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奴隷エマの自由への道と聖域  作者: アズ
隠遁のオアシス「聖地を求めて」
18/21

辛抱と試練と行動

 食後、エマは掃除を終えテーブルの上に置かれた図書館から借りた資料の山を見た。エスティはずっと何かを調べているようで、私もそれを覗いたことがあった。そこには古い言葉が使われていて、私には理解出来なかったがエスティがたまたま覗いていた本を訳してくれたことがあった。

「《死の島》について書かれてあるのよ」

「どうしてその本を読んでいるんですか?」

「《死の品》のリスクについて分からないことがあったから」

「《死の島》はどの辺りにあるのですか?」

「人間国があった大陸から一番近い島よ。世界は六大陸十二島って知ってるでしょ? その十二島のうちの一つよ」

「なんで《死の島》と呼ばれているんですか?」

「なんでも神が悪と戦った決戦の地だったって言う話があるけど、そこで大きな火山が噴火して全てが焼けてなくなったとか。多分、その悲劇の比喩じゃないかとは思うんだけど、中にはそれを本当に信じている者もいるみたい。特に人間国があった時の人間はそう信じていたみたい」

「そうなんですか……」

「実はもう一つ話があって、決戦はまだで、これから行われ世界は滅びるんじゃないかって話もあるの。その時生き残った種だけが永遠を生きるとされている」

 エスティが開いた頁には暗闇の空に真っ赤な噴火をあげる山と、沢山の転がる死体と武器が描かれた古い絵があった。その本も黄ばんでいて独特の臭いが紙から漂っていた。

 怖い、その絵を見てエマは思った。これが、フィクションではなくこの世界で起きた、もしくは起きる話? 間違いであって欲しい。

「あの、生き残った種というのはどの種だったのですか?」

「それがそれについての記述がどの文献からも見当たらないの。まるで意図的に記されなかったみたいに」

「意図的に?」

「もし、その種が記されていたとしたら今いる他の種はどう思う?」

「あ……」

「あえて記さなかったかもしれない」





 エマはエスティとの会話を思い出しながら本を片付けていく。そこに玄関の扉が開く音がした。私は足早に玄関に向かう。帰って来たのはこの家の主だった。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

 主は貿易会社に勤めていて、今仕事から帰ってきたところだった。ただ、人間を失った現在のこの国の経済、経営状況は良いとは言えなかった。因みに、この家の主はこの国が人間に対して犯したことを悔いている方だった。今はバラバラになった人間を少しでもと協力者として活動を続けている。

 だが、それを表立っては出来ない。同じように活動している者達もだ。つまり、明確にこの国は「自由の国」とは言えなかった。それでも状況は他より遥かに良かった。

 この家族にも感謝している。

 エマは帰ってきた家の主から荷物を預かりそれを持った。

 主はやはり鼻はないものの、人間に近い肉体をしていた。もしかしたら人間とシボラの間には繋がりがあるのかもしれない。いわゆる同祖論とか混血とかの話になるが、具体的な調査がされたわけではないのでそこは分からない。

 その時、主の妻が現れた。

「お帰りなさい」

「ああ」

「なんかあったの?」

「どうもきな臭い感じになってな」

「どういうこと?」

「アルカと『ダラサ』が戦争になりそうなんだ」

「え?」

 それを聞いた時、エスティが言っていた世界で戦争が起きるという話を思い出した。

 本当に現実に? となると人間が国を取り戻すのも近いかもしれない。だが、過度な期待はしたくない。戦争が長引くかもしれない。人間が国を取り戻すのはもっと後かもしれない。それでも期待をしてしまう。

 勿論、人間が土地を持っていたのはもう古い話だ。既にそこは人間の土地ではない。その土地を今取り戻すのは困難なのは分かっているつもりだ。

「この国はどうなるの? まさか戦争するんじゃないわよね」

「分からない」

「戦争が結果この国を衰退させたのよ。絶対に駄目よ」

「それは皆分かってることさ」

 ダラサという大国はアルカのある大陸とは違う大陸の大部分を領土として持つ国であり、その経済力、軍事力は世界で上位に位置する。それがアルカとぶつかれば大変なことになるだろう。

 しかし、どうして戦争が起きるのだろうか。エスティは過去それについて、戦争論や思想は国ごとに違うし、世界が共通理解として悪と見なすような統一は厳密には無い、それは本当のことなんだろう。ただ、そんな世界でも《死の島》だけは理解が共通していた。



 あの島には触れるな。




 あの島はいったいなんだというんだ。まるで、自然界の中でも異質な場所みたいな扱いだけど。

「そういえばレジスタンスも世界大戦に乗じて同胞を助ける活動をするみたいな話を聞いたな」

 主は私を見た。私はまだその人達と会ったことはないが、気にならないわけでもなかった。

「どっからその話を聞いたんですか?」奥さんは怪訝な表情をした。

「いや……私の知り合いからだよ」

「あなたといい、エスティといい、お願いだから家にそういったものを持ち込まないでよね」

「ああ、分かってる。だが、彼らもずっとこのままというわけにはいかないだろう。大人しく服従しても永遠に続く苦難から抜け出せるわけではない。彼らは立ち上がるか絶滅するかの瀬戸際に来ている。どの国も人間を改造し生物兵器オークにしようとしている」

「そんな……」

「私だって平和が一番だと思っている。だが、試練は向こうからやってくるんだ。その時、私達はその時に備えておく必要があるんだ」

「あなた! 私、嫌よ。そういうのは。私達家族はこの家が全てよ。お願いだから馬鹿なことは考えないで。いい? もう考えるのをやめるのよ。家族が一番、私はそれ以上は求めない。異論は無しよ!」

 そう言って怒った足取りで台所へと向かっていった。

 主はため息を漏らした。

 エマは主の鞄を主の机の椅子に置くと、エマはエスティと自分の部屋へ向かった。

 部屋のドアを開けると、資料を読んでいるエスティを見た。

「どうした?」

「あの……訊いてもいいですか?」

「なに?」

「その、前に言ってたレジスタンスのことなんですが」

 エスティは資料を閉じ「ドアを閉めて」と言った。

「あ、はい」

 エマは言われた通りに部屋のドアを閉じた。

「気になるの?」

「はい」

「そう。なら、会ってみる?」

「え」

「場所は映画館。今は廃業で使われてないの」

「映画館……」

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