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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-73 海の田舎町イナエカロ

 佐賀県は九州のヒエラルキーの中で最下層に位置し、毎年公表される魅力度ランキングのでもワーストに輝いた事もある程度に何もない。


 おそらく大多数の人は埼玉で育ったくせに佐賀県民気取りの芸人か某ベテラン芸人のおばあちゃんのイメージしかないだろう。


 なお観光資源がその辺にある長崎県は毎年上位だったが、陸路で県外に出る時は必ず佐賀を通る事になるので長崎県民にとっては最も行く機会が多い県である。基本的に通過するだけだけど。


 だが他の都道府県にも言えるがあんなものは郷土愛の強さと自治体の宣伝力に由来するものだ。ご近所さんだからわかるが佐賀県はその辺りがダメダメで、それがこんな結果になってしまった理由なんだろう。


「おー、いい眺めじゃん」

「俺達の時代でもこの辺は天然記念物に指定されてたからな。今の住民はそんな事を気にせず普通に暮らしてるけど」


 その実態はというとご覧の通り。その絶景は拝金主義者のリアンですら感動させるものであり、俺もまた街の賑わいに笑みをこぼしてしまった。


 俺たちはイカの様な遊覧船に乗り、光り輝く水飛沫をあげ眩いライトブルーの海を疾走しながら崖下にある街へと移動する。


 なおイカの様な、と形容したが訂正しよう。まんまイカである。観光地では特産品をモチーフにしたアレコレが作られがちだがこの船もその類なのだろう。


 荒波によって抉られた絶壁にある巨大な洞窟にはコミュニティが形成され、住民のディーパたちが熱帯魚の様に悠々と泳ぎ、移動手段兼住宅の船が並んだ商店街には色鮮やかな魚介類や工芸品が売られている。


 洞窟に近付いた所で船は速度を落とし、ゆっくりと内部に入っていった。


「わふー!」


 そんな実に楽し気な光景に好奇心旺盛なサスケは相変わらずしっぽを振ってはしゃいでいた。見た感じむしろ現実世界の佐賀よりも栄えているかもしれない。


 惜しむらくは街のほとんどが海中にある事か。水の中の様子はマップ機能でしか確認出来ないが、海の中は水上よりも発展しており店も多く随分と賑やかで、巨大な貝殻を用いた建物がサンゴや海藻で彩られていた。


 水中でも呼吸が出来たのならあちらの観光も楽しめたが、残念だが今回は見送るしかない。


「イナエカロは漁業が盛んで、見ての通り海が多いので住民はほとんどディーパさんですポ。ここのお魚やイカは美味しくてとっても評判なんですポ! 焼き物やお肉とか有名なものもたくさんあって、行商人の私も足しげく通っていますポン」

「ええ、特に焼き物は佐賀県よりも有名ですからね。他県民との会話で有田焼とか伊万里焼って佐賀なんだってリアクションを佐賀県民は百回くらい経験しているはずです」

「ほへー、そっちでも同じなんですね。私もイナエカロの人にそう言って怒られた事がありますポン」


 モリンさんは口下手な佐賀県の観光協会の人に代わって嬉々として宣伝をしてくれた。


 ちなみに俺達の世界では佐賀牛は全国最上位クラスのブランドであり、安定的に安く大量に供給出来る食糧プラントが幅を利かせた時代になってもなお生き残っている程度に有名だったりする。どうやら異世界でもそのブランド力は健在らしい。


「売ってる特産品は大体俺たちの世界と同じか。旅には必要ないけど余裕があればお土産にいろいろ買ってみるのもいいかもしれないな」


 船上の露店には前述した陶器の他にビードロ、織物など概ねこちらの世界と同じものが売られていた。


 後継者不足が深刻な伝統工芸の継承は全国共通の課題だったけど、まさか遠い未来の人類滅亡後の世界で半魚人が受け継いでくれているだなんて職人さんは思ってもいなかっただろう。


『うんうん、じゃんじゃん買いな。特に酒はあるだけお願い。九州はどこもかしこも美味い酒ばかりだからねぇ。あ、特産品のイナエカロ貝ってのも宜しく。七輪で焼くと美味いんだよねぇ』

「お前はそれしかないんだな。けどまあ酒はともかくアタシも美味いもんには興味はある。あとでどこかに食いに行こうぜ」

「だな」


 まれっちの注文にザキラは呆れつつもそう提案し、俺は何を食べようかあれこれ頭の中で巡らせていた。金はいくらでもあるのでこの際思い切って贅沢しても問題ないだろう。


『って、そうじゃない、気球だよ気球、忘れる所だった。わざわざヒントは出さなくてもわかると思うけど大体わかるよね、ほいマップ機能』

「適当だなあ」


 しかし全員すっかり観光気分でいたが、まれっちは本来の目的を思い出し適当にも程があるヒントを与えマップが展開される。


 ただ崖下の洞窟内で隠される様に保管されていた巨大な気球をすぐに発見出来、あそこに行けばいいという事は一目瞭然だったので確かにこれ以上のヒントなど与えようがないだろう。


 洞窟は小さくどちらかと言えばただのくぼみで、しぼんだ気球はメンテナンスの途中らしくパーツがバラバラの状態で置かれていたが、組み立ててればすぐにでも飛ぶ事が出来るだろう。


 けれどバルーンの部分はつぎはぎだらけで全体的に随分とボロッちく、安全基準という概念がないであろうこの世界でも乗る事を躊躇する見た目である事は明白だった。


「なあ、まさかあれに乗れと。流石にそれはないよな、うん」

「なんだア? ひょっとして兄ちゃんたち気球に乗りたいノカ?」

「え、はい。そうですけど」


 嫌な予感を抱きながらマップの映像を睨んでいると船頭のおじいちゃんディーパが難しそうな顔をして話しかけてきた。俺が肯定すると彼は少し言いにくそうにしていたが続けて、


「イナエカロは昔はよく気球が飛んでお祭りもやってたケド、今は不景気やらお触れやらでもうどこもやってないんダ。一応一人だけ勝手に気球を作ってる変魚はいるケド、飛んでいるのを見た事は無いナ。楽しみにしてたのにすまねぇナア」


 と、昨今の気球にまつわる事情を教えてくれた。何となくそのお触れを出した人物が想像出来るが、これもまたあのポンコツ女王と腹黒大臣の仕業なのだろうか。


「ふーむ、そうですか。ちなみにその気球を作ってるディーパさんはどこにいるんですか?」

「さあナ。いつもは棚田の近くにある古戦場でパーツを集めているケド、ちょっと前に気球作りの金を稼ぐためアシュラッドに行ったばかりだかラ当分戻らないダロ。ま、パーツはかなり高いカラはした金を稼いだところデ永遠に買えないだろうケドナ」

「そうですかー。うん?」


 俺はその通達にがっかりしてしまうが、それがどこかで聞いた様な話である事を思い出した。そういえばなんかアシュラッドで気球がどうのこうのって言ってたディーパがいた様な……?


 早速アドバイスを参考に棚田のある場所を探ってみると兵器の残骸から機械の部品を回収しているディーパを発見した。見た目もよく似ているしうん、きっとそうだ。


「すまないがザキラ、メシは後にしてくれ。用事を済ませてからにしたい」

「えぇ? 腹減ってるんだけど。とっとと済ませてくれよ」


 彼女はぶつくさ文句を言いながらも財布の紐を握っているのは俺なので仕方なく承諾した。


 この手の人探しクエストは聞き込みをしたり、あちこち街を駆けずり回って最後に相手がいやーさがしましたよ、なんてノコノコと現れて殺意を抱かせたりするが思いのほか早く見つかって良かったよ。

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