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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-84 悲運の天才技師リンドウ

「ふむふむ」


 俺はマップ機能と鑑定スキルを使いパーツを吟味して回収する。


 鑑定スキルはチートの定番だが、定番なのはそれだけ便利だからなのだろう。このスキルがあれば知識がなくとも食べられる野草を見つけられるし、玉石混交のハード○フでも無双出来るのだから。


 でもそうか、このスキルをサバイバルに生かすっていうのはアリだな。俺はこの世界の動植物の知識が一切ないがこれならば何かあっても食糧には困らないだろう。


 ただ鑑定スキルなんてものを使わずとも日本に自生している植物だって事は一目でわかるし、パルミラ女王とのお茶会ではバナナやあまおうも出てきたので生態系は俺たちの世界とそんなに変わらない様だ。時々ブタが飛んでキノコとかが歩いているけど。


「まれっち、お前も手伝ってくれよ」

『やだ。面倒くさい。今酒を飲むのに忙しいし。でもやり方は間違っていないし、概ね及第点のものを選んでいるからそのままでいいよ。ま、俺っちならもっといいのを一分で集められるけど』

「そうか。その余計な一言さえなければもっと感謝してたんだが」


 なおもちろんまれっちは例の如く放任主義で最低限のアドバイスにとどめた。


 かすかにグビグビと酒を飲んでいる音が聞こえるので、酒を飲んでいるというのは事実なのだろう。


「向こうも……うん、問題ないな」


 モリンさんとリンドウさんも手分けしてパーツを探しており、どちらも知識はあるので鑑定スキルに頼らずとも元来の知識で普通にタスクをこなしている。


 集めたパーツを見るとどれも俺が集めたものと同等かそれ以上のクオリティなので、彼女たちに何かをアドバイスする必要は特になさそうだ。


「なあ、まれっち。やっぱりおかしいと思うんだが」

『先週のAパートの作画が? 確かにモブの中に初期の鍵作品っぽい奴がいたけど』

「違ぇよ。わけわからんボケをするな。あと慣れれば絵なんて気にならなくなる。リンドウさんの事だよ。さっきから迷わず正解の選択肢しか選んでいないだろ」


 というよりもむしろリンドウさんに関しては鑑定スキル持ちの俺なんかよりもいいものを選んでいた。


 それも全て知識が為せる業なのだろうが、好きこそものの上手なれと言っても限度があるはずだ。


『そうだね。こんなまともに動かないガラクタで気球を作るなんて知識のある現代人でもかなり難しいだろう。だが彼女はここに転がっている兵器の構造と仕組みを完璧に理解した上でそれを応用して全く新しいものを作り気球の材料として用いている。リンドウの頭脳と技術力は明らかにこの世界の文明水準を、下手をすれば現代科学も凌駕していると言えるね』


 知識のあるまれっちは彼女が本物の技術者である事を既に見抜いており、俺も気付いていなかった事実を見抜いていた。


 正直半分くらいはどうせ無理だろうと舐めていたが、彼女ならば本当に空を飛んでノーザンホークに向かうのかもしれない――俺はようやく本当の意味でそれを理解したんだ。


『智樹ちゃん、どうして気球禁止のお触れが出たのか知りたいかな?』

「そこは俺も気にはなっていた。倹約令とかそういうのじゃないみたいだし……お前は知っているのか?」


 その事実は船頭ディーパのヒョウスベさんとの言い争いで知った事だが、俺はどうしてもそれが不思議で仕方がなかった。


 何となく権力者にとって好ましくない事実があったのではないかと、話を聞いた時にディストピア育ちの俺はそんな勘繰りをしてしまったけど……。


『俺っちは何でもお見通しさ。気球禁止のお触れが出たのはね――リンドウと彼女の夫、ビンキチが優秀過ぎたからさ』

「どういう事だ」

『この世界では空の彼方にはアンジョがいると言われている。智樹ちゃんの世界でも似た様な概念は存在するよね。どこの宗教でも神様は大体空にいて地の底には悪魔がいるものだ。そしてイカロスやカラスが空を飛ぼうとして焼かれたように、神の聖域に足を踏み入れる事はあらゆる宗教で禁忌とされていた。そしてそれは割と近代まで続いていた。智樹ちゃん、人類初の宇宙飛行士の有名な名言は知っているかい?』

「神はいなかった、だったか」

『そこは地球は青かったって言いなよ、生意気な。まあこれも実際は別の人が言ったって説もあるけど……とにかくその言葉からわかるように多くの人間は空の彼方には神がいるとどこかで信じていた。だが人がその場所に足を踏み入れた事で天は聖域ではなくなり、そこにいたはずの神は消滅してしまった。その事実は人々の価値観に大きな影響を与えてしまったんだ』


 日本人はしばしば宗教に無頓着と言われるが、当時の世界では宗教はまだ力を持っていた。


 今でこそ人工知能という全知全能の存在によって世界から神はほぼ絶滅してしまったが、当時の人にとってそれが極めて衝撃的な事だったのは想像に難くなかった。


「つまりリンドウさんと旦那さんはその禁忌を侵しかねない存在だった、だから二人のためだけに気球禁止のお触れを出したと」

『その通りだ。同じ宇宙絡みの名言を引用すれば、彼女にとって気球の完成は小さな一歩でも世界にとっては大きすぎる一歩なんだよ。彼女たちは世界の真実を暴き、秩序を脅かす存在だったんだ。もちろん科学技術を独占したいアンジョの子孫の連中にとっても都合は悪かっただろうね』

「……ひょっとしてリンドウさんの夫が漁に出て行方不明になったのは」

『どうなんだろうねぇ』


 まれっちは曖昧にはぐらかしたが、俺は薄々そうなのだろうと確信していた。


 この世界の支配者は自分たちの地位を護るために神であるはずの人間を殺し続けていたし、ましてや人権など存在しないグリードを殺す事への躊躇いなんて一切ないだろう。


「なるほどな、ただ空を飛ぶだけなら他にいくらでも方法はあったのにリンドウさんの気球を指定した理由がわかったよ。お前は彼女に禁忌を破らせようとしているんだな。気球を完成させて空の果てへと導き、神の概念を殺すために」

『うーん、まだその辺はノーコメントって事で。ネタバレは良くないからね』


 全ての話を聞いた俺はまれっちの企みに気が付いてしまった。彼女は俺達を操ってリンドウさんに干渉し、世界の秩序を壊そうとしているんだ。


 おそらく彼女は全てを見通したうえで行動している。それはまさしく超越者の所業に他ならない。あるいはただ単に暇を持て余した神々の戯れに過ぎないのかもしれない。


 ほんの一部ではあるが、まれっちという怪物の悍ましさをようやく理解した俺は寒気がしてしまったんだ。


『だけどその辺の事は気にしなくていい。お前さんがすべき事は気球作りをほどほどに手伝う事だけだ。余計な事を考える必要はないよぉ』

「それもそうだな」


 どうやらこの問題は思っていた以上に根が深かった様だが、俺如きが国家権力と宗教の闇に立ち向かうなんて出来ないし、その必要もないだろう。今は彼女の掌の上で踊っておくとするか。


 それにもしも闇を払ったとしてもその先にあるのは秩序の存在しない混沌であり、より深い暗闇でしかない。


 それは世界を護る為に必要な闇であり、安易に消してはならないのだから。

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