1-98 空の孤島の空港
建物内部は滑走路とは違い経年劣化が進んでいたが、こちらは適度にリノベーションされ生活の痕跡が見られた。
ミカン箱のテーブルには蓋が開いた缶詰と冷えてカピカピになった焼きそばが置かれており、ついさっきまで誰かが食事をしていたのだと推測出来る。
「こそこそ」
「うぱうぱ」
そして通路のど真ん中には不審なダンボール箱が置かれ、ガサゴソと動いているのできっとこの中に何かが入っているのだろう。
実際の空港ならば即座に警備の人に教えるレベルの怪しさだが、イタズラわんこなサスケはしっぽを振りながらダンボールに近付いててい、と持ち上げた。
「うぱー!」
「たべないでー!」
そこにはマタンゴさんとウーパールーパーっぽい生き物が身を寄せ合って震えており、推測だが不審な人物に恐怖を感じ食事を中断して咄嗟に隠れたのだろう。
空から得体の知れないものが降ってきてそこから怪しい連中が現れるなんて、ここに住んでいる地元民からすれば未知との遭遇以外の何物でもないからな。
「食べないでヤンスよー」
サスケは二人を安心させるため優しく声をかけたが、
「うぱー!」
「のおーん!?」
窮鼠猫を噛む、ウーパールーパーは友達を護る為高圧水流の水鉄砲を口から吐き出しサスケを吹き飛ばした。
威力的には暴徒鎮圧に用いる放水と同じくらいか。しかしこの小さな体のどこにこれほどの量の水が入っていたのだろう。
マタンゴさんとウーパールーパーはその隙に全速力で逃げ、またすぐに食卓に戻り缶詰と焼きそばを回収、不安げにごはんを頬張りながらどこかに走り去っていった。
「あらら、やっちまったな。野生のウーパを驚かせると時々こうなるんだよなー」
「私も経験ありますポン。ぽへーっとして可愛いですが地味に危ないんですよね」
ザキラとモリンさんは微笑ましそうにその様子を眺めていたので、ウーパなる生き物に水をぶっかけられるのはこの世界ではあるあるネタの様だ。感覚的には野良猫の猫パンチの様なものなのだろうか?
「サスケ、大丈夫か?」
「うえーん、びしょぬれになっちゃったでヤンス~。あっ」
ずぶ濡れになったサスケは俺に泣きつくが、しばらくして何かに気付き恥ずかしそうにそっぽを向ける。男同士とはいえ濡れ透け状態を見られるのが恥ずかしかったのかもしれない。
しかし犬モードは全裸だが羞恥の基準はどうなっているのだろう。ただあまりその辺をつつくとセクハラって文句を言われそうだしなあ。
「じー」
「フガー」
それに今は他に気になる事がある。建物に入った瞬間から四方八方から視線を感じていたが、至る所でここの住民らしき人が隠れて様子をうかがっており、その視線はどれも警戒心を感じられあまり歓迎されていないのだという事を理解してしまう。
「じー」
「ちー」
ただ伝統的な服を着た中国人の壊れた模型の後ろにいるもふもふとネズミは明らかにはみ出しており、一応何かあった時のために天井から落下したボロボロの龍の模型を装備しているがこれで隠れているつもりなのだろうか。しかし可愛いのでもちろん何もかもがオールオッケーである。
「かくれんぼ? ぼくもいっしょにあそんでいい?」
「はじめましてのキノコだ」
「ともだちふえた、わーい」
「フガフガ」
「わーいわーい」
だが警戒モードはすぐに消滅する。友達作りのプロフェッショナルのマタンゴさんは一切物怖じせず彼らに近付き、また住民のマタンゴさんや他の謎生物もすぐに受け入れ仲良く遊び始めた。
何ともほのぼのする世界観だ。住民はどいつもこいつも愛嬌たっぷりだし、バイオレンスな展開を想像するほうが難しいだろう。
強いて暴力的な点を探すならばここにも警備ロボがいたが、スプレー塗料で笑顔が書かれた上にリボンでオシャレをしていた。
あのロボットは軍事施設にも配備されており、有事の際には内蔵された銃器で発砲もするが俺たちに対して特にそういった行動をする事もなく、子供を肩車する様に頭の上にキャッキャとはしゃぐマタンゴさんを乗せかくれんぼに混ざっていった。
「結構ガッツリ暮らしてるなあ。誰もいなかったらお宝でも持って帰ろうって思ってたけど」
「リアン、のっけから警戒させる様な呟きは自重してくれ。でも危険なものはいなさそうだな」
俺は何度も周囲を確認したが危険な生き物はどこにもいなかった。
正確には鋭い牙を持った怪物の類はまあまあいたが、そのどれもが思い思いに寛ぎ危害を加える様子は一切無かったからだ。
もちろん刺激すれば先ほどのウーパの様に攻撃してくる可能性は十分にあるかもしれないが、そこさえ気を付ければ問題ないだろう。
それらの情報から総合的に判断し俺はここが安全な場所だと結論付ける。
急ぐ理由はもうないし、まれっちを待たせない程度にのんびり探索しながら情報を集めるとしよう。




