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奴隷エマの自由への道と聖域  作者: アズ
隠遁のオアシス「聖地を求めて」
19/21

協力者、仲間

 閉館した映画館の前にはポスターを掲示するガラス張りの掲示板が汚れで曇っていて、建物正面入り口の扉には閉館のお知らせの色褪せた紙が貼られたままだった。

「こっちよ」

 エスティがそう言って建物の裏へと回った。建物の横は草が伸びきってゴミが落ちていた。その先に職員用入り口があって、近くには防犯カメラがあった。エスティはそのカメラに顔を向けてから、その扉のドアをノックした。コン、コンコン、コン。すると、内側から鍵が開けられ中年男が現れた。帽子を被り、髭を生やし、背は成人男性の平均、服は長袖長ズボンにサンダル姿だった。黒髪に黒い瞳で、人間だった。

「エスティ、そいつがお前の言っていた人間か」

「そうよ」エスティが答える。

「まぁ、入れよ」

 そう言われエマとエスティは中へと入っていった。中は電池式照明で通路や部屋を照らしていて、そこに痩せ細った若者がいた。髭はなく、頭はスキンヘッドで歯はボロボロで黒かった。白い半袖シャツに長ズボン、シューズの男は背も低かった。

「こいつはトーマス、アルカにいたのを脱出させたんだ」

「この子もだよ」

 エスティは答える。

「そうだろうな。アルカにいた連中は皆酷いと聞く。あんたはついてたな」

「……」

「それでこの子を連れて来たのはあなた達に興味があるって言うの」

「エスティ、分かってるのか? 俺達の活動は危険を伴う。この子も危険にあうことになる」

「分かってます」

 答えたのはエスティではなくエマだった。

「そうなのか。なら、歓迎するよ。ようこそ……」

「あ、エマです」

「エマね。俺はゴルトマンだ。案内するよ」

 そう言って職員用通路を通っていくと途中にトイレと倉庫のような部屋があり、段ボールや箱が積まれてあった。そして、その通路を出ると映画館の各劇場に繋がる通路に出た。直線上に沿って番号が振られたドアがあり、反対は劇場入り口、その向こうはホールになっていた。ホールにはかつて使われていたであろう受け付けや売店、売店の裏はキッチンで、そこは鼠が住処にしていた。

 映画館の劇場3番のドアを開けて入ると、見たことがない巨大なスクリーンに沢山の客席の椅子があり、そこに何人かが座って談笑しているのが見えた。

「街の様子は見てきたか?」

「あ、はい」

「あまり活気はなかっただろ? この国は元々農業と造船業、資源は化石燃料で景気を保っていたが、工業関係は他の国と遅れが出始めて、戦争による国の消耗意外にも低迷があちこちで起きているからだ。でも、自業自得だとは思わないよ。人間国を裏切ったのは今を生きるシボラ民達ではないからな。もう時効だよ」

「……」

「君はどう思う?」

「分かりません。誰のせいかはずっと人間が悪いと教わってきましたので」

「俺も他の皆もそうだ。だが、人間はずっと悪いままなのかな」

「それは……」

「人間が自由になったらいけないのか? 俺は恥辱の毎日を主に頭を下げ服従していると何の為に生きているのか分からなくなる。なんでこの世に生まれたんだろうって」

 私も、私も同じことを思っていた。

「意味なんて本当はないのかもしれない。それでもいい。ただ、俺は普通に生きたいんだ。支配されて生きるより違う道で生きたい。君はどうだ?」

「私もです」

「そうか。分かった。ただ、俺達の仲間になるには試験があってそれに合格する必要がある。試験を受けるか?」

 エマは少し考えてから結論をだした。

「はい、受けます」

 男はそれを聞いて頷いた。

「なら、まずは勉強からだ。俺が教えよう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」





 エマは最初それを聞いた時、てっきり武器の扱いや暗号とか、そういった類のものかと思っていた。だが、実際はそうではなかった。科学や教えられてこなかった人間の歴史について、座学を中心に教えられた。

 それで少し驚いた私を見てゴルトマンは武器より頭だ、と言って更に他の分野についても専門知識を沢山教えてくれた。

 その時間は私にとって今までで一番充実したものだった。

「のみ込みがいいんだな」

「そうですか?」

「ああ。それじゃそろそろ俺達組織についても教えていこう」

「はい、お願いします」

「うん。まず、俺達の組織はここ以外にもう一つ別の仲間が他の国にある。今はその国名を言えないが試験に合格すればそれも教えよう。そして、俺達人間が目指すのは人間国の地に踏み入れ、築くこと。今はバラバラだが、最後はそこに集結するのが目標になる。その為の組織設立だ。その時、他の人間達もそこに集い仲間として我々は共にするようになる」

「はい、その為の活動ですよね?」

「そうだ。アルカ、シボラ、他主に10カ国で奴隷とされる人間を解放させるんだ。だが、当然俺達だけの力では無理だ。人間全てが結束するにも人間国をまず俺達で踏み入れる必要がある。神にすがりたいところだが、これは俺達人間で成さねばならない。とはいえ、現状それは無理だ。だから俺達には協力者が必要だ。俺達を味方してくれる仲間が。それはシボラだけではない。エスティのように人間に協力するアルカがいるように、多くはないが他国にも協力者が存在する。俺達はその協力者と連絡を取りながら少しずつ規模をまず大きくしようとしている」

「シボラ以外の協力者はどういう理由で人間に協力しているんですか?」

「それは協力者に会った時に訊いたらいい。ただ、俺は人間と他の種は本質的にそう違わないと思っている。思想や価値観、見た目、能力に違いはあるが、暴力や破壊、権力欲は変わらなかったと思う。ただ、俺達人間は戦争に負け二度と立ち向かえないように要求も出来ない状態、奴隷に落ちたということだ」

「しかし、国として認めてもらうには各国の承認が必要ですよね? それはどうやって認めてもらうんですか」

「それについても考えている。俺達は少なくとも次の世代までにはなんとしても国があるようにしたい」

「どういうことですか?」

「俺や他四人の幹部はもう時間がないんだ。主があまりよくなくてな、俺達の魂はもうずたぼろなんだ。魂を回復させるすべはエスティに任せているが、それまでには俺達は間に合わないだろう」

「そんな……」

「いいんだ。俺は別に死んだ後輪廻転生がなくたって。死んでなくなるのは奴隷の時からそれが本当だと思って生きてたから。だから今更輪廻転生に拘ったりはしないさ。ただ、自由と土地さえあれば、俺の肉体はそこで眠るだろう。それで充分だ」

 エマは何も言えなかった。死が怖くないのか? 消えるのが怖くないのか? 消滅することが? だが、それは男の覚悟というより悟りに近かいものに感じた。

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