シボラ
不思議だと思った。バイクがこんなに群れて走っているのに音が全くしないなんて。勿論、それが魔法によるものだとは分かっていた。砂煙は出るものの、静かな砂漠ではバイクが走っているとは思わないだろう。正直、遠回りしていけば目的地へ安全に着くことも出来ただろう。だが、実は岩山は他の場所にもあって、そこにも見張りがいるんだとか。結局、ここが最短ルートになる。
走り続けていると、全方に何かが建っているのが見えた。否、それは突き刺さってきた。巨大なクジラのような宇宙船は頭を砂漠の中に埋め、胴体から先はあらわになっている。
その方角では銃声や爆発音など戦闘の音が響いていた。
先に向かった少数部隊がパーツ争奪戦にゴリアテと戦闘状態にあった。
此方は騎馬兵ならぬバイク兵として銃を構え、戦場へそのまま突撃する。
「いくぞ、野郎ども!」
リーダーは先頭を走り、皆がそれに続いた。
そこへ風が吹き砂煙が起きる。バイク群は構わず突き進み、砂煙が晴れると目の前は戦場だった。ゴリアテは最後まで気づかなかった。銃声が一斉に放たれ、宇宙船を囲んでいたゴリアテどもの肉体に弾丸が次々と命中する。うち、数発が鉄仮面に弾丸が弾かれた。それでも倒れることもなく、バイクの群れにむしろゴリアテは反撃とばかりに突っ込んでいく。盗賊団は魔法で斬りつけたり、炎を放ったりしたが、焼かれても、皮膚とその下の肉が裂かれても、ゴリアテはバイクに突進し、一台、一台と砂漠へ倒していく。中には槍を放ち、それが盗賊団の腹に突き刺さる。血と弾丸と魔法が飛び交い、一瞬で混乱の場となった。
「ゴリアテどもを殺し尽くせぇ!!」
リーダーが皆の士気を上げようとしている中、私達の乗るバイクにもゴリアテが突っ込んできた。私とエスティはバイクから離れ砂の上で転がる。私達は急いで起き上がると、そこは地獄の光景だった。
ゴリアテの不意打ちは狙えたものの化け物じみた頑丈さと精神力に残念ながら勢いで押し切れず、両者共に次々と犠牲を増やしていった。
乾いた砂に赤い血が流れ、遺体が近くに転がり、嫌な臭いが漂った。
私は怖くてしゃがんでしまうと、エスティが「立って!」と叱る。私は急いで立ち上がる。
「どさくさに紛れて逃げるわよ」
「え?」
「盗賊団のリーダーが約束を守るわけがないじゃない。行くよ」
エスティはそう言って私の手を引っ張り走り出した。
その後方辺りでリーダーが「あの奴隷はどうした? エスティはどこだ? 死んだのか?」と言うも、それはあちこちの悲鳴や叫び声でかき消された。
宇宙船から遠ざかる者を追う者はいない。皆、目当てに意識が集中しているから、その周辺は盲目的になりやすい。
しかし、これからどうしようというのか。再び、隠遁出来るオアシスを探し始めるのだろうか。
国家を失い無国籍として権利や法的保護が奪われた人間の一員である少女と、国を追われ国にいられなくなった女、私達はこの砂漠の夜を彷徨い歩き続けた。
……二年後。
既にシルフとアルカの両国は他国の仲介もあって停戦合意をしていた。一方、アルカはシルフに情報を渡し国家反逆を行った二名、そのうち人間を問題視した。それは社会全体に広がり、アルカ国内ではより一層人間に対する扱いが酷くなっていった。更にアルカ国内では人間が多いことが問題ではないかとし、人口を減らす為に少しでも反抗する意思が見られた奴隷から次々に処分され、更に奴隷が奴隷を密告して忠誠心を見せ助かろうとする人間まで現れるようになった。そしていつしか、見られたという基準から可能性まで下げられ、その可能性も曖昧性のまま現場指揮官の判断に委ねられるようになる。結果、アルカ国内での人間の数は激減し、中には逃亡しようと試みる人間も現れた。因みに、逃亡は捕まり次第処刑である。
これにアルカの民が関心を持つかというとそれは当然のことながら全くなかった。拡大する人間の処刑に対して、アルカの民に届くことはない。恐怖は劣等種である人間のみであり、それに何の疑問も持ってはいなかった。
しかし、そもそもバラバラになった人間がそのアルカに対抗する力は無い。一人の少女が革命を起こそうとしていただなんて誰もアルカの民は本気にはしていなかった。それは公表した政府も同じだ。現に何も変わっていない。だから、公表した政府も、それを聞いた民も口実であることはしっかり通じている。民は沈黙し、無関心に、人間が今日も処刑されていることを何とも思わないでいるのだ。それはアルカにとって人間の生を考えるまでもないということ。
さて、そんなアルカの現状を知らないエマとエスティはというと砂漠での隠遁生活をやめ、シボラの国へ渡っていた。そう、シボラは人間国を裏切り、結果人間国が負けた原因の一つである。裏切り者のシボラ。それが人間の心の中で共通する部分だ。そんなシボラが今どうしているのか、アルカにいた人間達はまず知らない。さぞかしアルカと組んで利益を得たに違いない。裏取引をしていたぐらいだとそんな風に想像していたが、想像を裏切る光景を目の当たりにした。
それは食料が乏しく、貧しい暮らしを強いられる国民生活の現状だった。
子どもを育てられないと川に流す母親や、窃盗が多発する治安の悪さ、増築を繰り返し迷路のような団地、その壁やドアにはスプレーで悪戯がされており、夜は真っ暗、外灯どころか電気すら止まってしまう、そんな有り様だった。




