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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-82 母を憂うニイノ

 夢追い人のリンドウさんと周囲の人々との揉め事を見た後、俺は独りで洞窟エリアを散策していた。


 辺りには一面に朱色のポピーっぽいサンゴがたくさん群生しているが相変わらず無人だ。


 藍色の岩も宝石のように美しく、前の世界なら立派な観光名所になっていたのだろうけど、誰も愛でる人がいないっていうのは虚しいものがある。


 この切なさもひっくるめての美しさならばありっちゃありだけどさ。


「どうするよ、まれっち」

『子供を持つ人間が夢を追う事の是非なんてものは誰にだって答えを導き出す事なんて出来ない。仮に答えが出たとしても本人がそれを受け入れなければ意味なんてないだろうさ。だけどお前さん方の答えは決まっている。気球に乗って俺っちに会いに行く、それ以外に答えは存在しない』

「わかってるけどさ」


 俺は仕方なくまれっちに絡んだが、帰ってきた答えはわかり切ったものだった。


 周囲が何と言おうと俺たちにはリンドウさんの気球が必要であり、選択の余地はどこにもなかったからだ。


 何か問題が起こった場合ゲームならばアイテムを手に入れる、モンスターを倒すとかそういう簡単な事でクリアする事が出来る。


 しかしこちらは力尽くでは決して解決出来ず、どんな勇者にだってどうする事も出来ない永遠の難問だったからだ。


『心配しなくても気球は完成するだろう。何度も言う様だけどお前さんは何もしなくていい。いや、余計な事をする必要はない。お前さんが正しいと思ってした行動は良くない結果をもたらす事だってある。迷っている暇があれば俺っちが喜びそうなお土産を探しておくり』

「お前は酒と肴なら何でもいいんだろ」

『SAGA認定酒はコンプリートするつもりで。ワラスボの干物は大目にヨロー。あの最高に美味いゲテモノは佐賀くらいでしか手に入らないのよぉ』


 俺は気分が乗らなかったがリクエストに従い脳内メモにワラスボの干物を記す。せめてもの嫌がらせに一番安いものにしておくか。


『ちょうど近くにアンニュイな雰囲気のニイノがいるよ。好感度を上げてフラグでも立てておいたら?』

「フラグねぇ。気にはなるし話くらいはしておくか」


 マップで確認するとまれっちの言うとおり、愁いを帯びた表情のニイノがサンゴの花畑に佇んでいた。


 別に口説くつもりはないけど、友人として一応フォロー程はしておいた方がいいだろう。


「はぁ……」


 賑やかで明るいサンゴの花畑とブルーな半魚人はかなりミスマッチで違和感しかなかった。


 まずはどう話しかけようか考えていると、幸いにして向こうも俺の存在に気付いてくれる。


「トモキさん……すみません、先ほどはお見苦しいやり取りをお見せしてしまっテ」

「気にしなくていい。それにある意味俺が原因でもあるからな」

「いえ、トモキさんは別に何モ。お店でお買い物をしただけデスシ」


 ニイノの言っている事は全くもってその通りだが、かといってそう簡単に割り切れるものではなかった。


 もちろん遅かれ早かれリンドウさんは資金を調達して気球を飛ばしていたのだろうけど……むーん。


「それでニイノはどうしたいんだ。リンドウさんに気球を飛ばしてほしくないのか」

「うちが嫌だって、危険だから夢を諦めて欲しいって言ったラ、トモキさんはお母さんを止めてくれるんデスカ?」

「悪いけどしないだろうな。こっちにも事情はあるし」

「そうですよネ……」


 俺たちはリンドウさんの気球が必要であり、その前提は揺るがない。


 そんな意味のないやり取りをして彼女を落胆させた後、ニイノは語りだした。


「お気付きの通りうちにはお父さんがイマセン。気球作りのお金を稼ぐために遠くの方まで大物を狙いに行ってそれっきり……それからはお母さんが女手一つでうちらを育ててくれマシタ。綺麗だったヒレもボロボロになって、気球作りの夢も諦めて、朝から晩まで一生懸命働いてくれテ……感謝しかないデスヨ」

「立派なお母さんだったんだな」

「はい。だから今まで苦労をかけた分お母さんには自由に生きて欲しいんデス。でもお母さんの夢はお母さんを命の危険に晒すものデ……だからちょっと複雑なんデスヨ」


 ニイノは俺を信頼し複雑な胸中を吐露した。けれど事情を知った所で別の答えを提示出来るわけでもなく、俺はただただ心苦しかったんだ。


「話を聞いてくれてありがとうございマス。ちょっと楽になりマシタ」

「いいよ、何もしていないから感謝される筋合いもないし。でもこっちこそ話してくれてありがとう」


 ニイノはぎこちなく笑い、俺もまた彼女に感謝の言葉を伝えて為すべき事を考える。やはりここは騒動の中心であるリンドウさんからも話を聞いておかないといけないだろうな。


「じー」


 彼女に関してはサンゴに隠れて不安げに様子をうかがっている友達のキノコに任せればいいだろう。


 俺はアイコンタクトを送って立ち去り、それと同時にマタンゴさんはぽてちてとニイノの下に向かっていった。

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