表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/222

1-77 リンドウの語る夢

 楽しい食事は続き、心もお腹も満たされた俺はリンドウさんに改めてお礼を言った。


「それにしてもこんなにもてなされて、なんだか悪い気がしますね」

「ナアニ、兄ちゃんがスポンサーになってくれたおかげで気球が完成するンダ。これくらい当然サ。でもどうして兄ちゃんは気球に乗りたいんダイ?」

「さっきからちょいちょい話に割り込んでくる奴はまれっちっていうんですが、そいつが空にいるらしく気球に乗って会いに来いって面倒くさい注文をしたんですよ。ストーリーに全く関係ない依頼をするジジイはあるあるネタですが」

『なんならはがねのつるぎ10ぽんとかも追加しようか? あと俺っちはジジイじゃないよ』

「二人が仲が良いんだろうなあって事はわかったヨ」


 リンドウさんはハハッと笑いイカ刺し丼をかき込んだ。喧嘩するほど仲が良いとは言うが、俺とまれっちはそういう関係じゃないんだけどなあ。どちらかというと俺は人として問題がある彼女の事が嫌いだし。


「でも空ですか。そういえばこのあたりにはジョフクっていう不老不死のマレビト様の伝説がありますね。永遠の命を手にしたジョフクは天上に住み世界の人々を見守っているっていう。そして彼の住む場所には世界を我が物に出来る、決して使ってはいけない禁断の力を持った秘宝があると」

「徐福か。異世界でもその伝説はあるんだな」


 アマビコはこちらの世界でも有名な徐福伝説について語ってくれた。


 徐福とは人魚の肉を食べて不老不死になった現人神の事であり、佐賀県を含めて日本各地に彼にまつわる伝説が残っている。


 なので少なくともモデルとなった人間は実際に日本各地を放浪していたのだろう。


 この世界ではマレビトは神様と同じ様なものだし、現人神として語り継がれていても何も不思議ではない。


 もちろん不老不死なんて夢物語だし、とっくの昔に死んだであろう徐福とまれっちは関係ないだろうけど。


「禁断の秘宝かあ! で、あるのか?」

『金目のものはそれなりにあるね』


 もちろんリアンはお宝というワードに食いつくも、まれっちはわずかに間をおいて当たり障りのない回答をする。どうやら禁断の秘宝についてはあまり話したくない様だ。


 世界を支配する決して使ってはいけない禁断の力を持った秘宝――それは俺達の世界にも確かに存在し、長崎と広島の人間ならばそれが何なのか誰もが即答出来るはずだ。


 道中見かけた多数の兵器の残骸から推測するに、この辺りは軍事的な要所であった事が推測される。


 もしかしたらその類のものかもしれないが、この世界の平和のためにもきっと詳しく知ってはいけないものだろうし、深くは詮索しないほうがいいだろう。


「ちなみにまれっちって年はいくつだ? 徐福と同じくらいなのか?」

『カキフライの旨さがわかるくらいには年食ってるよぉ』

「人それぞれじゃないか?」


 もう一つ、まれっちは彼女自身の事も適当に誤魔化した。


 会話の節々からはオッサンっぽさしか感じられないが、この世界で一番ミステリアスな存在は彼女なのかもしれないな。


「ぼくはカキだいすきだよー。これぼくのとっておきー」

『おや、結構いい奴だね。缶詰は味も濃いし酒飲みにとっては最高のパートナーなのさ。熱燗か冷酒か……いやワイン、悩ましいよねぇ』


 カキの話題にマタンゴさんは食いつき秘蔵の缶詰コレクションを自慢げに見せる。


 子供は普通カバンに入れて持ち歩かないが、缶詰が好きなマタンゴさんにとっては習性の様なものなのだろう。


「もぐもぐ。それでリンドウさんはどうして気球を作ってるんでヤンスか?」

「アタシのルーツはノーザンホークでネ。ご先祖様があの辺に住んでたんダガ、トール派とアマテラス派の動乱のいざこざでこっちのほうまで逃げてきたそうダ」

「トール派? アマテラス派?」

「トール教会の派閥争いから起こった戦争だ。あれでノーザンホークにあったアンジョの国が滅んでトール派が主流になったんだよ」


 ザキラはワラスボをかじりながらこの世界の歴史について教えてくれる。


 この世界の宗教では北欧神話の神と日本神話の神がごっちゃになっている様だが、他所の宗教の神様が信仰に取り入れられる事はありふれているのでそこまで変ではないかもしれない。七福神とか仏教やら神道やら神様のちゃんぽん状態になっているし。


「ンデ、イナエカロで生まれ育ったアタシはずっとノーザンホークに行ってみたいって思っててナ。その事をセトナイ諸島から引っ越してきたディーパに話したらじゃあ一緒に空を飛んでいこうって。意気投合してなんやかんやで結婚しちまったヨ」

「なんつーか、似たもの夫婦だったんだなあ」

「お察しの通り、お父さんとお母さんは物凄く仲が良かったんデスヨ。うちもいつかは二人みたいに素敵な結婚生活をしてみたいって思ってマス!」

「勘弁してよ、姉ちゃん。身近にこんな立派な反面教師がいるから、僕はもし好きな人が出来てもあまり人前でイチャイチャしない様にってしようって心に決めているんだから」


 類は友を呼ぶと言うが、リアンは年甲斐もなくはしゃぐ二人を想像して精神的にもお腹いっぱいになってしまう。


 なるほど、そんな両親がいればこんな夢見る娘が生まれるわけだ。アマビコは食欲が失せた様だけど、まったく羨ましいったらありゃしないよ。


 でもそのお父さんは今どこにいるのだろ。いや、あまり追求しないほうがいいかな。それにここは漁師町、遠洋漁業に出ているって可能性も十分にあるし。


「そりゃあ金を気にしなきゃワイバーンとかを使った飛空艇もあるにはあるサ。だけど魚類が自分だけで空を飛ぶなんて面白いじゃないカ!」


 リンドウさんは実に愉快そうに身振り手振りで空への夢を語った。


 飛行機という文明の利器が存在する俺達からすれば空は身近なものだが、この世界の人間にとっては選ばれた人間しか知る事の出来ない世界なのだろう。


「フッ、いいね。アタシはそういう生き方好きだぜ」

「アラ、わかってくれるノ? お姉さんとは話が合いそうだネエ」


 ロックンロールな生き様を是とするザキラは彼女に心を惹かれた様だ。俺もまた年をとっても夢を持つ事を忘れないリンドウさんに魅了されていたけど、同時に羨ましさも感じてしまった。


 俺たちの時代では夢なんて概念は無くなってしまった。人工知能が個々の能力や特性に合わせて最適な学校を決め、最適な職業を決め、最適な人生を決める。


 それが普通の生き方だった。一応自由意志で人生を決める事も出来るがそれは人工知能が導き出した最適解には遠く及ばず、多くの人はその決断を後悔し所詮反抗的な子供に過ぎなかったと気付いてしまうのだ。


「あんまりお母さんを乗り気にさせないでください。別にノーザンホークに行くのは全然良いんですが、子供からすれば普通に陸路とかで行って欲しいので……」

「いいじゃナイ、うちはお母さんの夢を応援してるヨ!」


 夢追い人の母親に対する捉え方は現実的なアマビコと母に似て夢見がちなニイノで別れていたが、大多数の人はアマビコと同じ意見なはずだ。


 気球を作るお金があるならいくらでもほかに手段はあるし、あえてリスクがある気球で向かうなんて選択肢は馬鹿げている。ましてやそれが自分の母親であるのならばなおさらだ。


「うーん、お二人の言いたい事はわかりますが、どちらかと言えば私はアマビコさんに賛成ですポン。ここからノーザンホークなんて世界の端から端まで行くようなものですし……いえ、すみません」

「ハッハッハ、それが普通の反応サ。アタシも馬鹿げた事をやってるってわかってるシ」


 当然同じ母親のモリンさんはその無謀な夢を否定してしまう。


 独りで夢を追って勝手に死ぬのならそこまで問題はないが、リンドウさんには彼女を慕う子供がいる。


 もしも彼女が死んでしまえば二人はひどく嘆き悲しむだろうし、その様な愚行は理解出来ないはずだ。


「でもナア、アタシはやっぱり空を飛びたいんダヨ。子供の事を考えろトカ、魚が空を飛びたいだなんて何言ってんダトカ、いい年した子持ちのオバちゃんが何やってんだって馬鹿にされてもサ」

「……そうですか」


 しかしリンドウさんはしみじみとそう言ったので、モリンさんはそれ以上の説得を諦めてしまった。


 どちらが正しいというものでもないが、このタイプの人には何を言っても無駄であると人生経験を積んだ彼女は理解してしまった様だ。


「いんじゃね、自分の人生なら好きにすれば。人生は何があっても結局最後は自己責任なんだ。敷かれたレールの上の人生を歩こうが、アウトローな人生でもな」


 自己責任の人生を選ばざるを得なかったリアンはどちらでもなかった様だ。


 彼女からすれば不安定な未来が当たり前だったので、この選択にさほど抵抗感はないらしい。


「つってもノーザンホークで何するんだ? あそこは雪しかねーだろ」

「雪以外にもいろいろあるヨ。ご先祖様が住んでいたイワマキってとこにはキンカサバってべらぼうに美味いサバがあるらしくてナ、まずはイワマキに行ってそれを食べてみたいんダ」


 リンドウさんはよいしょ、と立ち上がりタンスの上に置かれた空っぽの缶詰を食卓の中央に置いた。


 かなり錆びついているが煮という漢字が書かれているのは判別出来たので、これはサバの味噌煮か水煮缶らしい。


「ちなみにこれがそのサバが入ってた缶詰ネ。一応アンジョの遺産だから値打ちものダヨ」

「ほー」


 マタンゴさんは缶詰というだけですぐに興味を示し、初めて見る不思議なものを前にした赤ん坊の様にじっと見つめていた。


 俺からすればただのゴミだが、彼女からすれば先祖から受け継いだ家宝同然のお宝に違いないのだろう。そんなはずはないのにどこか温もりを感じ、優しい光を放っている気がする。


「ぴゃ」

「っ」


 いや、これは錯覚ではない。錆びた缶詰を見ていると光と共に頭の中に誰かの記憶が流れ込んでくる。


 間近にいたマタンゴさんはその眩い光をもろに食らい、目がくらんでしまった様だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ