作戦開始
魂というのは普段目に見えず知覚される存在ではない。可視的世界にないが、魔法という魔力は霊的であり、生命エネルギーであり、プラーナである。それは特殊な性質であって魔法は霊的に繋がっていると思われる。精霊魔法というのが一つの例になるだろう。それ以外は普段は隠された世界にある。通常、それは突然現れる。嫌な予感、直感などがそうである。では、此方の世界からのアクセスはどうだろうか。その手法に魔法や儀式的行為がある。魔法が特殊であるからだ。魔法が魂を肉体から引き寄せ引き離すように、魔法は霊的なものや魔力となるプラーナを集める。それは火の精霊だったりするのだが、それは別の章で詳しく語るとして、魔法が集めるとされるプラーナとは生命エネルギーとして魂を回復させるが、それは魔法にもそのような力があると思われる。本来、自然の中にいる、太陽の光を浴びる、食事をとるなどの日常での行為はプラーナを摂取し、回復をしている。しかし、その程度の量では致命的な魂の損傷に対しては回復に至ることはない。魔法はプラーナを集める、回復に必要なエネルギーを効率的に魂へ与え回復量を押し上げることが出来る。
「これだ」
エスティは読みながら思ったことを口に出していた。
しかし、読み進めていくと魂の回復にはどうも専門知識が必要であり、簡単ではないようだった。
「ようするにその専門家を見つければ魂は回復出来るかもしれない」
「本当ですか!?」
「うん」
行く先に少し希望の光が見えた。
そこにテントに盗賊団のリーダーが戻ってきた。
「ねぇ、リーダーさん。魂に関して詳しい専門家の知り合いとかいない?」
「いる。そこの奴隷を救いたいのか? 物好きだな」
「紹介して欲しいんだけど」
「いいだろう。ただし、ゴリアテから宇宙船を守りきれたらな」
「本当に?」
「そいつは俺達の取引先だ。だが、一つ言っておく。そこにある本を読んでも、断定するものではない。あまり、過度な期待はしないことだ」
「どういうこと?」
「感覚器官は身体、自我は魂だが、直感的な知覚は身体の感覚器官とは違うところで行われるとされている。なら直感がどの感覚器官が知覚しているのか、それはどの身体かというより、他の場所で知覚されるとある……ようは複雑な分野だってことだ。俺はその分野に早々に降参したよ」
「でも、回復は出来るって」
「俺の知る限りそれが出来たのは《賢者》というジョブだけだ。他にいるのかは知らないな。さぁ、それじゃ作戦会議といこうか」
宇宙船、そこには横へ円筒に居住エリア、研究エリア、コンピューターなどのシステム関係と区別され、動力にはダークエネルギーを使っている。
宇宙船の形やエンジン、パーツには国によって異なる。宇宙船とは違うロケットタイプはかつて人間国で最初で最後に打ち上げられたきりだ。それも大気圏を突破し宇宙へ到達してから通信が途絶え、この砂漠のどこかに落ちた。
貴重なパーツとされるのはコンピューターやデータといったもので、データが無事であることはまずないが、もしあれば一攫千金は夢ではない。場合によっては宇宙の秘密に触れるかもしれない。
「俺達の狙いは当然、そのデータだ。宇宙船へは太陽の沈む方角へここから40キロ離れた場所、その途中にゴリアテの墓がある」
「ゴリアテの墓?」とエスティは訊いた。
「岩山がある。その上に連中が勝手に仲間の墓をつくってある。そこに見張りがいる筈だ。見張りが俺達を認識してから仲間へ連絡する。だから、ゴリアテの墓まで距離をとって日が落ちるのを待ってから移動を開始、一気に宇宙船まで向かう」
「連中の武器と魔法を教えて」
「『狂戦士』のジョブだ。接近戦と強化系の魔法しか使ってこない」
「ベルセルク……防御不能の攻撃か」
「そうだ。だが、当たらなければ問題ない。俺達の優先は調査隊との現地合流。そこからゴリアテどもを蹴散らす。作戦は宇宙船を砦にし、遠距離部隊がゴリアテどもを攻撃、前衛は宇宙船を守る」
「私達は?」
「お前達は切り札だ」
やっぱりね、とエスティは思った。リーダーは1枚の写真を見せた。白黒の写真には小さな《箱》が写っていた。
「《死の品》の箱……」
「知っているようだな」
「どんな物でもその箱から取り寄せることが出来る品よね」
「そうだ。それは形勢逆転の為に兵士を取り寄せることだって可能にする魔法の箱」
「本気?」
「俺達が使うんじゃない。今『ファーベル』によって《死の品》を生み出せたのはそこの奴隷しか俺は知らない。扱えるのも恐らくそいつだけだろう」
「この品は駄目。代償が分かっていない」
「勿論《死の品》に関わる俺達にまで代償がくるかもしれん。だから、最終手段だ。いいか? データがあれば俺達はそれだけで砂漠の砂から解放される。ずっとこんな砂漠で砂を掘り続けて宇宙船が砂に埋もれないようにすることもない」
「……」
それから作戦は開始された。バイク30台の部隊が集まり、それを見送る仲間達がハンマーと鉄で叩き勝利を祈った。私達はリーダーに与えられた赤色のバイクにエスティ、エマが跨った。エスティは組織に支給されるゴーグルをつける。私はその後ろでエスティの体につかまった。エンジンをかけると振動が伝って緊張が高まりだした。
先頭にはリーダーが、副リーダーはアジトへと残った。
「野郎ども出発だぁ!!」
リーダーが叫ぶと、連中も大声をあげる。エンジンをふかす音が高まり、一斉に走り出した。砂漠の乾燥した大地をエンジン音がかける。
バイク群は夕焼けの空へ向かって砂煙をあげながら走り続けた。
エスティは時々、後ろにいるエマを気に掛けた。エマはバイクに慣れていないのか震えていた。
あれからなんとも本人は言ってこないが、代償がまだ現れていないからなのか?
それから暫く走り続け、バイク群は日が落ち終わる前に最初の目的地に到着した。そこは砂の山があり、その先に岩山があった。偵察隊はその砂山の下にいて、リーダーに状況報告を終えると、近くて夜になるまで私達は待機となった。
夜になると岩山から小さな明かりが点在して、それは動き回っていた。
偵察隊が砂山の天辺からそれを覗くと松明を持った青色をした巨漢、ゴリアテ種族がいた。どいつも背が2.5メートルある。大きな長ズボンに素足、上半身は裸で腹筋はバキバキに割れ、胸筋は盛り上がり、四本ある腕の筋肉は太い。頭には鉄仮面を被り巨大な槍や斧などの武器をもう片方の手で持ち歩いていた。偵察隊が言うには連中は休むこともなければ寝ることもないという。つまり、座ったりせず立ちっぱなし、歩きっぱなしというわけだ。
「疲れ知らずもここまでいくと狂気だな」
「それだけじゃありませんよリーダー。連中、走り出したらずっと走り続けられるみたいですよ。時速50キロをずっと走るんです」
「流石はゴリアテだな」
「この距離では狙撃しても連中の肉体を貫くのは無理ですよ。それこそ戦車でもない限り」
「俺だって昔奴らとやり合ったことがある。そん時は近距離でショットガンぶっ放したが立ち上がりやがった。だからそいつの眼球にマグナム押し付けてぶっ放したやようやく止まったよ」
「うわっ……」
「仲間は火炎放射器で連中を焼き続けたが皮膚が少し赤くなる程度だった」
「よく殺せましたね」
「連中を倒すには魔法しかない」苦笑しながらリーダーはそう答えた。
「それじゃそろそろ準備を始めろ。バイクに音消しの魔法をかけるんだ」
設定・ゴリアテについて
強靭の肉体精神を持つ種は疲れを知らない戦士として世界からそう知られているが、厳密に言うと彼らは「非感情的」な思想があり、子供の内から過酷な修行を受け耐えた者だけが大人へとなる。そういったことから、ゴリアテが最初に得るジョブは『狂戦士』であることが多い。




