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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-94 気球は夢を乗せて飛んでいく

「じゃ、早速膨らませるカ! トモキたちも手伝ってクレ!」

「あ、はい!」

「おう!」


 リンドウさんはまずバルーンを膨らませる作業に入った。


 高速回転する巨大な送風機でバルーンに空気を送って膨らませる様だが、上手く穴が開いている部分に空気を送り、急速に膨らむバルーンが変な動きをしない様にロープを掴んでコントロールする必要がある様だ。


 当然複数人が同時に作業をしなければならないので、俺達も必然的に手伝いに駆り出されてしまう。


 バルーンは次第に大きくなっていったが、おそらく最初の飛行実験ではリンドウさんだけでこの大変な作業を行っていたのだろう。そりゃ墜落するわけだ。


「母ちゃん、僕は何をすればいいの?」

「うし、俺らも手伝うヨ」

「ぼくもー!」


 またアマビコやご近所さんも頼まれる前から自発的に手伝いを申し出た。


「あんたたち……ああ、頼むヨ!」


 リンドウさんはかなり驚いていたが、すぐに最高の笑顔になってその申し出を快く受け入れた。


「んしょ、んしょっ、やーん」


 マタンゴさんは膨らむバルーンに翻弄されコロコロと転がっていたが癒しにはなる。


 俺は必死でバルーンの開口部を抑え、送風機が送り出す魂の息吹で膨らんでいく様を間近で見続けた。


 もちろんこんなものは室内でする作業ではなく、気球は室内に収まるか収まらないかの大きさまで膨み、ある程度の大きさになると巨大過ぎてちゃんと膨らんでいるのかどうかわかりにくくなってしまった。


 加えてこれが正しいやり方なのかはわからなかったので、俺は上手くいくのか不安になってしまったのだ。


「なかなか大きくならないな! これやり方合ってるのか!?」

「ちゃんと合ってル! こっちは今まで何度も気球を飛ばしてきたカラナ! 一気に膨らむからしっかり抑えるんダ! だが最後の点火する作業に失敗したら目も当てられない事になるから気を付けロ!」


 リアンは送風機に負けない声音で質問し、気球禁止のお触れが出る前に気球を飛ばした経験がある老人ディーパは的確な指示を出した。


 すると彼の指示通りバルーンは急速に膨らみ、リンドウさんはタイミングを見計らって素早くガスバーナーに火をつける。


「「おおー!」」

「ヤッタゾー!」

『うむ、むくむくと大きくなって天にそそり立つ立派なバルーンが立ち上がったねぇ』

「まだそのネタを引っ張るのか。けどこれで!」

『ああ、もう何も問題はない。さあ智樹ちゃん、妨害工作はあるだろうけど俺っちが何とかするから気にせずこっちまで来るんだ』


 そしてバルーンは無事に膨らみ、歓声と共に工房の屋根から飛び出して一足先に空に浮かんだ。


 まれっちは最後に余計な一言を付け加えたが、ともあれこれでいよいよ空を飛ぶ準備は整った。後は重りを外し飛ばすだけだ!


「ヤレヤレ、久しぶりだったが上手くいったヨ。でもよかったナ、リンドウ」

「不安っちゃあ不安だけどサ、ここまでされたらかなわないナ……行ってコイ!」

「ああ、散々迷惑をかけたのニ皆もありがとネ!」


 最初は彼女の事を思って妨害工作をしたご近所さんもとうとう根負けして彼女を祝福し、リンドウさんは早速嬉々としてバスケットに乗り込み、中で細かい調整を始める。


「何ボサっと見てるんダ、トモキたちも早く乗りナ!」

「はい! じゃ行くか!」

「うしっ、サスケも覚悟は決めたよな!」

「もうどうにでもなれでヤンスー!」

「アタシも一応乗るか。飛べるけど。ほいモリンさん」

「どうもですポ、よいしょっ」


 俺たちも同じ様にバスケットの中に入り、一頭身ボディで身長的に乗るのが難しかったモリンさんはザキラに両手で掴まれ搭乗する。


「じゃ、うちモー!」

「ぼくものせてー!」

「どうしたんだ、アマビコ。そんなに仲間になりたそうな目でじっと見つめて」


 後は他のゲストメンバーだけど、ニイノとマタンゴさんはともかくアマビコまでもがこちらを見つめている。


 それは心配の眼差しとは何となく違う気がしたので、察した俺は彼に何がしたいのか尋ねた。


「いえ、その……僕も気球に乗りたいなって」

「なんだい、そんな事カイ。じゃあお前もさっさと乗りナ!」

「え、でも」


 アマビコはリンドウさんの夢を阻止するために妨害工作を行った。


 それが母親を護るためとはいえ、やはり自分には一緒に夢を見る資格がないのではないか、ひょっとしたらそんな事を思っているのかもしれない。彼はリンドウさんが許可を出してもなお気球に乗る事を躊躇っている様に見えた。


「ごちゃごちゃ抜かすな、さっさと乗らないと燃料がもったいないヨ!」

「う、うん!」


 ただ肝っ玉母さんの彼女はもちろんそんな事を一切気にしておらず、アマビコは明るい表情になりその選択を選んだ。


 そして協力者も含めて全員が気球に乗って、いよいよその時が訪れた。


「それじゃあ、ちょっくら夢を叶えに行ってくるヨ!」

「おう、行ってコイ!」


 リンドウさんの手によって気球を大地に縛り付けていた重りが外され、彼女は満面の笑顔で大手を振ってご近所さんに別れを告げる。


「おっとっと!」

「おわっ、大丈夫か?」

「ああ、ありがと!」


 バスケットはふわりと揺れ、未知の感覚にリアンはよろめき俺にもたれかかった。


 彼女は全く意識していないのだろうが吊り橋効果もあって滅茶苦茶ドキドキしちまったよ。ったく、鼻がムズ痒くなる良いニオイしてやがるぜ。


「こいつはたまげたナア。まさか本当に空を飛ぶとハ。やっぱあんま最近の若い奴を舐めちゃいけないナ。夢を見て挑戦する奴にはどうやっても勝てねぇよナァ」


 ようやく邪魔者の後片付けを終え工房に戻って来たヒョウスベさんも空を見上げ、無謀だと言い続けた夢が今まさに現実となった瞬間を目の当たりにして脱帽する。


「ヒョウスベさーん! ありがとうネェ! おかげで気球を無事に飛ばせたヨ!」

「おう、こんな姿を見せられちゃ叶わないナ。もう失うものはそんなにナイシ、俺もたまには年甲斐もなく挑戦してみようかネェ」


 だがそこに悔しさは一切無く、再び夢を見れた事に対する純粋な喜びの感情しか感じられなかった。


 リンドウさんもまた感謝の念しか抱いておらず、自らの夢を叶えるための試練となり立ちはだかり、最後には味方になってくれた心優しいご近所さんに手を振ってお礼の言葉を伝えていたんだ。


「ならもう一度バルーンフェスタを復活させるってのはどうカシラ? やっぱり私ももう一度空一面に広がるあの気球の群れを見たいワ」

「そりゃいいナ。ヨシ、お偉いさんと相談シテ上手い具合に抜け道を探ってみるカ。元々ビンキチを名指しにしたようなお触れだったシ」

「はは、案外あいつのせいだったのカモナ。でも確かにあいつの気球は凄かったからナア。俺もやっぱりもう一度空を飛んでみたくナッタヨ」


 ヒョウスベさんは早速ご近所さんと一緒に今後の事について話し合っていた。


 ちなみに禁忌を破りかねない技術を持ったビンキチさんとリンドウさんのせいで気球の飛行は禁止になったので、その冗談は実の所真実なのだがそれについては胸に秘めて内緒にしておくべきだろう。


「なあまれっち、あんな事言ってるが大丈夫なのか?」

『ほどほどに楽しむ分には何も問題はないだろうねぇ。現にリンドウは忠告を受けても今まで殺されなかったじゃないか。俺っちが支配者なら二度と気球が作れない様工房も含めて跡形もなく壊しているけど連中はそうしなかった。その事からわかるように実際お触れはなあなあで厳格じゃなんだよ。世界を変える技術を持った奴なんて百年に一度現れるか現れないかだし』

「かもしれないけど連中以外の存在がいたじゃないか。本来住む世界が違ってここにいるはずがないNAROはどうしてここにいたんだ」


 俺は彼らの楽しげな様子を見ても手放しでは喜べなかったのでまれっちに問い質した。


 何故ならば今回の騒動では明らかに異質な存在、NAROが紛れ込んでいたのだから。


 管理者権限を持った俺の存在やリンドウさん、お尋ね者のリアンとサスケに、権力者との結婚を拒否した破戒僧のザキラ等狙われる人物に心当たりはあるが、それはどれも異世界の人間にとって都合が悪い存在ばかりで、仮に災いをもたらしたとしても何ら関係はないはずだ。なのに何故――?


『そりゃこっちの世界と現実世界の支配者は仲良しだからだよ。というよりもお互いの目的のために協力関係にあるって感じかな。だから必要に応じてそれぞれの世界での活動をある程度は認めているのさ』

「……つまり今回のターゲットは俺だと? どうしてだ」

『それは――おっと、噂をすれば早速だ』

「ッ!?」


 悲しいかな、彼女と真面目な会話をしていると考察する間もなく市街地のあちこちからNAROの飛行ロボット兵器が出現してしまう。


 どれもこれも先ほどの出番もなく破壊された機神兵程ではないが、秘蔵の最新鋭の兵器ばかりだ。


 無論あんなものに気球が襲われてはひとたまりもない。ロボット兵器は全てまれっちが動かない様にしていたのに何故だ!?


『安心しな。全部シナリオ通りだよ』

「え」


 しかしその時まれっちがそう告げた。その言葉は俺を安心させるためだったのかもしれないが、それは人間の物とは思えないほど極めて冷たい声だった。


 そしていつか見た世界の終わりを告げる白い光が世界を照らし――空から降り注いだインドラの矢を想起させる数本の光の筋は飛行兵器に命中、兵器がいた場所にはクレーターが出来、全てが跡形もなく消滅してしまったのだ。


「ん? なんかすっげぇ事が起こった気がするけど今何が起こったんだ!?」

『俺っちが敵をやっつけてあげたんだよ。気にしないでねぇ』

「そっかー」

「いやそっかー、って。まあいいけど」

「ありがとうございマス?」


 それは一秒にも満たないほんの一瞬の出来事であり、言葉を交わしたリアンとザキラも含め全員何が起こったのか理解出来ていない様子で、ニイノに至っては飛行兵器の出現にも気が付かなかった様だ。


「こんな事が出来るなら最初から使って欲しかったな」


 余計な不安を与えなかったという点では有難かったが、俺はその圧倒的な暴力にひどく恐怖してしまった。


『君は核保有国に最初から核兵器を使えっていうのかい? これは禁じ手なんだよ。この力は世界の秩序を壊す力だからね』

「……まさかッ!?」

『あ、ごめん、これは別に核由来の力じゃないから安心して。普通のすっげぇ威力のビームさ』

「そ、そうか」


 まれっちは誤解を招きかねない発言をしたので血の気が引いてしまったが、彼女はすぐに発言を修正し俺を安心させる。


 核兵器じゃないから全く問題ない、というものでもないがそういう事ならまだ多少は受け入れられるだろう。


『ただすぐにでも首脳会談が開かれるだろう。教会も天罰が行使されたと大騒ぎするはずだ。俺っちはあえてロボット兵器を動けるようにして、立場をわからせるため禁断の力を連中に見せつけたんだよ。智樹ちゃんや知り合いに迂闊に手を出せば簡単に滅ぼされるって誰もが理解をしたはずだ。今後は多少目立つ行動をしても大丈夫だろうね』

「あまりいい気はしないが……仕方ないか」


 核ミサイルで人生を奪われ、長崎で育った俺からすれば彼女の行動は受け入れがたかったが、圧倒的な武力によって助けられたという事実は認めなければならないだろう。


 もしもこんな技術が現代に存在すれば世界は滅んでしまう。この力を行使したのがまれっちだというのならば、その気になれば彼女は世界をすぐにでも消し去る事が出来るのだとたった今証明したのだ。


『ええと、どこまで話したっけ?』

「いや、もういいよ」


 話の途中で腰を折られたが大体の事情は察してしまった。


 そりゃこんな兵器があればNAROも異世界からはるばる来るわけだな……他に理由はあるかもしれないけど、俺はそう思う事にしたんだ。

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