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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-87 VS 海賊王と呼ばれた老兵 ヒョウスベ

 俺は老将の様な隙の無い構えで即座に彼が手練れであると理解する。どうやら遅れてしまったが真打が来てしまったらしい。


「すまねぇナァ、ビンキチ。けどお前に似て大馬鹿者ふうけもんのカミさんを止めるにはこうするしかないんダ」

「ヒョウスベさんっ!」


 ニイノもまた彼の実力を知っていたのか即座に最大限の警戒をした。


 ビンキチって行方不明になったニイノの父親の名前だっけ。やり取りから察するにどうやらこのおじいちゃんとリンドウ一家は家族ぐるみで交流があったのだと推測出来る。


「恨んでくれても構わネェ。一応死なない程度に手加減してヤルが、アンジョさんも死なない様に頑張ってクレ。人間はすぐ死ぬし、殺したらややこしくなるからあんまり戦いたくないんだよナア」


 彼はイナエカロを訪れた時に気球に関する情報提供をし、飛行実験に失敗して墜落した時にも真っ先に駆け付けてくれた。


 おそらく彼はご近所さんの中で最も強いだけでなく、最もリンドウさんの事を気にかけているのだろう。だからこそ残酷であるとわかっていながら彼女の命を護る為に夢を奪う選択をしたのだ。


「望むところです。痛いのには慣れていますから」


 全く、こんな男気のある人と戦うのが楽しくないわけがない。ここは思う存分胸を借りさせてもらうとしよう。俺は戦争は大嫌いだが、こういう熱い戦いは大好物だからな。


「ソウカ。骨の一本や二本は我慢してくれヨ?」


 ヒョウスベさんは他の仲間には目もくれず俺だけを真っすぐ見据えていた。歴戦の猛者である彼は俺が最大の脅威であると即座に判断したらしい。


 ――いや、正確には俺だけが脅威にしかならないと判断したと言うべきか。


「隙ありッ! その首貰ったでヤンスッ!」

「悪い、オレが先だッ! 手柄は姉貴分に譲れってのッ!」

「馬鹿よせッ!?」


 その事を理解していないサスケとリアンは大将首を狙いヒョウスベさんに背後から襲い掛かる。だがザキラだけは彼の強さを見抜いており、それがいかに愚かな行為であるのかわかっていた様だ。


「ぐべぇ!?」

「げひー!?」


 彼は背を向けたまま強烈な一撃を寸分の狂いもなく人体の急所である鳩尾に放ち、予想通り二人は為すすべもなく最小限の動きで撃墜されてしまう。


 またどちらも昏倒はしているが死んではいない様なので、程々に手を抜く程度の技術もあるらしい。


 ちなみに一撃と言ったがこれは正確ではない。


 彼は人間の目で見えない速度で二連撃をぶっ放したのだ。しかもそれをノールックでやるとは化け物にも程がある。


 噛ませ犬役を見事に果たしてくれた二人には後で回復弾を撃っておけばいいので無視しよう。どうせ復活させたところでまた秒殺されるオチが目に見えてるし。


「さて、コバエがいなくなったところで……兄チャン、別にどんな手段でかかって来てもいいんダガ、出来ればその立派な刀でかかって来てくれネェカナ。銃だと手加減が難しいシ」

「そうですか、わかりましたなんて言うと思ったかヒィヤッハァ!」


 ヒョウスベさんは気を取り直して再度話しかけ、刀で戦う様に要求したので俺はもちろん銃口を向ける。


 それはまるで西部劇の決闘で約束を破った悪役ガンマンの様だったが、俺が悪ノリしてそう叫んだ瞬間彼は一瞬で俺の前に移動していた。


「兄チャンおもろい事しよんなァ。ワラスボみたいな顔にしたろカ?」

「ですよね! ダメもとで試しただけですのでそんなに怒らないでください!」


 ただこうなる事は十分に予想出来ていたので、俺はすぐに同田貫を抜刀して攻撃を受け止め後方に下がる。


 しかしわかってはいたが滅茶苦茶重い一撃だ。流石に刀を落とす事は無かったがあまりの衝撃に腕が痺れてしまい、何度もチャンバラごっこを繰り返していたらいずれ負担に耐え切れず手が使い物にならなくなってしまうだろう。


 また剣道は竹刀と防具で安全が確保されているが、生身の肉体にこんな強烈な一撃が打ち込まれたらそれだけで命取りだ。


 相手も手加減してくれているので死ぬ事は無いだろうが、死ぬ事は無くとも骨が砕ける程度の大怪我をするのは間違いなく、どこに食らったとしても一発で戦闘不能になると思ったほうがいい。


 ただ一撃で戦闘不能になるのはこちらからの攻撃も同じだ。


 生身の肉体に強烈な電気ショックを与えたら剣豪のヒョウスベさんでも無事では済まないだろう。それに俺には切り札がもう一つある。


「ん」


 だがサイコジャックを発動しようと目を合わせた瞬間、彼は素早く移動して視界の外に逃げてしまう。


「魔眼カ? アンジョなのに珍しいナ」


 彼にはこの力が何なのかはわかってはいない様だったが、わざわざ回避行動をとったという事は絶対に食らってはいけない危険な攻撃であると認識している様だ。


 サイコジャックで精神を乗っ取る事は不可能でも、これを上手く使えば相手の動きをコントロールする事が出来るだろう。


「トモキさん、加勢しマス!」

「まけないぞー!」


 ついでにニイノとマタンゴさんも参戦し、ヒョウスベさんはあからさまに嫌そうな顔になる。


 何故ならば彼は相手の強さに合わせて手加減をしているので、大怪我をさせない様さらに攻撃の手を緩めなければいけなくなったからだ。


「うりゃりゃりゃりゃー!」

「ったく、こんな事ならガキの頃に甘やかさずにちゃんと叱っとけば良かったナァ」


 優しいご近所さんの彼は不利になる事を承知で極限まで実力をセーブし、必殺ぐるぐるパンチを発動したマタンゴさんの頭を櫂で押さえつけ、


「やーん」


 気の済むまでぐるぐるさせてあげた所で小突いて優しく転倒させる。こちらの威力は先ほどとは違いデコピン程度だろうか。


 それもそのはず、子供に対して全力を出す格闘家がいない様に、誇り高い武人である彼が全力を出すわけがないのだ。


 我ながら卑怯であるとは思うが今は彼女たちの弱さこそが武器になる。


 戦力としては確かに微妙ではあるものの、二人と協力すれば必ず勝機はあるはずだ。

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