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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-80 夢を叶えるために必要な要素

 しかしマジで暇だな、コレ。何もする事がねぇわ。でもこういうのんびりした時間が結局一番幸せなんだよな。


『そうだ、さっきのメモリカをM9にでも付与しておきなよ。ぶっちゃけこれだけで無双出来るくらい強力だよ』

「そうだな」


 しばらくして俺はマタンゴさんのメモリカの存在を思い出し、簡易クラフトセットを取り出して合成の準備をした。


「なんつーか、独特な効果だな」


 改めて『小さな勇者のメモリカ』の効果を確認する。


 効果の名前は『みんなですやすや』『みんなでえびばーでー』という何とも脱力するネーミングセンスだが、前者は睡眠バステ、後者は混乱させ強制的に踊らせるという実に有益なものだった。


『ネーミングのセンスはともかく特筆すべきはメモリカのレアリティだ。強力な魔石ならば強い敵にも効くし、これで今まで効果がなかった相手にもバステを与える事が出来るよ』

「そりゃ頼もしいな。一度効果を付与したら無くなるのがネックだけど」


 重複する眠りバステは上書きするとして、踊らせるのは別に切り替えられるようにしておくか。


 合成は一度きりで効果を付与すればこの貴重なメモリカは永遠に失われる。


 だが出し惜しみして死んでは元も子もないので、俺はもちろん迷わず決定ボタンを押した。


「うし、出来た」


 合成はすぐに完了、序盤にして最強クラスの武器が手に入る。


 ただこの力は誰かの記憶と引き換えに手に入れたものであり、俺はそれが少しだけ切なかった。


「なあまれっち、リンドウさんの気球に乗ったとしてお前の所にはたどり着けるのか?」

『何事も無ければ辿り着く事自体は問題ない。敵さんが来る前に飛べばね』

「そうか。ついでに聞くけど、その気球でノーザンホークって所にはいけるのか? ノーザンホークってこっちの世界でいう所の東北地方だよな。日本の端から端まで行くなんてどう考えても無理だろ」

『無理じゃないよ。一見無謀にも思える事でも、人が想像した事は基本的に大抵実現する事は可能なんだ。片道切符の旅行になるかもしれないけどね』


 まれっちは意外にも彼女の夢を支持した。てっきり現実主義者の彼女は不可能だと切って捨てると思っていたけど。


『智樹ちゃん、夢を叶えられる人とそうでない人の違いって何だと思う?』

「いや、わからないな。夢なんて持った事もないし」

『夢を叶える人間は全員リアリストだ。無謀に見えても明確なビジョンが存在し、実現のために何が必要か分析し、目標を達成するために行動する。簡単に言えば夢の実現に必要なのは計画性と行動力だ。もっともこの場合夢という定義が相応しいのかはわからないけどね。夢を叶えた人間は夢は寝て見るもの、なんてよく言ったりするけどさ』

「確かにな。夢というよりただの事業計画だ。だけどその理屈で言えばリンドウさんには計画性がない気がするけど」

『君が思っているよりも彼女は計画性があるよ。現に資金調達のためにはるばるアシュラッドまでやってきて金稼ぎをしていたじゃないか。君は彼女の店の商品を全部買ったけど、普通はあんなに高価な魔石を大量に持っていないよ。あれだけの数の魔石を集めるのは並大抵の労力じゃなかっただろう』

「……そっか、言われてみれば」


 彼女の話を聞いた俺は目から鱗が落ちた。おそらく金遣いの荒い俺が現れなくても彼女はいずれ資金を調達出来ただろう。リンドウさんは夢を叶えるために必要なものをすべて持っていたのだ。


『常々チートがないパターンの異世界転生モノを見て思ってたんだけど、何の取り柄もない奴が異世界で大冒険して無双とか、知識を生かして大儲けとか、それだけの行動力があれば大抵の事は出来ると思うんだよねぇ。努力をしてきた奴ならなおさらだ。デッドオアアライブな異世界よりも現実世界のほうが遥かにヌルゲーなのに、なんでそっちで頑張らないのかねぇ』

「そりゃそっちのほうが面白いからじゃないのか? 元も子もないけどフィクションだし」

『はは、それもそっか。まあ夢を叶えたら叶えた所で現実を知るものさ。夢は叶えている最中が一番楽しいものなんだ。そう考えるとやっぱり夢は叶わないほうが幸せなのかもしれないねぇ』

「まれっちはそういう経験があるのか?」

『さあ、どうなんだろうねぇ』


 そうはぐらかしたまれっちはほんの少し寂しそうだった。


 自分で人生を選べない時代に生まれてしまった俺からすれば贅沢な悩みだけど、彼女もまた現実を知って夢から覚めた経験があるのかもしれない。


「……………」


 夢は結局夢でしかないのかもしれない。結局夢は見ないほうがいいのだろうか。


 俺は遠くの空で浮かぶ孤独な気球を見つめ、そんな物思いにふけってしまう。


「……ん? 気球?」


 けれど俺はしばらくしてそれが不可思議な事である事に思い至った。


 今イナエカロにはお触れが出ているので気球は一つも飛んでいない。つまりあれはリンドウさんの気球だ。


 だが何故彼女の気球が飛んでいるのだろう。試運転でもしているのだろうか。それにしては急激に高度が上がっている様な。


「あ」


 そのまま観察していると炎がバルーンに引火して炎上、結構な高さから錐揉み回転で真っ逆さまに落下してしまう。


 あー、あれ多分死んだなあ。そりゃまああんな廃材を寄せ集めて作っただけのオンボロな気球で空を飛べばああなっちゃうよなあ。


「ってちょおい!?」


 俺はすぐに落下地点へと急行、リンドウさんの救助に向かう。まったくあの人は何をやっているんだ!

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