なんということでしょうか!? まさか生き残り勝者となったのは子供の女! 誰がこれを予想したでしょうか」

 床の熱は徐々に冷めていき、観客席からはどよめきが起きていた。その観客席にいた女の主、アルカはただ喜ぶわけでも驚くのでもなく、興味がないといった顔をしていた。

「勝者の所有者は賞金と図書館の魔法書閲覧の権限ワンランクアップの報酬が与えられます」

 魔法書閲覧? まさか、それが狙い? そんだけの為に私達は殺し合いをさせられてたの?

 私は試合が終わったステージに倒れる遺体を見回した。12人の血と臭いが漂い、私は思わずその場で嘔吐した。





 ロボットが来たのはそのあとのことだった。

「来い」

 私は言われた通りに従いステージ出ると、今度は円柱とアーチ状の天上通路を通り、その先に小さな部屋へ出た。そこで待ち受けていたのはさっきのアルカだった。アルカは私の姿を見るなりチューブの塗り薬を落とした。

「それ塗ったら行くよ」

「あ、ありがとうございます」

 不思議だった。奴隷に優しくするアルカはそういないと思っていた。私は足の裏を保護していた布を取り、塗り薬を足裏に塗った。その薬は冷たくひんやりした後に痛みがスッと魔法のように消えた。

「あ、あの……残った薬をお返ししま」

「いらない。持ってなさい。それ、どんな傷や火傷にも使えるから」

 アルカはそう言うと、歩き出した。私は慌てて追いかける。

 本当は優しい? 正直、このアルカの考えがよく分からなかった。





 会場を出るとその足でそのまま街にある図書館へと向かった。図書館へは初めての利用の場合まず受け付けで説明の案内を受けてから利用出来ることになっている。私は後ろでその内容を聞いていた。それによれば図書館には閲覧に権限があって、一般、魔法書物中レベル、機密、禁書の順に段階がある。一般は小説や参考書などで、それより上の段階には閲覧資格を必要とし、それらは貸出と複写が禁じられている。

 アルカは早速魔法書の上レベルの閲覧を申請した。

 果たして、私が命をかけるだけの価値があるのかどうか。

 丸眼鏡に白髪の女司書は許可を認め私達を案内した。

 因みに奴隷は主人の申請で同行が認められる。

 エレベーターに乗り込み、地下二階に降りる。

 地下二階に降りると司書は「このフロア全部が魔法書物上レベルとなります」と説明した。

 棚には分厚い本が沢山、それにガラスケースには石板が数枚並んで置かれてある。

「ここの説明はいりますか?」

「お願いします」

「分かりました。左から未来書、言語書、内省物、博物、古の書になります。中央にある石板は根源についてです。以上が説明になります。分からないことがありましたらお聞き下さい」

「分かりました」

 アルカはそう言うと、未来書の方へ向かった。

 未来書とはなんなのか? 全部初めて知ったジャンルだったけど。

「あった」

 アルカはそう言って黄色の分厚い本を取り出し、本を開いた。それから暫くアルカはずっとその本を読んでいた。ただ、気になったのははじめからではなく、途中からだった。なんでだろうか。

 私が集中している主人を見ていると、司書が近づいてきた。

「あれは未来書、あれは多分第二、国家の章。国の未来を見ているのね」

 私は話しかけられるとは思ってもみなかったので返事に困った。

「未来書は書かれてあることが変わる珍しい書物の一つ、国の未来をあの主人は読んでるのよ。ただね、未来書には厄介な点があって集中して未来を読んでる時は現実で起きていることには気づけないの」

 司書はそう言いながらナイフを抜いた。

「え?」

「ここにやって来るのは大抵何かある。私の役目は司書と、誰が何を閲覧したか、そして問題があれば即座に対処すること」

「……」

「どうして国家の未来を閲覧したいのか凄く気になるところだけど、それより問題が一つ。あなたの主人には影がない。つまり、魂がそこになくどこかにあるということ。あの女アルカは奴隷! だとしたら主人は誰? どこ? ヒントは魂と肉体はそこまで離れられないこと。魔法が掛けられていなければ。でも、それは時間制限つき。恐らく12時間以内の移動範囲。まぁ、いいわ。どうでも。あの女は私に気づいていない。問題を対処するだけ」

 私はどうしようか迷ってとにかく主人との間に立ち塞がった。

「邪魔」

 司書は人差し指を上に上げた。すると、私の体は重力に逆らい上に強く引っ張られ、体が浮かぶとそのまま天上に思いっきりぶつかった。

「うっ」

 バタリと倒れ、司書が主人を見た刹那、発砲音がした。

 私は慌てて主人を見た。だが、主人は撃たれてはいなかった。むしろ、主人は銃を構えていた。そして、銃口は司書に向けられていた。

「ど……どうして……」

 主人は手鏡を見せた。司書はハッとした。

「手鏡を持ってれば現実で起きていることが映し出される。未来書を読んでる時に無防備になることくらいは知っている」

 司書はバタリと倒れ血を流した。

「行くわよ奴隷」

 私は素早く起き上がり、主人のあとをついていった。





 不審に思われないよう自然に振る舞い図書館をあとにすると足早に街を出て洞窟へと急いだ。

 その洞窟でシルフの男が椅子に座り赤い果実をかぶりつきながら待ち構えていた。

「どうだった?」

「もうあの街へは行けない」

「ということは成功したんだな。よし、聞かせろ」

 シルフとアルカ、私は聞くことが許されず、会話の中には入らず洞窟の奥で待機した。

 暫くしてシルフとアルカが戻ってくると、シルフは私に近づき私の背中を指でなぞった。背中には家畜のシンボル豚の顔が焼印されてある。

「聞いたぞ、殺し合いでお前は最初武器を取らなかったそうだな。あのゲームは確かに全員が武器を取らなければドローで皆無事で終わった。そういうゲームだからな。だが、寄せ集められたお前達は疑心暗鬼になり助かる為の最善を選ぼうとする。さて、それはあの状況下で仕方のない生存本能、もしくは防衛反応としてとれるかどうか。客観的に見れば殺しは過剰防衛に当たるし、殺られる前に殺ってしまえというのは大義があるとは言えないだろう。殺らなくても助かる手段があの場にはルールとしてあったんだからな。しかし、観客は皆分かっていた。誰かが武器を取ると。案の定そうなった。その時点でお前達は罪だ。そしてこれはその罰」

 人差し指を強く背中を押した。

「お前達の欲深は動物と同じだ。知的な生物とは言えない。欲が満たされればそれはいずれ渇きまた新たな欲が生まれ、結果満たされた欲求は一過性の幸福しか与えない。幸福であり続ける為にはより動物的に、より罪を犯し続ける。だからお前達人間は奴隷に落ちるんだ。いいか、どの種も戦争を否定しているわけではない。問題はお前達人間が負けた時に負けを認めなかったことにある。弱さを認め反省すればチャンスはあった。だが、お前達はアレに手を出そうとした。世界の禁忌を。それは世界の秩序を崩壊させる力だ。確かにそれがあれば敵を倒せただろう。だが、その先にあるのは破滅、世界の死だ。太陽は消え、世界が闇に落ち、死が蔓延る。それをしようとした時点でお前達が秩序を乱す愚かな生き物、愚者であることが確定した。愚者には家畜として支配することで世界は秩序を維持出来る。例えばお前達に再び〈自由〉を与えたとして、未来書はどう記すと思う? また、同じ歴史が繰り返される。未来書はそれを記した。であるならば、お前達人間にとっての〈自由〉は無規定の中にあらず。お前達人間には奴隷としての一生が相応しい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ