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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-85 クエスト・リンドウの気球の防衛

 改良版の気球に必要なパーツを集め、ついでに気球禁止のお触れの裏事情も知り、諸々の準備を済ませた所で俺達は地上の廃墟エリアに集まった。


 こちらも前時代は元々何かの工場だった様だが、かつてはここで気球を作っていたのだろう、周囲には何に使うのかもよくわからない専門的な道具が乱雑に置かれていた。


 おそらくお偉いさん連中は気球だけ回収して道具はそのままにしたのだろう。


 温情と言うべきか詰めが甘いというか。俺たちの世界なら工場も更地にして技術者も収容所送りにするけど、今はその手抜きっぷりに感謝しよう。


「いやあ、本当にありがとう! これでようやく気球が出来るヨ! 出来ればいつも使ってるところで作りたかったけどネ」

「構いませんよ。気球に乗りたいって目的は同じですし」


 言うまでもなく彼女が使っていた洞窟の工房はご近所さんにマークされていたので使えず、彼らの目をかいくぐって必要最小限の物だけ回収して急遽こちらの工房で作る事になったわけだ。


 のっけから望ましくない展開になってしまったが、作れるだけ良しとしなければなるまい。


「私も頑張りましたポン! えっへん!」

「モリンもサンキューな。けど今度はちゃんと落ちない奴にしてくれよ」


 一度墜落しているのを目の当たりにしたリアンは戦々恐々としていたが、こうなった以上は腹をくくるしかないだろう。


「うう、でも本当に大丈夫でヤンスかねえ。アニキは怖くないんでヤンス? 高い所から落ちても大丈夫な方法ってあるでヤンスか?」

「ヘリからの降下訓練はした事はあるし、ある程度なら受け身で何とかなるが流石に限度がある。その時は諦めろ」

「ケガしたらぽふぽふしてあげるねー」

「……頼りにしてるでヤンス」


 その時が近付きサスケもビビっていたが、好奇心旺盛なマタンゴさんは気球で空を飛ぶのを心待ちにしていた。


 生まれた時から高層ビルなんかで暮らすと小さい子供は高い所を怖がらなくなり、その結果ベランダから身を乗り出す等の危険な行動をとったりするけど、このキノコからは目を離さないようにした方がいいかな。わー、たかーいってはしゃぎ過ぎて落っこちそうになる姿が目に浮かぶ。


「キノコはいるのにアマビコは来ていないのか。もうすぐ自分の母親が夢を叶えられるっていうのに」

「……ええ。わかってはいましたケド」


 一方ザキラは息子の不在を指摘し、花畑で複雑な想いを伝えてくれたニイノは浮かない顔をしてしまった。


 なお正確に言えばリンドウさんが夢を叶えられると本気で思っているのはこの中では本人と俺くらいであり、現実的なアマビコはきっとその未来を信じておらず母親のために反対側に回ったのだろう。


「皆気が早いヨ。別に今から空を飛ぶわけじゃナイ。今回はお客さんを乗せるわけダカラ落っこちない様にあれこれ軽く飛ばして調整する必要もあるからネ。作って調整して、作って調整してを繰り返すカラすぐには空には飛べないヨ」

『うん、そういう事。でも覚悟はしてね』

「……何を? 怖いんだけど。でも確かに今までは忠告で済んでいたけど、今回の騒ぎがお偉いさんに伝わるのも時間の問題だろうな」


 ただご機嫌なリンドウさんの発言に対し全てを見通すまれっちは物凄く嫌な伏線を張ったので、俺のハナは即座に良からぬニオイを察知してしまう。


 これ確実になんかあるよなあ……勘弁してほしいんだけど。


『いいや、もう伝わっている』

「マジ?」

『ああ。多分作っている途中に第一陣が来るから適当にシバいておきな。最初の相手は練度の低い文字通りの雑魚だし、一人化け物はいるけど向こうも命まで取る意思は無いからどうとでもなるだろう』


 文字通りの雑魚か。多分だがその兵士はディーパなのだろう。


 アシュラッドでも兵士はほぼ人間以外のグリードだったし、ここはディーパが多い地域なので治安維持の役目を担う相手も当然ディーパなのだろう。


『けど次に来る奴は結構ヤバイ。だから気球が完成次第とっととこっちに向かってきてね。一応最悪のケースを想定して対策もしてあるけど出来ればそっちは使いたくないから』

「ちなみにそっちを使ったらどうなるんだ」

『勝てるけど多分死人が出る』

「……そうか」


 完璧な仕事をするまれっちの手にかかればそのヤバイ敵も簡単に倒せるのだろう。だが俺にとってそれは本意ではない。たとえ殺す相手が敵で自分が直接手を下さないとしても、それは受け入れがたい選択肢だったからだ。


「あわわ、それは大変デス。お、お母さん……」

「気にするナ、でもそういう事ならちゃちゃっと完成させようカ。夢ってのは命を懸けないと叶えられないものだからネ!」


 この上なく悪い知らせにニイノは怯えてしまうが、既に一度死に瀕する経験をしたリンドウさんはどこか楽しそうに笑っていた。


 夢追い人はピンチの時ほど燃えたりするが、この人もそういう類の人だった様だ。


「その代わり命の保証は出来ないヨ。あんたらはアタシの夢に命を懸けられるかい?」

「ええ、命を預けましょう。本音では物凄く嫌ですが背に腹は代えられないですし。皆もそれでいいよな?」

「うん、いいよー」


 俺もまた彼女の覚悟を受け入れる決意をしたが、ニコニコしたマタンゴさんは物凄く軽いノリで賛同してくれた。


 結構シリアスなシーンなのに、こいつのぽへーんとした顔のせいで全てが台無しになってしまうなあ。空気がマイルドになって助かるけど。


「いやよかねぇよ!? よくないに決まってるだろ!? 勝手に人の命を懸けるなよ!?」

「リアン、空気を読め」

「いやザキ姉は空飛べるからいいだろうけどさあ……」

「……はあ、本当に飛ぶんでヤンスね。せめて死ぬ前にあずきのアイスが食べたかったでヤンス」

「さっきお店で買ったカボチャあんのケシアドならありますポン」

「ありがとうでヤンス、モリンさん……」


 死を覚悟したサスケは泣きながらポルトガル菓子のケイジャータ、ではなくケシアドをもぐもぐと食べ、俺はふとドラマで死刑囚が執行前に号泣しながら大福を食べるシーンを思い出してしまった。


「良かったな、サスケ。冥途の土産に教えてやるがケシアドは大隈重信も好きだったらしいぞ」

「オオクマシゲノブが誰なのかオイラは知らないでヤンスよぉ、もぐもぐっ、ぐすん」


 俺はついでにケシアドの雑学を伝えた。南蛮菓子と言えば長崎のカステラや金平糖が有名だが、佐賀のけし跡ケシアドもそこそこ歴史はある。


 このお菓子は日本で手に入る材料で無理矢理再現した結果、全く別物のお菓子になってしまったなんちゃって南蛮菓子の類だけど、昔作った人もチーズの代わりに何故似ても似つかないカボチャあんを使おうと考えたのだろうか。


「あ、たくさん買ったので皆さんもどうぞ召し上がれ! はい、リンドウさんも!」

「アラ、気が利くネェ。それじゃあ気合入れて作るとしようかネ!」

「ホント頼むぞ? はぁ……結構美味いなコレ」


 リアンもため息をつきつつも不機嫌そうにケシアドをバクバクと食べ、その美味しさに無性に苛立ってしまった。


「ウマー」


 なお甘党かついざという時には空を飛べるザキラはまるで気にせず幸せそうな顔をしている。


「もぐもぐ。確かにこれはこれで美味いけど人生の最期に食べるものじゃないな」


 俺もケシアドを頬張り栄養補給をしながらマップを確認し、遠くの方で武装したディーパが困った様子の住民ディーパと話し合っている姿が見えた。


 どうやら善意の市民から通報を受けた連中がもうすぐ行動を起こす様だ。


 幸いにして武器はカリスティックやトンファーなど、東南アジアの警察が使っている様な殺傷能力が低いものばかりなので、まれっちの言うとおり俺達を殺すつもりは一切ないらしい。


 また市民の中には船頭のヒョウスベさんやアマビコの姿もあった。彼らも決して全員敵意があるわけではないのだろう。


 彼らは別に彼女が憎くて密告したわけではなく、たとえ夢を奪ったとしても危険を冒すリンドウさんを何とかして止めようとしているだけのはずだ。


 それは俺達の世界でしばしば見られた信用スコアのために友人を売り渡す密告行為とは似て非なるものであり、心温まる優しいものだったんだ。


 命のやり取りをする事はなさそうなのでそこはかなり心情的に楽かな。技術者でもない俺たちに出来る事はそんなにないけど、せめて戦いに備えてストレッチをしながら無事に気球が飛ぶ様に祈っておこう。

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