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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-97 リンドウの新たな夢

 ――聖智樹の視点から――


 もふもふ、もふもふ。


「ん、ぐぅ」


 強烈な重力によって幸運にも死の恐怖を感じる事無く意識を失った俺が、最初に感じたのはもふもふした感触だった。


 目を開くとそこには白いウサギがいて、俺の顔に身体を摺り寄せていた。だが身体を持ち起こすとウサギは驚いたのかタッタと逃げていき、廃墟の建物の中に消えていった。


「おーい、生きてるか」

「あ、ああ、なんとかな……」

「オイラ、オイラ生きてるでヤンス! 姐さん、うわーん!」

「ザキラちゃんも怪我はないポン?」

「自分も何とか。飛んで逃げる余裕もなかったです」


 不思議な事に痛みはない。大事故で四肢が欠損した際はよくある事だが、俺の身体にはかすり傷一つついていなかった。


 それは猛スピードで硬い地面に叩きつけられた状況を考えると極めて不自然だったんだ。


「いやー、見事にぶっ壊れたネェ。うん、ここまで派手に壊れると爽快ダネ、HAHAHA!」

「そうダネ、お母さん! エヘヘ!」

「わっはっはー、わっはっはー。びっくりしたけどたのしかったー」


 しかしそんな考えは底抜けに陽気なリンドウ親子とキノコによって吹き飛んでしまう。


「HAHAHA! じゃねーよ! テメェ殺す気かァ! 危うくスピリット的に天に昇る所だったわッ!」


 彼女たちは命の危機に瀕したというのにあまりにも能天気で反省の態度も見られず、死にかけたリアンはブチ切れてしまった。


「すみません、リアンさん。うちの母ちゃんはこういう人だから諦めてください。あと慣れてください」

「毎度毎度命の危機に遭ってたまるかよ……」


 だが彼女の怒りはアマビコの全てを悟った様な表情のせいで急速に冷めてしまう。おそらくこの人はこういう世界観の人であり、道理など一切通用しない類の人なのだろう。


「まれっち、俺達が無傷なのはどう解釈すればいいんだ?」

『うん、これはきっとどんな事をしても死なないギャグ補正的なアレだね。きっとさっきのウサギちゃんがギャグ補正の加護を授けたんだよ』

「ああそうかい。なら感謝しないとな」


 彼女の発言は流石に冗談だろうが、これは考えた所で永遠に答えは出ないし、考察した所で時間の無駄なのでやめておこう。


「俺はウサギに対してあまりいい想い出はないが、もし今度怪我をしたウサギを見つけたら助けてやるのもいいかもな」

『はは、お礼に好きな人との縁を結んでくれるかもね』


 まれっちは白兎伝説を引用した返しをし、乾いた笑いをした俺はおふざけを止め今置かれている状況を確認した。


 俺達が乗って来た気球は大破しており、これだけ損傷してしまえばパーツを回収した所で修理は不可能だ。


 火はバルーンやバスケットにも引火して炎上しているが、こうなっては消火しても意味はない。残った燃料に引火して爆発に巻き込まれるリスクを避けるためとっとと離れたほうがいいだろう。


 墜落地点は広いコンクリートの地面が延々と広がり、誘導線や照明の痕跡などから俺はここが空港であると判断した。


 また今まで見てきた廃墟とは違い滑走路はかなり手入れが行き届いており、すぐにでも使える程整備されていたのでこの場所はまだ現役なのだろう。


 先程ウサギが入っていった建物には崎陽空港のシンボルでもある黄金の鐘も取り付けられているし、ここはかつての世界で崎陽空港に相当する場所に違いない。


 ここに墜落したのは単なる偶然だろうが、たまたま落下した場所が空の乗り物が辿り着く場所とはなんとも不思議な話だ。


 世界初の海上空港である現実の崎陽空港と同じく周囲には海があり、ほんのわずかでも落下地点がずれていれば海の藻屑になっていたはずだ。


 だが厳密にはこの海は空中に浮かんでいる海なわけだが、これはどういう表現が適切なのだろうか。何にせよ最初の段階で死ぬ展開にならなかったのは僥倖と言える。


「地上に戻る方法はあるんだよな」

『うん、あるよ。俺っちの管理者権限が必要だけどね』


 俺は最も重要な事を聞き安堵する。このまま空の孤島に閉じ込められる、という展開には流石にならないだろうとは思っていたけど。


『さっきも言った通り迎撃システムがある以上敵さんはこの場所には絶対に攻めてこない。ここにはそこまで危険な生き物ももいないし、適当に移動手段を調達してのんびり観光しながら葉瀬帆に向かいな。マップ画面にマーカーを付けておくよ』


 説明を聞いている最中、マップ画面が強制的に開かれマーカーがつけられる。ここに向かえばいいのはわかるが、もしかしてこの場所は……?


『さて、後はどうとでもなるよね。俺っちは寄り道が出来る自由度の高いゲームのほうが好きだし、あんまあれこれ指示を出すのは嫌なんだよねぇ。んじゃちょっくら仕込みがあるからしばらく通話を切るよぉ』

「ああ、ありがとう」


 彼女は最後にそう伝えて通話を遮断する。この場所では深刻な問題は起きようがないだろうが、万が一不測の事態が発生しても助けを求められないし、しばらくはその事を留意しながら行動したほうが良さそうだ。


「だそうだ」

「ふう、良かったぜ。最悪アタシがひたすら空と地上を行ったり来たりして運ぶつもりだったが」


 そう言って苦笑したザキラはナチュラルに優しさの片鱗を見せる。彼女にはやはり慕われるだけの理由がちゃんとある様だ。


「でも気球壊れちゃったでヤンスね……一生懸命作ったのに」

「ああ、見事に壊れちゃったネェ」


 今後の安全が確保された事で精神的な余裕が出来、サスケは寂しそうに気球の残骸を見つめた。


 確かに気球は天空の世界に辿り着く事は出来たが、このクオリティではとてもノーザンホークに行けるはずもない。せいぜい途中で壊れるのが関の山だろう。


「うん、いい所まで行ったケド、やっぱり気球でノーザンホークに行くのは難しいネ」

「リンドウさん」


 そしてリンドウさんは素敵な笑顔で言い切り、自らの夢を全否定する発言に誰もが困惑する。だが、


「だけどデータは十分過ぎるくらい集まっタ。元々移動手段に気球を採用したのは作るのが簡単だったからっていうのも理由ダガ、ここならいくらでも最高のパーツが見つかるだろうサ。それだけじゃない、失われた神代の知識もネ。気球で空を飛ぶって夢は叶ったカラアタシは次の夢に挑戦スル。今度は伝説のアンジョの遺産、飛行機を作ってみるヨ! アタシは飛行機に乗ってノーザンホークに行って、この世界を端から端まで飛び回るのサ!」


 彼女は無論夢を諦める事無くさらなる挑戦を決意した。リンドウさんは夢の果てに辿り着き、さらなる大志を抱き高みを目指して飛んでいったのだ。


「まったく、まあわかってましたけどね」

「もう、お母さんっタラ! 私はずっとついて行くヨ!」

「母ちゃんにはかなわないなあ。でも……僕も夢を見てみようかな」


 リンドウさんを気にかけるなんてそんな事は最初から必要なかった。強い信念を持った彼女は間違いなく世界を変える偉人となるだろう。


 元より現代の技術を応用して気球に用いる程度の才能も持っていたし、きっと彼女ならばそう遠くないうちに新たな夢を実現出来るに違いない。


「やっぱりあんたは最高の馬鹿だ! さあ、そうと決まれば探検だな! 言っとくが見つけたものは早い者勝ちだからな!」

「ああ、じゃ行くヨ!」

「ぽてちてぽてちてー!」

「ふふっ、じゃあ俺達も行くか」

「はい、トモキさん!」


 リアンとリンドウさんは空港の施設目掛けて突撃、マタンゴさんも楽しそうにぽてちてと駆け出していった。


 俺はニイノと顔を満足げに見合わせ、負けじと夢に向かう彼女を追いかけていったんだ。

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