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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-75 風船おばさんのリンドウ

「まあ立ち話もナンダ、上がって行きナヨ」

「は、はいっす」


 自らの過ちによって絶世の美女、もとい美魚のニイノに求愛され、そのまま母親のディーパにそう促され俺たちは彼女のお宅訪問をする羽目になってしまった。


「いやー、まさか市場でガラクタを買ってくれたアンジョさんが娘の結婚相手とはネ。世間は狭いネェ」

「やだァ、お母さん、トモキさんとうちはまだそんな関係やないんヨー!」

「ハハ……」


 都合が悪い事にお母様はまあまあ乗り気で、結果的にスポンサーとなった事で第一印象は最高だった。


 もちろんこの後気球に乗せてもらう事を考えれば望ましい展開だが、一歩間違えれば異世界転生して半魚人とイチャラブするというマニアックにも程がある物語が始まってしまうので、フラグを立てて誰得なルートに突入しない様に気を付けて会話をしなければ。


「げしげしげしげし」

「ほら、お前も色情魔に下段キックしてないでアタシの膝の上に乗りな」

「やーん」


 なお友達を寝取られ嫉妬に狂ったマタンゴさんはまだ攻撃している。痛くもなんともないしむしろ気持ちいいくらいだけど、少し鬱陶しかったので察したザキラは彼を抱っこして優しく拘束した。


 ところで一応彼という三人称を用いたがマタンゴさんの性別はどっちなのだろう? イメージ的には男の子っぽいけど。


 彼女たちの自宅はトタンや廃材を使って作られたバラック小屋で、こちらの世界でも戦後はよく見かけられたが建築基準法の変化で無くなり、世界情勢の変化でまた至る所に乱立し始めたメジャーな建物だ。


 しかし何故だろう、バラック小屋は本来粗末で好んで住みたいような家ではないのに、のどかな棚田の風景と合わさるとどうしてこんなに味わい深くなるのだ。


 灰の溜まった火鉢に使い古したかまどと鉄鍋、囲炉裏に干されたデカい魚の干物、年季の入った階段状のタンスとその上に乗せられた土製の素朴な工芸品と、実にノスタルジックなニオイが漂って無性に懐かしくなってくる。


「その人形が気になるのカイ? 禁漁期に小遣い稼ぎをしようと思っテ、テテップウっていうアンジョの遺産を見よう見まねで作ったのサ。クオリティが低いから売れた例はないけどネ」

「いえいえ、普通に売れるレベルですって」


 母親ディーパは照れくさそうに鳩笛を紹介した。確か佐賀の郷土玩具でこんなのがあった気がするけど間違ってもクオリティが低いなんて出来栄えではない。


 何となくでこのレベルの物を再現出来るなんて、気球を自作するだけあって彼女はかなり手先が器用らしい。


「ほー」

「君も欲しかったらあげるヨ」

「いいの? わーい!」


 彼女は物欲しそうに見ていたマタンゴさんに鳩笛をプレゼントし、機嫌が悪かった彼はすぐに笑顔になってテテップウ、テテップウと音を鳴らす。


 これでしばらくは俺にちょっかいを出す事もないだろう。


「自己紹介がまだだったネ。アタシはリンドウ。巷じゃ風船オバサンなんて言われてる村一番の変魚サ。で、こいつがその変魚から突然変異で生まれたとても頭のいい息子のアマビコダヨ」

「初めまして、アマビコです。ディーパの脳とアンジョさんの脳では機能が全く異なるので、頭がいいと言えるのかはわかりませんが」


 リンドウさんは誇らしげに息子のアマビコを紹介した。


 彼は他のディーパと違い流暢に人語を話し、その礼儀正しい振る舞いも人間と遜色なかったのでなるほど確かに知性は感じられる。


「それでどうしてうちに来たんダ。ニイノにネックレスを返すためだけにわざわざ来てくれたのカイ?」

「いえ、俺達は気球を探しにイナエカロに来たんですが、あなたが気球を作っていると聞いて乗せてもらえないかなと」


 簡単に自己紹介をした後彼女は目的を尋ねたので俺はすかさず本題に入った。


 突然の申し出だったので難色を示される可能性も十分に考えられたが、彼女がまずその提案に驚いてしまった。


「ありゃ、気球に乗りたいだなんてあんたも物好きダネェ。市場でアホみたいな値段設定のガラクタを買った時もそうだけど、アタシよりもあんたのほうがよっぽど変人ダヨ」

「正気ですか? 安全性は全く保障出来ないので空に昇ってそのまま昇天する可能性もありますが」

「好奇心旺盛なのは良い事だと思いマス!」


 ニイノだけは肯定してくれたが、やはりあのオンボロの気球に乗りたいと思う人間はいないらしい。


 製作者ですらこんな感じで非推奨していたのだから、この後気球に乗る事を考え俺は気が気でなかった。


「なあトモキ、嫌な予感しかしないが本当に気球に乗るのか。やっぱ普通にトビブタとか使って……ダメ?」

『ダメだよ』

「ケチ」


 無論仲間はあからさまに嫌そうな顔をし、リアンは再度まれっちに確認するも即座に断られてしまう。


 ファンタジー世界ならいくらでも方法はあるだろうに、なんで彼女もこんなに安全が確保されていない気球にこだわるのかねぇ。


「うう、高いところは割と平気でヤンスが、流石に限度があるでヤンス」

「安心しろ、サスケ。アタシならお前とモリンさん位なら助けられる。他は諦めてくれ」

「その時はお願いしますポ、ザキラさん! 私にはまだ小さな子供がいるので何としてでも故郷に生きて帰らなくちゃいけないんですポ~!」


 サスケたちは既に墜落する前提で話を進めており、俺の不安はじわじわと増大してしまう。


 だけど気球に乗りたくなくても是非とも乗らせてほしいって交渉しないといけないんだよなあ。うう、泣きたくなってくる。


「わわっ」


 しかし先に泣いたのは俺ではなくサスケの腹だった。バタバタしてお昼ごはんがまだだったので育ち盛りの彼はお腹が空いてきたのだろう。


「おや、メシはまだなのカイ? せっかくダ、うちで食っていきナ。今朝釣ったばかりの新鮮なイカがあるからそれを食べようカ」

「いいんでヤンスか!?」

「もちろんさ、ちょいと待ってナ」

「そうですね、じゃあお言葉に甘えて。俺も準備を手伝います」

「いいって事ヨ、お客さんなんだカラ」


 リンドウさんは笑いながら食事をする事を提案したので俺はもちろん即決した。


 昔から食事は親睦を深めるのに最適だし、向こうから誘ってくれたのなら断る理由なんて何もなかったし。

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