魂の回復手段
盗賊団に捕らわれ私達は穴の底へロープを伝って降りた。最下層に到着すると、エスティは連中に訊いた。
「ここの毒素はどうなってるの?」
「毒素? そんなの気にする奴はここにはいない」
「それじゃデマだったの?」
「そうじゃない。微量の毒より俺達にとっては金だ」
つまり、皆それぞれ何かを抱えここに集まった仲間ということだろうか。貧し者は多少のリスクを負ってでも金を得る。そうか、これがこの国の事情ということだろう。
「リーダーはお前達を仲間に入れたがってる。俺は反対だがな。お前達は世界から指名手配中だ」
知られてる! と私達は驚いた。
「世界から追われてる奴を匿うリスクを負ってまでお前達に期待出来ることって何だ? 死の品のコピー兵器か? それこそ世界を本気にさせるだけだ。俺達は世界と戦争したくてここに来たんじゃねぇ」
四つ目の男は銃口を私達に向けた。
「何故ここに来た?」
「あなた達が知ってる通り私達は世界から追われてる。だからこの砂漠の地へと逃げた。だからあなた達に匿ってもらわなくても結構よ」
「どこへ向かってた?」
「宇宙船じゃないのは確か」
「答えろ!」
「オアシスよ」
「オアシス?」
「そうよ。あるんでしょ?」
すると、周りにいた連中は一斉に笑いだした。
「そんなものはない。そんな理由で俺達を騙せると思ってるのか?」
銃口が質問に答えるエスティの喉に当てる。冷たい感触が伝ってくる。
「騙そうだなんて思ってない。私達はただ身を潜める場所が欲しいだけ」
「俺達は金が欲しい。そして目の前にその金が転がってきた。お前達を引き渡し金を得ればこんな砂ばかりの場所に俺達はいなくて済む」
宇宙船の方からはパーツを切断する音や、そのパーツを持ち上げる声なんかが聞こえてくる。
「あんたは私達を売らない」
「なんだと?」
「あんたのリーダーがどんな奴かは知らないけど、そのリーダーってのは恐らく知っている、引き渡した後で殺されるって。なんせ私は未来書を読んでるから。そんな国家としてまずい情報を持っている可能性のある私と関わった時点で、あんた達もリスクの対象になる」
すると、男は銃を持ってる反対の手でエスティを平手打ちした。エスティはぐらっと衝撃でふらついた。
「生意気言ってんじゃねぇ! 未来書はただの予言書だ。今時コンピューターで未来を予測してる国だってあるのに、そんな古臭いもん俺が信じるわけないだろ! 未来を変える力がお前にあるわけじゃあるまい…………そういうことか。それを見たのか。それでリーダーは……」
「あなたは決定論を否定する?」
「そうだな。神が定めた運命なんぞクソ喰らえだ」
罰当たりな男だと思った。四つ目を持つ種、エマはその種について知らなかったが、エスティは知っていた。
リーダーのいるテントに案内されると、そこには沢山の地図と本が積まれた山があり、その奥にリーダーと思わしきローブの男がいた。
「君達だな。下っていいぞダビ」
言われたダビは黙って小さく頭を下げると私達を置いて踵を返していった。
「さて、単刀直入に言おう」
「随分いきなりね。さっきのダビ? って男が言ってたけど私達を仲間に引き入れたいとか?」
「実は俺達は最近落ちたばかりの宇宙船を他の奴らと争っていてね。その連中はゴリアテだ。知っているか?」
「デカい奴としか……」
「そうだ。俺達はそいつらに苦戦していてね、犠牲が大きい。打開策をなんとか立てなければならない時にお前達が偶然にも現れた。運命に感じるよ。君達にはそのゴリアテ退治に手伝ってもらいたい」
「どうして私達が?」
「報酬ならくれてやろう」
「金なら結構。この砂漠の地でいくら金があっても無意味だもの」
「情報は?」
「情報?」
「俺達は違法の宇宙船解体とパーツを売ってるんだ、それなりのパイプぐらい俺のところに集まってくる。お前達みたいなのはイレギュラーだが」
「私達をスカウトする理由は?」
「あのシルフを倒した」
「知り合い?」
「まず知ってることに驚いたらどうなんだ?」
「知ってるんでしょ? パイプが沢山あるって言うんだから。でなきゃ相手にしない」
「随分肝が据わってるが、利口ではないな。さっきの問いだが、知り合いではない。だが、一方的に此方は知っていた」
「そう……」
「それでどうなんだ?」
「どうせテントの外で仲間が武器持って構えてるんでしょ? それって選択肢あるわけ?」
「決まりだな」
「ねぇ、一つだけ教えて」
「?」
「傷ついた魂を治す魔法。あるんでしょ?」
私はそれを聞いて驚いた。これって……
「ああ。それでいいならそこら辺の山の中にそれが記された本がある。準備までまだ時間がある」
「ありがとう」
「俺は仲間を集めている。その間好きにしろ」
エスティは私達だけになると席についてまず山の頂上から本を開いた。始まりは第一章になる。
第一章 肉体と魂 一部
生物というのは肉体に魂が宿っているものだ。もし、肉体が限界をむかえ死んだ時、魂は肉体から離れる。その時、自我はどこへ宿っているかというと肉体ではなく魂に宿る。つまり、自我は肉体が滅んだ時自我も滅びるわけではない。ただ、今は無意識の状態であり、本来は肉体から魂が出ていく過程を自覚する者はいない。だが、似た事例で幽体離脱がある。幽体離脱は肉体から魂・自我が抜けることだが、肉体が死んだわけではないので生命活動は続く。また、植物状態は意識がどこにあるのかという問題があるが、自我は魂に宿る為に植物状態だからと魂が、自我がないと決めつけることは出来ない。これは、植物状態の患者を看護したことのある体験談から脳死判定されたにも関わらず、その患者から「何か」を感じ取ったという記録がある。その「何か」は直感的であるが、それを勘違いだと決めつけてはならない。問題は言語化出来ない何かをどう相手にするかである。しかし、この説には幾つもの反発がある。例えば意識や自我は元から無いという説がある。それは受動的であり、意識の前に行動が始まっているという考えだ。だが、それは責任論など多方面からの反論がある。認識論いぜんにそもそも意識はあるのかないのか、この問題も含め議論は今も行われているが、現在の多くは意識や自我は魂に宿るこの説が受け入れられている。魂は認識できても、魂の謎が全て明らかになるかは未知数である。
中略
肉体から魂が抜けると魂はどこへ向かうのか。新たな肉体へ魂が宿る。それが輪廻転生。肉体を得た魂は活動を始める。ただし、記憶は脳に記録される為、記憶のない状態で始まる。ただし、魂には経験が蓄積されている。記憶は知識だが、経験は直感的なものとなる。才能は記憶でなく直感からあらわれる。
因みに、魂は死ぬこともあり、魂が誕生することもある。魂の死とは魂の持つ生命エネルギーと関係がある。魂が傷をつくか、または《死の品》は生命エネルギーを消費することで生命エネルギーは減少する。ただ、魂が活動する時も生命エネルギーは消費される。ただし、その程度は直ぐに回復する。この世界にはエネルギーがありプラーナと呼ばれ、それが生命エネルギーとして回復する。魂は再び元気を取り戻す。では、肉体が死んだ時、生命エネルギーは尽きるのかというと、エネルギーは消費されない限りは魂に残る。魂は肉体から離れ、転生へと向かう。だが、魂を既に肉体から切り離され傷つけられた奴隷の魂は肉体が死んだ後、エネルギーは傷口から漏れ続け、生命エネルギーは尽き活動は終わりを遂げ、転生に向かう前に魂は死んでしまう。その場合、魂は消失し無となる。
エスティは後に続く文を飛ばし、次の章を開いた。
第二章 主客の一致 一部
自我、意識は魂にある為、肉体だけでは世界を知覚することはない。知覚とは見る、聞くなど感覚は意識の中で認識される。認識論について本書では具体的には省くが、客観も主観も同じ意識で行われ、それは魂の働き無しに肉体はそれを知覚することがない。
……これも違う。エスティはそう思ってこの章も飛ばし読みした。
第三章 直感
直感とはスピリチュアルな体験、嫌な予感がする、何かを感じ取るというのは、それが何であるかという対象を認識する前に先に感じ取るもので、それが何であるか具体的に分からないままがある。
これも飛ばす。
第四章 魂の回復
エスティの心臓が跳ねた。これか!? エスティはその章を真剣に読み始めた。




