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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-86 VSイナエカロ民兵

 黙想をしながら精神を集中させ、時間が経つほどに五感は研ぎ澄まされ人間が発揮出来る限界の値へと変化していく。


 目を閉じていても音と嗅覚だけで世界の全てがわかる。工具によって奏でられる轟音は振動となって心臓を揺らし、俺の闘志を高ぶらせた。


 リンドウさんは鉄板を組み立てただけの粗末な溶接面を被り、骨董品にも程がある大昔の機械を用いて朽ち果てた機械に再び命を吹き込んでいく。


 彼女の魂を燃料にして錆びついたガラクタは目を焼くほどの強烈な光を放ち、ガラクタたちもまた激しく火花を飛び散らせながら空を飛びたいと渇望している様に見えた。


 夢を見る権利は誰にでもあるが時間は有限であり、チャンスは平等ではない。彼女が寂しげに語った言葉は俺にとって決して他人事ではなかった。


 いつか自分の手で物語を書いてみたい――そんな思いを漠然と抱きながらも、俺もまた勇気を出さなかった結果夢を叶える機会を逃し、ささやかな夢は始まる事もなく霞となり消え去ってしまったのだ。


 もしも異なる行動をとっていれば別の未来があったのだろうか。


 不貞腐れて頑張ってもどうせ叶うわけがないと言い訳をし、あるいはあの時頑張っていれば夢を叶えられたかもしれないという希望を抱く事も確かに幸せかもしれない。


 だけど最後のチャンスに死力を尽くし、今まさに夢を叶えようと瞳をギラつかせているリンドウさんはそんな言葉を一瞬で吹き飛ばす程に神々しかった。


 俺はその尊く気高い魂を見て、本気で夢を見ている人はどんな境遇の人間であろうとその瞬間だけは神になれるのだと理解してしまったんだ。


 気球の飛行を阻止しようと行動していた町の住民と兵士たちもまたようやく覚悟が決まったのか工房の近くに集結し、武器を持って今にも突入しようとしていた。


 彼らもリンドウさんの無謀な挑戦を止めようとしているだけで決して悪気があるわけではないのだろうが、申し訳ないがそれは無粋極まりなく余計なお世話というものである。


 頃合いだな。俺は小さな勇者のメモリカの力を宿したM9を携え、リンドウさんが命に代えても叶えたいと願う夢を護る為に立ち上がる。


「さて、夢を叶えるために前夜祭を始めようか」

「おうよ! 行くぜ相棒」

「了解でヤンス!」

「さあ、楽しい喧嘩をしようぜッ!」


 リアンたちも既に準備は万端であり、それぞれの得物を構えて戦闘態勢に入った。


 今から始まるのは殺し合いではないのでこの戦いに関しては何の心配もないだろう。少なくとも最初の戦いは、だが。


「私は後ろに下がってますポ!」

「ぼくもがんばるー!」

「うちも戦わせてくだサイ! こう見えてもそれなりに武芸は嗜んでいますカラ!」


 非戦闘員のモリンさんは当然の判断だが、マタンゴさんとニイノも戦うのか。だが怪我はしたとしても相手は命までは取らないだろうしあまり気にしないでおこう。


「ああ、よろしく頼むヨ! アタシは気球を急いで完成させル、それまで時間を稼いでクレ!」


 リンドウさんは全てを俺たちに託し気球作りに専念する。こんなに頼られちゃだらしない姿は見せられないな。


『後の事を考えればこの戦いに時間はかけられない。ガチ勢が来る前に一気に片を付けるんだ』

「ああ、皆も頼む! サスケ、ザキラッ!」

「わかってるでヤンス! 風魔の刃、ヒューザッ!」

「おうよ! 血肉を貪り食らえ、アイスクロウッ!」


 まれっちは手短に為すべき事を伝え、俺は兵士が扉を蹴破って突入すると同時にM9の引き金を引き、サスケとザキラの魔法攻撃も炸裂する。


 敵は反撃されるなんて思ってもいなかったのか睡眠弾をもろに食らって全員が即座に眠りに落ち、風の手裏剣と氷のカラスの大群によって吹き飛ばされてしまった。


 ただ向こうも素人ではない。不意打ちには成功したがディーパたちは窓を割って全方位から工房に侵入し、戦場は即座に混戦状態になってしまう。


 現代ならスタングレネードなり催涙弾を投げてから一気に突入し、反撃する時間も与えず制圧するが一応最低限の事は出来る様だ。


 ただ練度の低さは一目でわかるほどお粗末で、一部は窓から侵入する際もたついておりお世辞にも訓練された兵士とは言えなかった。


 けれど訓練された兵士ではないが個々の身体能力は人間と比べるとかなり高い。ザキラは二階ほどの高さを飛行していたが、ディーパ兵たちは軽々と跳躍して空中戦を仕掛ける。


「おりゃあッ!」

「ぐぐっ!?」


 彼女は力任せに釘バットで叩き落とそうとするがディーパは余裕で耐え、痛みを一切気にせずトンファーで殴りかかったのだ。


 頑強な鱗は防弾アーマーの役割を果たしちょっとやそっとじゃかすり傷にしかならない。人間ならば死んでしまうので決して真似は出来ないが、集団で戦えばこちらの世界の軍隊にも対等以上に渡り合えるかもしれない。


「ザキラ、避けろ!」

「おっと!」

「ムギャ~?」


 しかしどれだけ相手が硬くとも俺には最強の武器がある。ザキラがさらに上昇して逃げると同時に銃を乱射、敵の集団を眠らせ無力化した。


「睡眠魔法ダト!? アマビコ、頼む!」

「は、はい!」

「あだっ、スマンスマン!」


 兵士から頼まれたアマビコは戦闘不能になったディーパたちを担ぎ上げて回収、急いで安全な場所に移動して離脱させ、眠っている兵士をベシベシとハリセンで叩いて起こしていった。


 戦場では後方支援をする相手を優先的に狙う事は当たり前の事だが、流石に母親のために懸命に戦う彼を倒すなんて非道な行いは出来ないな。その勇気に敬意を払いアマビコは無視するか。


「なんだこの武器ハッ!?」

「お前たち、何をしているかわかっているのカッ! お触れに違反したら最悪処刑されるんダゾッ!?」

「リンドウ、考え直セ! 夢なんてなくても生きてイケル! だけど死んだらそれでおしまいナンダ!」

「あんたはビンキチがいなくなった時、死んでも子供を護ってやるって言ったじゃないカ! あれは嘘だったのカッ!?」


 兵士たちと住民の連合軍は得体の知れないチート武器に戸惑っていたが、痛みに耐えリンドウさんを助けるために怯む事無く突撃する。


 向こうにも確固たる信念はあるみたいだが、だからといってこちらも退くわけにはいかなかった。


「いやあ、心が痛んで仕方がないねぇ」

「その割には楽しそうでヤンスよ、姐さん。アニキだって笑ってるでヤンス」


 リアンは笑いながらよたよたとした動きで頑張るご近所さんを義手で捕捉、投げ飛ばし他の兵士にぶつけて気絶させ早めに倒してあげた。


 だがもちろん彼女の笑みは悪意に由来するものでは決してなく、サスケもまた嬉しそうに風魔法を連発しひたすら遠距離攻撃に徹した。


「同感だな。こういう誰も悪くない心温まる戦いなら大歓迎だよ。痛みを感じるたびにご近所さんの優しさがガツンと伝わってくるからな」

『お前マゾなの?』

「ばーか。でもこれはマゾじゃなくても嬉しくなる良い痛みだな」


 俺が笑みを浮かべるとまれっちは茶化したが、おそらくこの不思議な感情は万人に受け入れられるはずだ。


 俺だって別にただ痛ければいいってわけじゃないんだぞ? だから別に真正のマゾじゃないのだ、念のため。


「ごめん、皆! でもうちはお母さんの夢を護りたいんヨ!」

「やあやあたあたあ!」

「シャアッ!?」


 またあまり期待していなかったニイノとマタンゴさんも奮起し地味に活躍している。


 基本的にはマタンゴさんがキノコ胞子で撹乱し、怯んでいる隙に釣竿の様な武器で一本釣りからの地面にビタンと叩きつける、という戦い方で着実に戦力を削っていた。


 釣竿なんて武器になるはずもないが、彼女は巧みに竿を操り手当たり次第に離れた場所のディーパを捕まえ放り投げている。


 また先端が鋭く尖っていて槍としても使う事が出来、敵が接近してきた場合は隙の少ない高速の刺突攻撃に切り替え応戦していた。


 これを武芸と言うべきかはわからないが異世界ではこれが普通なのだろうか。だが彼女は兵士相手に十分タメを張っているのでカバーに回る必要はなさそうだ。


「あーあー、こんなに暴れちゃっテ。俺は何度も忠告したゾ?」


 しかし彼女を気にかけている余裕はない。


 ご近所さん部隊を率いる彼もまた本来武器ではない船を動かすための年季の入った大きめの櫂を持ち、俺達の考えなしな暴挙にため息をついて戦場に現れた。

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