最終試験
夢を見た。目の前に赤い炎が立ち昇っていて、顔を向けると焼けるような熱さで、私は後退りするのだが、その時に炎の中から黄金色が現れ、それはまるで私を見ているようだった。
目が覚めるとその横でエスティが寝息を立てていた。私は起こさないようそっと起き上がると、服を着替えた。ジーンズにTシャツだ。それからリュックを持って部屋を出るとゆっくり玄関から出た。
空は明るくなっており、私は余裕もって試験会場へと向かった。
映画館に着くなり、真ん中の客席に着席した。
「もう来たのか?」
後ろからゴルトマンが現れた。
「すみません、気づきませんでした」
「構わない、それより少し時間は早いがもう始めるか?」
「はい、大丈夫です」
「分かった。悪いがここから移動する際まだ合格していないあんたに場所を教えるわけにはいかないんだ。だから目隠しをさせてもらう」
「分かりました」
ゴルトマンはエマに目隠しを早速つけると、手引きで移動させられ車に乗せられた。そしてエンジンがかかると、車は動き出しどこかへと走り出した。
それはどれくらいだったか分からない。長かったのは確かだった。
車が止まったのはそれからだ。エンジンが切られ、ゴルトマンは横で「着いたぞ」と言って私は目隠しされたまま車を出た。それから少し歩いて、足音が響いたから屋内だと分かった。
「よし、目隠しを外していいぞ」
エマは言われた通りに目隠しを外していくと、白の照明に窓のない殺風景な広々とした部屋にいた。
「これから最終試験だ。エスティから聞いている。魔法を教わったんだろ? ジョブは俺と同じだ。道具を使った魔法、人間は大抵そのジョブを習得する。対してシルフのような自然系の魔法程の火力があるかというと差は歴然だ。だが、道具なりの多様さは使い手によって決まる。最終試験は君の実力を知りたい。なに、簡単な手合わせだと思ってくれ。ルールは相手に降参をさせるか、戦闘不能と判断した時点で勝敗を決める」
「あの、戦うのですか?」
「実力をはかる為だ」
「……」
「他に質問は?」
「ありません」
「結構。それでは始める。いいね?」
「はい」
ゴルトマンは手をあげるとそれから「始め!」と手を振り下ろした。
「いつでもかかってくるといい」
ゴルトマンには余裕そうな表情をしていた。実力はお互いここで初めて知ることになる。
エマはエスティが自分の魔法について教えてくれたことを思い出す。
いい? 道具はあなたの肉体の延長だと思ってそこに自分の意思を集中させるの。そうすれば魔法はあなたに答え、槍は伸縮自在になり、盾はあなたの反応に合わせ変化しあなたを守るようになる。
私は辺りをもう一度見渡す。何もこの部屋には家具一つない殺風景なのはその為か。
「どうした?」
「シンプルに今ある物で戦えということですか?」
「御名答」
ゴルトマンはそう言うと煙草を取り出し、ライターで火をつけると白い煙を吐き出した。ライターは火をつけたままだ。エマはそれを見て嫌な予感がした。それは的中し、ライターの火が大きく立ち昇った。
「俺達の魔法は扱う道具とどれだけシンクロ出来るか、一体感が重要だ。手に持った感触、お気に入り、思い入れ、それらは他の道具より特別に引き出せる」
カチャ。オイルライターのフタを閉じ、今度はエマの前方へ向ける。
自然系のような自由な操作は出来ないだろうが、それでもあれで火を起こすのは厄介だ。
ゴルトマンはオイルライターの火を再びおこした。
ブワッと火が広がりながらエマへ襲いかかる。それは火炎放射器の炎のような。
死ぬっ!
私は死を悟った。足がすくみ動けなかった。
「おい、避けろ!」
ゴルトマンは驚いた。エマが逃げようとしないのが見えたからだ。ゴルトマンはライターの火を閉じようとした。その短い時間、私は襲いかかる火からあの夢で見た光景と同じ黄金色を見た。それが何であるかは分からない。ただ、その瞬間、空間の全ての時が急激に遅くなった。
これは何?
こんなことは初めてだった。自分が引き起こしているという自覚もない。とにかく火がゆっくり動き、自分の手前直前で火は急に消えた。
「どういうつもりだ!?」
ゴルトマンは焦った様子で「度胸試しかと思ったのか」と問い詰めてきた。
私は直ぐに「いいえ」と返した。
「だったらなんだ今のは」
「分かりません」
「なに?」
「足がすくんで……でも、急に時間が遅くなったみたいになって」
「時間が遅く?」
まさか、スピリチュアルなことがエマに起こったというのか?
「はい。あと、何かを見ました。火の中から。私が死ぬと思った直後でした」
「強い死がエマの中で何かが起きたというのか? そういうことは他にもあるのか?」
エマは首を横に振った。
「いいえ」
ゴルトマンは少し考え込んだ。
「あの……不合格ですか?」
ゴルトマンは眉をピクリと動かした。
「いや、本当は君の魔法を見たかったが次の機会としよう」
「それでは……」
「合格だ。いや、そもそもエスティに君の話を聞いてから是非引き入れたいと思っていたんだ。少なくとも君は実戦経験がある。それは貴重だ。俺達は訓練をするが実戦経験は全く無い。君は既に合格基準に達していた。試験というのはほとんど建前だ。皆受けるものだから一様ね」
「あ、ありがとうございます」
エマは頭を深々と下げた。
「エマ、これから宜しく」
「はい、宜しくお願いします」




