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奴隷エマの自由への道と聖域  作者: アズ
隠遁のオアシス「聖地を求めて」
17/21

シボラ2

 人間にとってシボラは裏切りの地になる。だが、その地は裏切りによって得た富を築いた黄金都市ではなく、その真逆にあった。むしろここにある生活は質素なもので、石ころを蹴って遊ぶ子ども達の靴はボロボロで爪先から足の指が見えていた。シボラの民は人間に近い種であり、同盟関係にあったのも親近感があったからだと言われている。仲間だった、それが突然裏切った。人間国側はシボラが金に目がくらんで仲間を売ったとばかり思っていた。だが、ここに住み着いて分かったのは、アルカがシボラをそそのかしたということだ。悪魔の囁きというべきか。アルカはシボラに人間はシボラを裏切ろうとしている。シボラは今、刃物の刃を背後から向けている。シボラがこのまま人間の言いなりに戦場に出ればお前達は最前線で戦わされるだろうと。シボラにとって人間国はインフラや産業への投資を受けた仲だが、その利権の一部は人間国が有していた。シボラは確かに金に目がくらんだのかもしれない。シボラは裏切り人間国は滅んだ。人間は全員奴隷となり、シボラは同盟国を失った。アルカがシボラの新たな同盟国になることはなかった。他の国でもだった。シボラは孤立し、経済は低迷していった。戦争の賠償もなく、ただ信用と金と仲間を同時に失った。

 戦後、シボラ政府の首長はその地位を退き首を吊って自殺をしている。

 そんな国に私とエスティは来月で半年滞在していることになる。その部屋は団地の三棟の三階の角の家族と共同生活を送っていた。因みに団地は四階建てだ。

 ドアの閉まる音が響き、エスティはソファーから目を覚まし起き上がる。狭い台所にはエマがフライパンで何かを焼いている。美味しそうな匂いがしたが、戻ってきた主の妻はエマを見るなり叱りだした。

「なんでソーセージを焼くの! 駄目じゃない。ソーセージは焼かないでボイルするの」

「申し訳ありません」

 謝るエマの服はいつもの奴隷着ではなかった。半袖半ズボンが与えられ、黒のハーフパンツに白のTシャツ姿だった。髪は伸びて今は肩まである。あの独特の異臭も今は無く、洗剤の香りがした。

「いいのよ。知らなかったんでしょ」

 質素な暮らしでも肉を食べないわけではなかった。ただ、エマがソーセージを焼こうとしたのは豚肉ではなく鶏肉を使用したソーセージだったからだ。焼いた方が美味しいと思ったがこの国の食文化にケチをつけることなく素直に従った。この国ではそもそも鶏肉のソーセージはメジャーではない。豚肉が基本だが、エマは豚肉が苦手だった。主人の妻がわざわざ配慮して豚肉を避けてくれたのだ。

 この国では世界でも珍しく規範通りの差別的な人間への扱いは少なかった。その為、一部の人間はこの国から自分達の聖地、奪われた人間国を取り戻そうと計画を練っているという。

 家族はそういった事には距離を置くが、私達のような行き場のない者を支援したり匿ってくれる方々はこの国にはいた。

「おかえりなさい」

 エスティは目をこすりながら主人の妻を見た。妻は黄色の肌に瞳と同じ色の黒髪、唇は赤く、歯は白い。身長も人間と変わらない。ただ、違うのは蛇舌であることと、鼻がない。そして、頭の形が人間より長く大きい。力もゴリアテではないが人間よりはある。だから手も大きかった。

「いいのよ、まだ寝てて。どうせ遅くまで出掛けていたんでしょ?」

「協力者から有力な情報を手に入れて、それで遅くなって」

「それじゃ探してた『賢者』を見つけられたの?」

「それが困ったことにその『賢者』は今、神の山とかにいるらしくて」

「神の山? 何かの比喩?」

「手掛かりはそれだけで」

「でも、この国にそれっぽい山はないわよ」

「協力者は誰にもその場所は知らなくて、賢者は自分の用が済むとその山へ帰るんだって言うの」

「教えたくないということかしら」

「さぁ……」

「もしかして、まだあの連中とつるんでるの?」

 連中と言った相手は国を取り戻そうとする集団のことだった。

「向こうから来ただけで私は何とも。そもそも私はアルカで人間じゃあないのに」

「人間には知恵がない。ずっと支配されてきたから知恵を頼ろうとしているのよ。特に未来書を読んだあなたなら」

「無理よ。人間に勝ち目はない。世界はまだまとまってる。かろうじてだけど」

「未来はどう示していたの?」

「……世界で戦争が起きる。かつてない程の大規模な世界大戦が。そこで大勢が死ぬ。戦争でめちゃくちゃになって、人間が国を取り戻せるのはその後よ」

 それを耳にしたエマは思わず「本当?」と言った。エスティは気にせず「そうよ」と答えた。

「それじゃ人間は自由?」

「どうかな」

「え?」

「私が未来書で見えたのはそこまで。未来書にはねルールがあるの。魔法の書であるように、ずっと先の未来までは見せてはくれない。制限があるの。そのルールは読み手の残りの寿命まで」

「え……」

「私はその先この世にいない」

「……」

「大丈夫だって。寿命って言っても肉体の話。魂は永遠に生き続ける。だから、本当に大丈夫」

 エマは答えたかったが、言葉が詰まり何も言い出せなかった。

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