1-78 小さな勇者のメモリカ
記憶の中の景色にはマタンゴさんがいて、涙を流しながらサバの缶詰を持っていた。
荒れ果てた部屋の中で呆気に取られていた少女は彼を優しく抱きしめその小さな勇者の勇気に力を貰う。
それは些細な事ではあったけれど、絶望を打ち砕くほどの力を秘めていたんだ。
けれど映像にはノイズが多く詳細な事はわからない。まるで誰かが意図的に認識される事を拒んでいる様に……。
「きゅ~。まぶしい~」
「え、今何が」
「今のは……?」
短い記憶の再生が終わり、全員が突然の事に呆気に取られていると、錆びた缶詰の近くに目をやられて気絶したマタンゴさんとメモリカがある事に気が付いた。
「これって」
メニュー画面で確認すると『小さな勇者のメモリカ』と記されていた。
どうやらこれは映像の中に出てきたマタンゴさんの記憶から出来たメモリカの様だった。
「うお、またメモリカ!?」
「しかもこれもかなりいい奴でヤンス!」
「こいつはたまげたネェ!」
「ぼ、僕もこんなに純度が高いメモリカは初めて見ます!」
「わあ、とっても綺麗デス! でも大丈夫?」
「もどったー。だいじょーぶだよ、ニイノちゃん。びっくりしたなあ」
さほど時間を置かずに高品質なメモリカを見つけリアンは物凄くテンションが上がっていたが、俺は困惑のほうが勝ったのでひとまず専門家に尋ねた。
「なあ、メモリカってそんなポンポン見つかるものなのか」
「いや、人が死ねば出来るメモリカ自体はいくらでも手に入るが、このレベルの物はまず見つからない。これくらい強力な力を持ったメモリカは歴史に名を残す英雄とか聖人が死なないと出来ねぇんだ。そんなのトレジャーハンターが一生探し回って見つかるか見つからないかってくらいの確率なのに……アタシたち明日死ぬのか?」
ザキラはこれが異常な事だと理解しており、連続してSSRなお宝が手に入って恐怖心を抱いてしまった。それは例えるなら一日に連続して宝くじで一等を当てる様なものなのだろうか。
『補足すると縁というか関係があった人の手に渡りやすいよぉ。今回はマタンゴさんがトリガーになってこの缶詰に宿った記憶が呼び起されてメモリカが出来た、って感じかな』
「ふーん」
まれっちの説明を聞いてもわかったようなわからなかったような。
同じマタンゴさんならメモリカの持ち主と関係はある様に思えるが、マタンゴさんなんてこの世界にはたくさんいるだろう。流石にそのカテゴリの幅は広すぎる様な気がするけど。
「リアン、メモリカから手を放せ。これが缶詰から生まれたメモリカなら、缶詰の持ち主のリンドウさんたちが所有すべきだろう」
「うぐっ」
俺はひとまずどさくさに紛れて懐に入れようとした手癖の悪いリアンを叱っておく。厚かましい彼女も俺の意見に道理があると判断したのか残念そうに手を引っ込めた。
『智樹ちゃん、その通りだと思うけど彼女と交渉してメモリカを手に入れてくれないかな。そのメモリカは君にとって必要になるからさ』
「え、うん」
だがメモリカの真の価値がわかっているまれっちは是非とも手に入れる様に勧める。
改めて鑑定スキルでメモリカの詳細な情報を確認すると、なるほど確かに俺にとっては非常に有益となる効果が記載されていた。
「なんだい、このメモリカが欲しいのカイ? 真珠のネックレスを届けてくれたお礼にあげてもイイヨ」
「マジですか?」
しかし交渉を始めようとするとリンドウさんは何かを言う前に渡す事を即決してくれる。
もちろんこちらとしてはありがたかったけど、食事をご馳走してくれただけでなく至れり尽くせりなこの状況に申し訳なさを感じてしまった。
「マジも大マジ。娘の命の恩人な上に気球のスポンサーになってくれたのならこれくらいはさせて欲しいヨ」
「そうデスネ、これでちゃんとトモキさんにお礼も出来マスシ!」
「僕も賛成ですよ。気にせず受け取ってください」
「うーん、助けたのはリアンなんですが。ではお言葉に甘えて」
ただリンドウ一家は全員賛成に回り、俺は押し付けられるようにメモリカを手に入れた。
もちろん引け目はあるがこのメモリカは俺の武器を大幅に強化出来るし、今後の事を考え受け取る事を選んだ。
「さあて、腹ごしらえもしたしいっちょ気球を作るカ!」
せめてお礼のお礼をすべきか、と思っていると彼女はいそいそと気球制作に向かった。まあお礼自体はいつでも渡せるし後回しでもいいかな。
「じー。助けたのはオレだよな」
「やらないぞ?」
なおリアンはメモリカを要求するがもちろん断った。気風が良いのは好感が持てるが、リンドウさんにも彼女の様な厚かましさが少しでもあればいいんだけど。
こういう所なんだろうな、お金がなさそうな生活をしている原因は。
執着しないと言えば聞こえはいいけど無頓着っていうのはなあ。ニイノとアマビコの苦労がしのばれるよ。




