表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/217

1-88 母の夢を護り抜くために

 ……いいや、それも違うかな。


「これならどうだー! ぽふぽふ!」

「おっとっと」


 飛び起きたマタンゴさんはムキになってキノコ胞子をまき散らし、ヒョウスベさんは攻撃のモーションを確認してすぐに距離を取った。


 彼のキノコ胞子は練度が低いとはいえ素人よりも強い兵士ディーパを骨抜きにしたくらいだし、ヒョウスベさんも極力食らいたくないのだろう。たとえどのような剣豪であろうと形のない攻撃には抗う術などないのだから。


 出が遅い上にリーチが極めて短いので普通にやっても命中させる事はまず不可能だが、彼のキノコ胞子もサイコジャック同様食らえば一発で戦闘不能になるはずだ。


 トラップとして使えば有用だし、マタンゴさんもちゃんと戦力と考えるべきだな。


「行くぞ、ニイノ」

「ハイ! お母さんの夢を一緒に護って下サイ!」


 全ての状況を確認した所で俺は再度ヒョウスベさんに狙いを定める。


 これは言わばチュートリアルで命のやり取りは存在しない。訓練通りにいつも通りの力を発揮出来れば何も問題ないのだ。


「目つきが変わったナァ。兄チャンにはちょいと本気を出しても良さそうダ」


 問題はヒョウスベさんもどこか楽しそうな表情に変わってしまった事か。こういう世界観だし、武人として強者との戦いはやっぱり心が躍るのだろうか。


「きゃー」

「おわッ!?」


 彼はよちよちと近付くマタンゴさんを吹き飛ばし高速で突進、俺だけを狙って薙ぎ払い攻撃を放った。


 先程と同じ強烈な一撃なのに攻撃範囲が広く、怒涛の連続攻撃に俺は何度も同田貫を落としそうになってしまう。


「トモキさんッ!」


 ニイノも釣竿ランスで突いて応戦してくれるが攻撃は全く当たらず、ヒョウスベさんは難なく回避しながら俺だけを攻撃する。


 彼女も決して弱くはなくむしろモブ民兵よりも強いくらいだが、見事なまでのアウトオブ眼中だ。


「俺の事は気にするなッ! ニイノ、マタンゴさんを釣り上げろッ! あとはわかるなッ!」

「成程、そういう事デスカ!」


 短い付き合いだったがニイノは俺の言いたい事を即座に理解し、巧みな竿捌きでガラクタの山に埋まってしまったマタンゴさんに釣り針を引っ掛け救出――、


「ていやーッ!」

「ぴゃー」


 した後さらに竿を動かし、フレイルの様にヒョウスベさんにぶつけようとしたのだ!


「いやそうじゃなくて!? ってかそれ君の友達!?」

「ある人は言いマシタ、友は人生において最高の武器になるトッ! マタンゴさんは最高の武器デスッ!」

「多分その人もそういう物理的なニュアンスで言ったんじゃないと思うよ!?」

「わーい!」

「……まあ楽しそうだからいっか」


 彼女は躊躇なく可愛らしい友達をブンブン振り回してヒョウスベさんを攻撃、竿は予測出来ない動きをしていたので彼も回避に少し苦労していた。


 人としてどうかと思うけど攻撃手段としてはこの上なく最良だし、マタンゴさんもむしろキャッキャと楽し気にはしゃいでいるのでいいのかな。


「ふむ、これなら足の遅いマタンゴさんでも素早く自由に動かせるワケカ。よく考えたじゃネェカ。外道にも程があるがナ」

「俺が考案したわけじゃないんですけどね」


 その攻撃の有益性はヒョウスベさんも感心していたけど、一番の利点は動きが制限され防戦一方からある程度反撃出来るようになった事だろうか。


 だがあくまでも守りを重視し、俺は欲をかかず慎重に立ち回る事を選んだ。


「へっぴり腰ダナア。攻撃は最大の防御って言うダロ。それなりに腕があるのにそんな戦い方じゃもったいナイ」

「防御も工夫次第では立派な攻撃になりますよ。相手が守りに入っている場合、気合だけで思惑通り無意味な攻撃をしても疲れるだけです。練習試合ならいいですが、実際の戦いなら根性論者は真っ先に死にますからね」


 攻撃は最大の防御、その言葉にどれだけの人間が惑わされ命を落としたのだろう。


 確かにそういう見方も出来るがその戦法には反撃を食らってあっさり死ぬリスクも存在し、生き残る事を最優先事項に決めている俺からすればなるべく選びたくない戦い方だった。


 俺は会話をしながらひたすら守りに徹して反撃の隙を伺った。


 彼の戦い方はどちらかといえば攻撃を優先させる側で、最初は余裕がなかった俺も順応し、次第に素早い動きにも目が慣れてきて相手の行動パターンの解析が進んでいく。


 本来武器ではない櫂はリーチが長いものの隙が大きく、強引に高い身体能力でカバーしていたが手加減している事もありかなり戦いにくそうだ。


 本気を出されていたら勝ち目はなかったが、もう少し動きを解析して上手くタイミングが合えば……。


「そうカア。俺は実際の戦いでも攻撃を優先するタイプだったガナ。今でこそ田舎の民兵の隊長をやっているガ、若い頃はセトナイ諸島のほうで水軍をやってイテ、水神だの海賊王だのって呼ばれてそれなりに名前も知られてたんだゾ」

「ああ、やっぱりあなたはプロだったんですか」


 ヒョウスベさんは語り掛けながらも攻撃の手を緩める事は無かった。


 年寄りならばもう少し息切れとかして欲しいものだが、引退したとはいえ従軍経験のあるプロなのでそんなみっともない姿を晒すわけなんかないのだろう。


「まあ元だがナ。民兵つっても形だけでほとんど武器を握った事もナイ連中ばかりダシ、活動つってもジジババが家の中でポックリいってないか見回りをしタリ、災害が起こった時に救助をするくらいダ。だが俺からすればそっちの方がよかっタ」

「というと」

「俺は昔カザンマでしがない薬売りをやっていたガ、その日暮らしの生活から抜け出すために金が稼げる水軍になっテ、死に物狂いでそれなりの地位まで上り詰めて金も十分に手に入れタ。だが水軍もいつまでも続けられる仕事じゃネェ。老いた老兵に待ち受けているのは引退か死だけダ」


 それは俺達の世界でもよく聞く話だった。うちの学校の生徒にも経済的な理由でその道を選んだ人間が数多く存在する。


 命はお金では買えないが、結局必要最低限のお金がないと命も人生も失ってしまうのだ。


「俺も昔はヨボヨボのジジイになって静かに死ぬくらいなら戦場で華々しく散る事が本望だと思っていたガ……金や名誉よりも大切なものを見つけちまったからナア。だから俺はスッパリ現役を引退シテ、戦争がない田舎でのんびり孫に囲まれて、気の合うダチと一緒に釣りをしながら余生を過ごしているわけダ」

「ふふ、なんとも羨ましい生き方です。最高の人生にも程がありますね」

「ああ、全くダ。この年になったら金なんていくら持ってても仕方ナイ。金も名誉もあの世には持っていけないノニ、なんで皆必死になってそんなモンに執着するのカネェ。結局家族や仲間に囲まれて静かに死ぬのが一番幸せな人生なんだヨ」


 彼が嬉しそうに語った自らの過去は大いに共感出来、俺も叶うのならそういう素敵な人生を送りたいと思ってしまった。


「俺にとって一番大事なのは家族や仲間ダ。それは夢よりも大事じゃナイ。リンドウの破天荒な生き方は昔の俺なら大賛成だったガ今は違ウ。本気でやってる分にはまだいいガ、惰性と現実逃避でやっている夢は夢じゃナイ、ただの痛い奴の妄想ダ。そしてその事に気付いた時には全部失っているものサ」


 かつて夢を追っていたヒョウスベさんも、いろいろ考えた末にその答えに辿り着いたのならそれは彼にとっては真実なのだろう。


 確かに惰性で夢を追いかけている人はどこの世界でも一定数いるし、ある意味では普遍の真実なのかもしれない。


「現実逃避なんかじゃないデスッ! お母さんの想いは本物デスッ! お母さんは本気で夢を叶えようとしているんデスッ! どれだけ馬鹿にされても、どれだけ大変でも、一度たりとも空を飛ぶ事を諦めずに夢を叶える事だけを考えて生きてきたんデスッ! ヒョウスベさんはお母さんの何を見てきたっていうんデスカッ! 何も知らないくせに偉そうな事を言わないで下サイッ!」

「とおー!」


 だがその主張は前提が間違っていた。リンドウさんに関しては現状に満足した上で本気で夢を叶えようとしていたのだ。


 母親の想いを馬鹿にされたニイノは声を荒げて釣竿ランスを振り回し、頭上からクロスチョップの構えをしたマタンゴさんを勢いよく叩きつけた。


 ……うん、結構感動的なシーンのはずなのになんか気が抜けてしまうなあ。キノコ虐待で怒られやしないだろうか。


「……っ」


 民兵の救護活動をしていたアマビコはその言葉に思う所があったらしく、一瞬動きを止めてしまった。


 母親が本気である事は間近でずっと見てきた彼も、もちろん理解はしていたのだろう。


「そうだナ、すまネェ。言葉足らずだっタ。だけど本気ならなおの事止めなくちゃいけねぇんダヨ!」

「ッ!」


 その思いに呼応してヒョウスベさんは最後に本気の一撃を放ったが、それは強力でも荒々しく大きな隙があるものだった。


「おりゃあッ!」


 動きも十分に見切った、この攻撃ならば余裕で反撃出来る! 俺はすかさず踏み込んでがら空きの腕に逆袈裟斬りの一太刀を浴びせた!


「ぐッ!」


 ヒョウスベさんの腕に麻痺攻撃がクリーンヒットし、回転しながら宙に飛んだ櫂は弧を描きスクラップの山に突き刺さる。


 けれどのけぞった彼は腕をさすりながら痛がってはいたものの、かすかに笑みを浮かべていたんだ。


「流石だな、兄チャン」

「何言ってるんですか、あからさまに手を抜いていたでしょう」


 俺はすぐに最後の一撃が本気でなかった事に気付いていた。


 正確にはあえて簡単に反撃出来る攻撃をしたのだが、俺の実力に合わせてヒョウスベさんは自分が負ける様に仕向けたのだ。


 動きを見切ったなんて馬鹿な事を思ってしまったものだ。彼は最初から俺の実力に合わせて戦いヒントを与え、本気かどうか俺たちの想いを確認した後ほどほどの所で負ける様に立ち回っていただけなんだ。


 うーん、試合に勝って勝負に負けたと言うべきか。でも結構楽しい試合だったし、これはこれで良かったかな。


「ヒョウスベさんがやられタ!? そんな、あの人は天下のイムシマ水軍の隊長をしてた人だゾッ!?」

「海賊王ヒョウスベさんを倒すなんテ、あいつ何者ダ!?」


 ただほかのディーパたちにはその辺りの事情は分かるわけもなく、リーダーが敗北したという結果によって一気に戦意を喪失してしまい瓦解してしまう。


 まだ動ける奴もいるが見るからにビビッて腰が引けているし、実質ミッションクリアと解釈していいだろう。


「やりマシタ! やりマシタヨー! あなたは最高のお友達デス!」

「わーいわーい!」


 ともあれ勝利した事は事実に変わりなく、レジェンドを倒すという大金星にニイノは親友のマタンゴさんと手を取り合って小躍りして大はしゃぎした。


 思いっきりその友達を振り回して武器にしていた気もするけど、それについては何も言わないでおこう。


「……やっぱりこれで良かったのかな。ほら、じっとしていてください」

「イテテ、ヒレが折れるッテ」


 負傷兵の救護をしていたアマビコはまだ葛藤があった様だが素直に敗北を受け入れる。


 彼もまた本心ではリンドウさんが夢を叶える事を望んでいたのだろうし、むしろ清々しさすら感じられそこまで悔しがっている様子はなかった。


「はっ! 敵はどこだ!」

「もう終わりましたポ。リアンちゃんはともかくサスケちゃんは大丈夫ですポ?」

「うえーん、痛かったでヤンスー!」

「よしよし、痛いの痛いの飛んでいけー」


 一方気絶していたリアンとサスケも復帰、キョロキョロと周囲を見渡したがもちろん敵はもうどこにもおらず、モリンさんは怪我をした子供を慰める様にあやしていた。


「誰かオレにももうちょっと優しくしてくれるかな? ザキ姉って回復魔法……」

「使えねーよ。ツバでもつけとけ」

「回復弾ならあるぞ。撃つ場所はケツでいいよな」

「Oh!? オイコラいきなり人のケツにタマを突っ込むな!」

「誤解を招く言い回しをするんじゃない」


 俺はリアンの尻を撃ち友人として最低限の優しさを与えるも、それはさながら獣医が猫のケツに注射をする光景と酷似していた。


 もっともそれは昔の話で、現代での猫への正しい注射部位ははしっぽか後ろ足が推奨されているけど。


「ほら、サスケも俺のタマが欲しいよな。さっさとケツを出せ」

「え? アッーーー! これ……なんだか癖になるでヤンス~!」

「お前もわざとやってるだろ」


 ついでにサスケにも治療を施し、味方の回復は完了する。


 なおこれはあくまでも医療行為であり、やましいものは一切無いのでご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ