1-71 いつかの世界、サスケの親友の最期の記憶
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それはいつかの世界の記憶。
少女が乗る機神兵は敵の攻撃により大破し、自身も深手を負いながらも最終戦争を最期まで闘い抜いた。
けれど目の前で何かが弾け、少女の身体は吹き飛び道路の上に転がってしまった。
急いで逃げようとしたが足が動かない。遅れて彼女は自分の右足が目の前に落ちている事に気が付いた。
ああ、これ死んだな。
けれど幸いにしてもう痛みを感じる暇もない。どうせなら宿敵と刺し違えてカッコよく死ぬのが理想だったが平場で死ぬなんて。
だがアニメとは違い実際の戦争はそんなものである。たとえ伝説の傭兵だろうと訓練を受けた愛国心溢れる軍人だろうとミサイルや機神兵にはかなわないのだ。
死の間際、彼女はふと自分が何故戦っていたのか考えてしまう。
もっと言えば何故この世界に生まれたのか。
生まれた時から戦争と共にあり、死ぬために生まれてきた自分は一体何のために生きてきたのだろう。
ああそうだ、自分はアニメを見るために生きてきたのだ。
いつだったか法律をガン無視した違法配信のアニメを見て、こんな素敵な世界があるのかと思いはるばる遠く離れた異国の地にやって来たのだ。
けれどその頃には日本ももうこちら側になっていた。あの時の筆舌に尽くしがたい落胆は如何ほどだったか。
それでもそんな世界でも希望とサブカルチャーへの愛を忘れていない馬鹿な奴もいた。自分は彼女たちのために戦っていたのだ。
あの少女は暗黒の時代に生まれた光だ。世界を遍く照らす光に夢を託し、共にその夢の結末を見る事が自分の闘う理由だったのだ。
「あーあ、ゆめおちの続編見たかったんだけどなぁ……」
そうだ、自分はこの世界をこんなにも楽しんでいた。
人生の最期に短い時間だったが、自分は心残りが出来る程度にこの世界を楽しんでいたのだ。少女はその事が何よりも嬉しかったのだ。
「ニアちゃあんッ!」
意識を失う間際、異世界の友人の声が聞こえた。
友は戦場をかけるオオカミとなり、ゾンビやNAROの兵士を全てを切り裂く爪と牙で屠り、声にもならない叫び声をあげながら一目散に自分の元に駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫でヤンスかッ!? 早く手当てを!」
「サスケ殿……自分はもう……拙者に構わず……」
友は自らの服をちぎって即座に右足を強く縛った。しかし自分の命の終わりは時間の問題であり、彼女は足手まといにならない様に遠ざけようとした。
「何言ってるんでヤンスかッ! 皆ニアちゃんの帰りを待っているでヤンスッ! 絶対に生きて帰るでヤンスよぉッ!」
友は危険を顧みず彼女を背負い鉄と血の雨が降り注ぐ戦場を駆け抜けた。
無慈悲な爆撃はなおも続き、全てを蹂躙し善悪も関係なく平等に命を奪い続ける。
戦場は肉塊と血の沼へと変わり、その先に未来がないとわかっているはずなのに兵士たちは互いに死に物狂いで相手の命を奪い合う。
それに引き換え命に代えてでも自分を助けようとしてくれる友の瞳はなんと美しい事か。
ああ、全くもって馬鹿馬鹿しい。何もかもが無意味だ。考えてみればこんな獣の様な奴らに付き合ってやる道理など最初からなかったのだ!
「……そうだね。生きて帰ろう。生きて帰って、こんなクソみたいな運命とはオサラバして、また皆で馬鹿馬鹿しいぐーたらニートライフを楽しむんだ……!」
少女はようやく当たり前の事に気が付いて役目を放棄する事を決意した。
自分は英雄になるよりも自由気ままなニートライフのほうが性に合っている。
深夜に炭酸片手にスナック菓子をかじりながら嗜むアニメやゲームに勝る幸福などこの世界には存在しないのだ。
少なくとも権力者によって行われるこのような野蛮な娯楽よりかはずっと人間味はあるだろう。
生きる気力を取り戻したニアは懸命に抗い続け、友と共に自らの運命に別れを告げた。
全てはいつか見た夢の続きを仲間と共に見る、ただそれだけのために。




