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奴隷エマの自由への道と聖域  作者: アズ
自由と脱出「波割りからの長旅」
2/21

奴隷の生 1

※一部修正しました。(9月28日)

 東暦200年



 暦の数というのは宗教や国によって様々だが、東暦と世界的に統一されるようになったのは長い大戦の後、講和条約が結ばれた場所が東の大陸だったからである。世界は再びそこから始まったというべきだろう。振り返れば人類から始まった種族国民戦争は種族同士の戦争であり国民戦争、トータル・ウォーでもある戦争は壊滅的で多くの犠牲を出した。多くが戦争に勝利する為に魔法や魔法道具を生み出し、学問の全てが戦争の為に費やされ、本当に多くを国民は国家へと差し出し、国家もまた全てを国民に要求した。それは命も含まれ、ナショナリズムも誕生した。そして、人類は国民を動員させ、そして最初で唯一この戦争に敗北した。

 世界は人類に多くの責任を追及し、あらゆる権限を剥奪した。



 国を持つことを禁じる。

 自由(発言・行動・活動)を禁じる。

 信仰を禁じる。

 財産や所有を禁じる。



 更に反乱の考えを持たないよう10歳になった時点でその人物の魂を抜き取る黒魔術にて、人間の魂を肉体から抜き取り、その魂を奴隷の主人は管理することが全世界で取り決められた。

 そして、私は今年で10歳になる。






 地下室には白熱電球で照らされた殺風景な部屋が一つあり、私は襤褸のエプロンのような背中があらわになった貫頭衣姿に両手には枷をはめられ、そして吊るされていた。両手がぴんと伸び切ると、私はつま先立ちになり、白熱電球に照らされた私の影が床に写り込む。肩まである白い髪に細い腕と足、瞳はエメラルドのような色、小顔で背も低い。それが私だ。

 10歳になるまでは人間は窓のない施設に収容され、管理される。そして、10歳になった者から政府の連中に連れていかれ、魂を抜き取る作業が行われる。

「や、やめて……」

 赤い鱗肌に黄色の目をした女が私に近づく。アルカ種と呼ばれ長い尻尾を持ったアルカ種は背は人間の成人男性より少し高い。

「さぁ、あなたの魂を見せて頂戴」

 抵抗出来ない無防備な私の胸骨辺りに女の人差し指が触れると、女は呪文を呟いた。

 魂を抜き取る術。

「知らないあなたに教えてあげる。魂とはなにか。簡単に言うとそれがあることで死後の先も輪廻転生が出来るようになれる。でも、もしその魂が傷をつくことがあれば輪廻転生の理から外れ、その魂は死後輪廻転生されず無と化す。通常、魂はその肉体に宿ることで魂が傷つくことを防いでいるわけだけども、もしその肉体から魂が抜き取られでもしたら、その魂は無防備になるの。その時万が一でも傷がつけば輪廻転生が不可能になる。魂の魔法研究者エウリス『転生論』に書かれてあるわ。それによればその魂の命はその一生で終わる」

 わ、私の魂が……

 胸の奥がざわついた。肉体が気づいている。魂が抜かれようとしていることを。

 人差し指を中心に渦が生まれ、胸がズキズキしだす。鼓動が早くなり女の人差し指が徐々に胸から離していく。それに引き寄せられるように白い丸い光が私の体から抜けていく。

 これが私の魂。

 それは純白だった。

 そして、それが完全に私から抜かれると、私は自分の足元を見た。素足でつま先立ちをしているそばで白熱電球に照らされた私の影が徐々に縮まり、そして消えていった。

 影を失った。

 突如私の視界は暗くなり、私はその場で意識を失った。魂を失った肉体は動くことも意識もない。





「起きなさい」

 突然、女がそう呼ぶと私の胸に電流が流れるような激しい痛みが襲い私は飛び跳ねるように起きあがった。その時首になにかが触れた。それは黒い鉄のような輪っかが私の首についていた。それは奴隷なら全員がつけている首輪で、それは魂と肉体を繋げるデバイス的装置のようなもの。魂を抜かれた肉体が動くためであり、主人の命令に従わせる服従の呪いでもある。

 気づくと私の魂を抜いた女が目の前に立っていた。

 私はハッとして「私の魂を返して!」と叫んだ。

「奴隷の分際で私に命令?」

 女は掌から白い光、私の魂を出現させエネルギーを込める。すると、胸の辺りから激しい痛みが走った。

「あああああ!!」

「魂が傷つけばその魂は輪廻転生出来なくなる」

 私はハッとして「申し訳ありません」と謝った。

「何でも従います。どんな命令でも従いますから……やめて下さい」

 だが、女はエネルギーを込め続け白く光る魂がビリビリとし始める。

「や、やめて……」

 私は自分の魂を見た。私の魂がこれからあの女に傷つけられる。私の魂が……

 その時、魂がピキッと赤い血を出した。

「ああっ!!」

「はい、これであなたの魂は傷ついた。あなたはもう輪廻転生出来ない。それに魂を奪われた人間に待っているのは一生怯えながら主人に尽くす奴隷として生きるしかないの。ああ! なんて可哀想なお前」

 私は傷ついた自分の魂を見た。もう傷は戻らない。輪廻転生出来ない魂は死後、無になる。

 私は涙を流した。

 女の中指には赤い宝石のついた金色の指輪が輝いていた。私の魂をあの指輪に閉じ込めていつでも私の魂を傷つけることができる。

 魂が傷つきダメージが蓄積され限界を迎えると、光は弱くなり、そして魂が完全に壊れる。それは死を意味する。

 私は怯え「お許し下さい。なんでも致します」と私は自分を奴隷にし自分の魂を傷つけた女に頭を下げた。

「それはあなたの態度次第よ」

 女はまた私の魂にエネルギーを与えた。私の魂は悲鳴をあげ、私は涙をあげた。

「いや……いや……死にたくない」

「輪廻転生があるなら、次の生でやり直せるでしょうけど、あなたはそうもいかないわよね」

 拷問をやめた女は「奴隷、どうなの?」と聞いた。

「はい、はい仰る通りです。奴隷の私には輪廻転生は出来ません」

 女はニヤリと笑みを見せた。

「奴隷って惨めね。本当の一生を奴隷で終わらせるんだもの。奴隷のお前はどう思う? 不幸?」

「私達先祖の罪を一生を掛けて償うことを条件に人類は世界に生かされていると指導官様から教わりました。それが私達に課された贖罪だと」

「私はあなたを奴隷にしたのよ。例えばその私に一生かけて尽くせるわけ?」

「はい、尽くします! 尽くさせて下さい」

 すると、女は指輪を抜き私に見せつけてきた。

「もしくはあなたの魂はここにある。私から奪ってここから逃げることだって出来るのよ」

「そのようなことは」

「しないの? 絶好のチャンスなのよ。自分の魂を取り戻せば少なくとも怯えてびくびくしながら一生奴隷として服従する必要もなくなる」

 私は頭を下げ忠誠の意思を見せた。

「つまらないわね。抵抗してくれなきゃ楽しめないじゃない」

 女は水の入ったコップに指輪を入れた。直後、私は溺れるような息苦しさが襲った。のたうち回る私を女は暫く見て楽しんでからコップから指輪をすくい出した。

 私は息を荒らげながらなんとか呼吸を整えようとした。

 女はそれを見て腹を抱えて笑いだした。

「まるで魂の玩具ね。燃やせば焼けるような熱さが全身を襲い、ハンマーで衝撃を与えれば全身骨折したような激痛が走る。簡単に指輪は壊れないけど、もし壊れでもしたら同じく死。脆いものね、人間って」

 女は摘んだ指輪をじっと見つめてから、私を見下ろした。

 私はビクッとして直ぐに土下座の姿勢に戻り頭を下げた。

「指輪、あなたにあげようか? 欲しい?」

「それは御主人様のものでございます」

「あなたの魂でしょ? 返して欲しいんでしょ?」

「私が間違っていました。魂は最初から私のものではございません。御主人様のもので間違いありません」

「なら、あなたにこれをあげるわ。私のものだって言うなら私からあなたにあげれば問題ないでしょ?」

 女はしゃがみ私の手を取り掌の上に指輪を置いた。

「これで魂はあなたのもの」

 私の魂……これが罠なのは知っていた。これがテストだということを。

「御主人様に私の魂を捧げます。私の全ては御主人様の手の中に」

 私は指輪を女に返した。

 女は私の魂、指輪を「そう」と言いながら指にはめ直した。

「なら、受け取るわ奴隷。あなたの魂と奴隷としての覚悟をね」

 女はそう言うとため息を漏らした。そして、少し離れると、女は焼きごてを持って現れた。

「引っ掛かってくれるって自信あったんだけどなぁ。まぁ、いいわ。そんなに服従したいなら決まり通り奴隷としての印を与えるわ」

 私は土下座のまま無防備な背中を見せた。貫頭衣は背中があらわになっているものだ。そこに焼きごてが近づく。触れていないのに熱が伝わり、白い背中から汗が垂れだした。そして、焼きごてが勢いよく一気に押されると、皮膚と肉が焼ける音がジューと嫌な音を立てた。私は声をあげ、それから気を失った。





 最低な10歳の始まりは魂を抜かれ奴隷の印を入れられただけではなかった。ずっと長く収容施設に入れられた私は初めて外に出た。それはお使いとしてでなく、大きな街へ連れていかれる為にだ。

 檻の中に私と同い年の少年少女が私を含めて13人入れられ、牛車が走る。施設は丘の上にあり、それを下る一本道があってそこを下った先に橋がある。それを知ったのは檻から見えたからだ。丘から橋までの道沿いに白い塔が建っていた。あそこから監視でもしているんだろうか? 

 冷たい風が露出した腕と背中に当たり、体がブルっとした。外は中より眩しくて、見上げると青空が広がっている。そこに白くふんわりとしたものが宙に浮いて止まっている。あれは何だろうかと見続けると、それは微かにゆっくりと動いていた。煙みたい、でも違う。私は初めて見る外の景色に情報が追いつかずくらっと目眩がした。

 私は目線を下ろし自分と同じ姿の皆を見た。七人の少年と私を除いた五人の少女。私以外皆髪と瞳の色は茶髪か黒で男子達は全員坊主にさせられてある。栄養が不足しているのか私を含め全員が痩せていて小柄だ。女子達は髪の長さは私と同じくらいかそれより短いくらいだ。でもベリーショートというわけではない。そして全員に共通しているのは背中にある焼印だ。家畜の象徴ブタのシンボルである。つまり、家畜同然を名札代わりに背中に一生消えない傷として残したのだ。そして、そんな私達にこれからいったいどんな地獄が待ち受けているのか、今から震えが止まらなかった。この震えはさっきの寒さとは違って恐怖心からきていた。

 私は前方へ目を向ける。牛車を動かしている青色の防寒着を着たアルカ種の男が短い尻尾の先を上へ立たせたまま手綱を握っていた。

 車を引く牛は大きな四足生物で白い二本の角を頭に生やし、黒い毛並みをしている。乗る前に見た顔は毛と同じ色の丸い目が二つ、大きな鼻の穴と、口からみえる白い歯には葉の残骸が隙間に詰まっていた。牛の世話は無いけど歯を見て草食だと分かった。

 施設にいた時は家畜の豚や鶏の世話をしていたけどこの牛は見なかったのでもしかすると特別な家畜なのかもしれない。

 豚は食肉用、鶏は卵を食用とした。鶏も食肉用にしようとしたことが昔あって失敗したらしい。なんでも腹痛で皆腹を抱え動けなくなったんだとか。

 私達はそのどちらも食べたことはない。あるのは毎日変わらない芋と食料廃棄物から再調理された元がよく分からないもの。それでも肉が出ることはなかった。だから肉がどんな食べ物かも知らない。




 場所が移されるということはまた家畜の世話ということではないかもしれない。だが、いったい私達に出来る仕事なんてどんなものだろうか。当たり前にある魔法(私達は勝手に魔法を使えないけど)と魔法道具でかなりのことは便利にそれで解決出来る。火を起こすのも、遠くの人と連絡するのも、火を消すのも、建築するのも、怪我を治すのも、魔法だ。

 医者はいない。大工はいない。消防士はいない。農業も今や魔法機械で全自動だ。採掘だって自動化された魔法人形。巨大な窓のない漆黒の石、正方形の殺風景な施設の中には工場生産のように野菜が育てられ、魔法薬によって成長と栄養をコントロール大量生産され、その食料は施設の職員に新鮮な野菜が社食で毎食提供される。

 だが魔法にも不得意なことがある。それは家畜などの生物の世話だ。魔法人形は間違って家畜を殺してしまう事故が続き、人間が行うことになっている。

 魔法が出来るのは物を生み出したり変化させたり、消したりすることだけだ。それは物質を相手にした時になる。

 だから、私達に下る命令はそれ以外になるのだろう。

 それでも正直私には分からない。私達奴隷の意味が。この世界の労働は魔法で足りてしまう。コストを考えても自動化に勝る労働はない。それはつまり、主人の自由な時間の為に奴隷がいるわけではない。言いかえれば奴隷が働かなくなった時主人は自由な時間を失うということにはならない。私達奴隷の代わりはある筈で、奴隷が偉くなることはない(例えば・会社の社長より労働者が偉いは自動化の発明によってそうではなくなる。労働者の依存関係ではなくなる)

 恐らく、世界が古い条約を守っているのは私達を戦争の戒めの道具としてただ生かされ見せしめにされているだけではないのか。





 私達を乗せた牛車は橋に近づき、その手前で牛車は止まった。鉄橋は大きく牛車はなんなく渡っていける幅はあった。ただ、向こう側までの陸が遠い。すると、アルカの男が振り返った。

「この橋は島から東の大陸に繋がる橋だ。これから大陸へ渡るがそこではお前達人間は罵声を浴びせられるだろう。当然人間は世界から忌み嫌われる種だ。それもお前達種のしでかしたことは歴史上汚点だらけだからな。それ故の奴隷という身分なわけだ。つまり奴隷に相応しい種がお前達だ!」

 それは先祖の罪。そこに生まれていない私達にまで罪があるのはおかしい。それとも人間という血なのか。

「国家の罪は国民の罪、国家は個人を越える。まぁ、その国家を失ったお前達には分からんだろうが。とにかく用心することだな。この先、お前達を歓迎する者はいない。せいぜい殺されないことだ。一つの命の生物よ」

 アルカの男はそう言い終えると前方へ向き直し牛に鞭を打つ。牛は鳴き声をあげ前進しだす。橋に牛の前足が踏み入れると、私達はその橋を恐れた。

 周りの皆は小刻みに肩を震わせている。

 アルカの男は振り返り私達の様子を見てはニヤリとした。

 橋の下からは水の波打つ音と潮の香りがした。

 島と本土を渡る橋は少し長い。牛の速度は人間の走る速度か少しそれより速いかぐらいだ。つまり、物凄く速いわけではなかった。

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