VSシルフ2
シルフがやってくる前の宿屋の一室…… 。
「まず、あのシルフについて私が知っている情報を教える。多分一番気になるのがあいつの力がどれだけあるかって話。プラーナと呼ばれるそれは私達とは比べものにはならない膨大ないわゆるエネルギーを保有している。だから、正直使える魔法の範囲なら何でもやって見せると思う。そして最悪なことにあのシルフの持つジョブが『レックス(万物の王者)』ということ。分かりやすく言えばこの世界にある生命に限らず物質や空気中あらゆるものがプラーナ、つまり万物を意味する」
私は首を傾げた。
「ようは、風という息吹もたった一つのジョブの力だってこと。そして、この世界をあれは操るし、エネルギーとして自身に取り込み保管したり、治癒に使って肉体を回復させたりするってことよ」
「え……」
そんなのあり!? と私はもう絶望的になった。物を生み出したり色々する自分のジョブとはまるで違う。
「でも、そんな強大な能力でも弱点はある。まず、魔法によって生み出された物は操れない。だからあなたの武器とか道具とかなら大丈夫。あとは代償が大きい。絶大な力にはそれなりのリスクが伴うのが魔法界の通例。『レックス』の代償は〈責任〉よ。具体的には魔法による〈動き〉によって悪や闇へ向かいやすいということ」
「もし、闇へ向かったらどうなるのですか?」
「悪魔や魔物へ変化し、二度と元には戻れなくなる。その際、その者の魂も同時に変化してしまう。つまり、魂が傷を負って輪廻から外れるように、変化した魂もまた輪廻から外れ元には戻れなくなる」
「それではそこまでは相手もやれないということですか?」
「理性が保っている間はね。でも、悪や闇に傾いていたら理性が保っていられるかは分からない。ここからが作戦。奴に勝つ方法はあのシルフをその状態まで精神的に追い込むことよ。その為には絶対に自分が有利な立場にあると思わせないようにする必要がある。心の余裕をなくせば早く闇に傾くし、逆に時間を賭けてたら私達の勝機はどんどん薄れていく。どう? 出来そう」
「分からないですけど、どうすればいいか教えていただければなんとか頑張ります」
「それじゃ準備に取りかかりましょ」
「はい」
……そして、現在。
シルフは街の外で長い長い詠唱を唱え続けていた。それはとてつもない魔力で、街ではサイレンが鳴り響いていた。まだ、街には沢山の市民達が避難できず取り残されていた。その中に一人の奴隷少女と主人のアルカの姿があった。両者は地下にいたが鳴り響くサイレンの音が聞こえ地上へと上がってきていた。
アルカ達は「巨大な水魔法が来るぞ!」と叫んでいる。
どうやらそれで私達を始末する為にその周りを巻き込むつもりらしい。
「あのシルフ、遂にヤケをおこしこの街ごと消すつもりよ」
「ど、どうしましょう?」
「でも、街の出口は既に大勢が集中していて間に合いそうにない。ちょっとこれは想定外かも」
「しかし、御主人様。御主人様が仰られたようにあのシルフは悪へ向かって落ちているのですか?」
「その筈よ……とにかく私達も危ないからどこか高い場所へ逃げないと」
私達は辺りを見回した。すると、暫く行った先に高い塔があった。
「あそこに行くよ!」
「はい」
私達は視界にある塔を目指し走った。
その頃、女アルカの言う通り既にシルフには変化が起きていた。肉体が黒へと段々と変色していくと、シルフの目も獣のように鋭くなり、歯は全て抜け落ち新しい歯が生まれ変わり、それは恐ろしい牙を生やし、肉体からは異臭が漂い始めた。
「コロしてやる……コロしてヤル……」
それは理性ある発言というより感情的というより肉体が乗っ取られたようにそれは別者へと変化していた。頭からは角が頭皮を突き破り現れると、血を垂らしながらどんどん角が伸び始め、その激痛にシルフは詠唱を中断し、悲鳴を上げた。
「どうして……俺が……」
背中の皮膚が縦に二つ裂けると、血を吹き出しながらそこからコウモリの羽を生やし、それを大きく広げると、シルフの目は真っ赤な瞳へと変わり、空を見上げるとシルフだった男は空高く飛び、詠唱を再開しだす。
空飛ぶ悪魔の真下から地上に裂け目が生まれ、そこから大量の水が吹き出し、たちまちそれは湖程の大量の水を生み出すと、近くにあった木を薙ぎ倒しながら街へと津波となって襲いかかった。しかも、津波は向かいながらスピードと高さを上げ続けた。
その光景を塔の最上階まで登りきった私達はそれを目の当たりにしていた。
「まずい……このままじゃここも危ない」
いや、どこへ逃げようと安全な場所はない。例え街から出てもあの津波なら街をのみ込んだだけで留まらないだろう。街を出た先もかなりの範囲で巻き込まれる。当然、近くに高台のような場所はなく逃げ切れずに巻き込まれる可能性は大。
主人はなにか方法がないか色々考えた。塔の下では逃げ惑うアルカ達が。あんなに魔法をいろんなジョブを持った者達が大勢いるのに、誰もあの津波に立ち向かう者達はいなかった。逃げることに精一杯で間に合わないことも分かっている筈なのに。
その時、杖をついている年寄りのアルカが若者に「邪魔だ」と押し倒され、落ちた杖がコロコロと地面を転がっていく。
「聞いて。あなたのジョブで巨大な杖を生み出せない?」
「巨大な杖?」
「それを街の前に突き刺して前方へ押し寄せるエネルギーを左右に分散させたいの。壁だとただ正面からエネルギーをもろに受けるでしょ? 頑丈な壁をつくる暇はないし、中途半端だと破壊されて残骸ごと津波に流され跳ね返されたら余計状況が悪化するだけ。だからなんとかして左右にわけたい」
「あの津波を割るんですか!? そんなことが出来るんですか?」
「無理よ。本当ならブラインド状のプレートを置いて減災したいところだけどあなたの魔法じゃそんな巨大なものを生みだしている時間はないでしょ? そもそもあなたの魔力程度じゃ完成させるには足りない。あなたの寿命が削れていくだけよ。かといってただの杖じゃ津波にのみ込まれて終わり。ただの杖ならね」
「?」
「作戦はこうよ。あなたには私が指定した杖から巨大な杖を魔法で指定した場所に生み出し津波を分散するの。それでも勢いが減ったところで分散され拡大した大量の水がこの街にやってきてどっちにしても浸水。その前に私が土の魔法で街を覆う壁をつくる。つまり「杖と箱作戦」よ」
「はい、分かりました」
「それであなたに偽造して欲しいのは人間がかつて戦争で逆転する為に《死の島》で禁忌を犯そうとした《死の品》の一つ『天使を殺した縄』よ」
「縄ですか?」
「《死の品》には全てに言い伝え(物語)がある。その一つ『天使を殺した縄』という話は風を支配する天使と水を支配する二人の天使が神に罪深い悪しき人間どもを滅ぼし人間を創造し直すよう訴えて、神が人間として百年誘惑に勝てたらそのようにしようと約束したけど、その天使は結局快楽に屈しあの地で吊るしたとされる、その時に使われたとされる縄よ。その縄には水と風の力を跳ね返すの」
「しかし、本物は」
「分かってる。そもそも本物はどんなことになるか分からない危険性がどの品にもあるとされるから、使えない。だから偽物でいいのよ」
「偽物に本物みたいな力がついたりするんですか?」
「禁忌には《死の品》の偽造も含まれる。でも、誰もあなたがやったとは気づかない。今の大混乱ならね。ようは、それを偽造した縄を蛇のように杖に巻きつけたでっかいのを街の前に立てて欲しいの」
「そうすれば津波は手前で反発し海が割れるということですか」
「うまくいけばね……正直《死の品》の偽造がどうなるのか私もよくは知らない。でも、それしかない」
「……分かりました。ただ〈偽造〉するにはその物を見ないと」
「それなら『《死の品》図鑑』に写真があるからそこから偽造して」
主人はそう言って分厚い本を鞄から出し、その頁を開いた。確かに、その頁には品の名前と共に縄の写真があった。ただ、それは一見普通の縄に見える。これでいいんだろうか。自分のジョブなら、道具や武器なら生成できるけど…… 。杖は年寄りのアルカが手を離した杖をモデルに使う。それにこの縄が巻き付いたでかい杖を私はイメージした。生み出すには強いイメージが必要だ。
「あまり時間がない」
「はい……」
私は写真の縄をじっと見続けた。その時、背筋がゾッとし嫌な予感がした。
なにか、これは危険な予感がする。しかし、時間はない! 迷っている暇はないんだ。
「や、やります」
「お願い」
空に巨大杖に巻き付いた縄が出現した。その時、ピキッと胸が痛くなった。主人が持っていた私の指輪が光った。黒色のオーラのように。
「まさか偽物でも代償があるの!?」主人は驚愕した。
魂が指輪から現れ、その私の魂に新たな傷が生まれた。
出現した杖は街の前に地面深くに突き刺さり、そこに立った。そこに津波が押し寄せる。主人は杖を信じ土魔法を唱え、街を囲む壁を出現させる。
「なんだあれは?」
街の前に突如出現した杖を見てシルフだった男は首を傾げる。
「あんなもので俺の魔法を防げるものか」
その時、杖に巻き付いていた縄がくねくねと動き縄が蛇へと変化しだした。蛇は舌を出しながら頭をこちらに向けた。男は蛇と目線が合った。
「《死の品》を偽造したのか!? 代償を知っててやってるのか」
男はあり得ないと驚いた。
いや、死ぬと追い詰められたらやりかねないか。
「蛇よ、俺はさぞかし罪深いだろう。俺を殺すか? 俺は大勢を殺す。殺し過ぎた俺はもうとっくに罰を受け、肉体は化け物になった。自我もいずれ失う。天罰を下すなら遅すぎた」
蛇はなにも言わない。そこに津波がやってきた。が、津波は杖の手前で弾かれ津波は杖を中心に真っ二つ割れ勢いは分散された。勢いを失った波はアルカの壁に防がれ水は森へと向かった。
蛇はシーッと音を立て睨みつけると、男は魂を消失し肉体は石のようにかたまると、大量の水の中へ落ちて沈んでいった。




