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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-70 愛と平和ともふもふ

 異世界ファンタジーの醍醐味と言えば遺跡の探索だ。遺跡の定義とは昔の建造物なのでそういう意味ではこのビルや喫茶店も立派な遺跡なのだろう。


 俺たちは自由行動をとり思い思いに行動する。俺にとっては目新しいものでもこの世界の住人にとってはありふれた日常の光景でそんなに楽しいものではないし、必要なものはそんなにはないが物資の補給などを並行して行うならこちらの方がいいだろう。


 かつて人が生活を営んでいたレトロな市街地エリアはやはりどこも植物に侵食され、窓という窓が割れ壁や天井も崩落しとても人が住めたものではなかったが、隙間から差し込む木漏れ日の様な太陽の光と、草花が生い茂る喫茶店のテーブル席の組み合わせはなかなか写真を撮りたくなるような趣があった。


 ガラスが壊れて開放的になった赤い電話ボックスは当時としても古かったのだろう。電話機には鳥が巣を作っており、生い茂ったツタや葉っぱのせいで樹木の様に見えてしまう。


 電話ボックスの現在の家主である燕っぽい鳥は雛鳥に口移しでエサをあげ、食べ盛りな子供のためにせっせとごはんを探しに行った。


 大正時代のものと思しき建物の中にはアンティークな調度品がたくさんあったが、説明文が書かれたパネルがあったのでこちらはなにかの資料館だった様だ。


 二階にはオシャレな木の手すりがあったが、一部が崩落しており手すりだけでなく二階そのものが今にも崩れそうなので登らないほうがいいだろう。


 しばらくレトロな市街地を見て回っていると公園らしき場所があったので、そこで一休みしようとすると俺はそこで彫刻を発見した。


 その彫刻は回し姿の男が子供を肩に担いだものであり、土台に『愛と平和』と書かれていたのでこれは愛と平和を表現したものなのだろう。


 どこに愛と平和の要素があるのかは俺にはわからないが、そういえば昔佐賀出身で有名な彫刻家の人がいたからその人の作品かな。


 もちろん俺たちの時代じゃこの類のものは強制的に倉庫にしまわれるか壊されたので、なかなか感慨深いものがある。


 こちらにもやはり兵器の残骸が転がっており、彫刻から程なく歩くと朽ち果てた機神兵が建物にもたれかかっていた。


 この機神兵もやはり例の如く草花で彩られ、ウーパールーパーっぽい魔物とマタンゴさん、ついでにサスケが気持ちよさそうに日向ぼっこをしてお昼寝しており、まさしく愛と平和というべきほのぼのとする光景だった。


「ってなんでサスケ?」

「むにゃー、ってアニキ。いえなんか吸い寄せられるようにこっちに来てしまって、気持ちよくなってつい眠ってしまったでヤンス」

「うぱ」


 目を覚ましたサスケは彼らと一緒にお昼寝をしていた理由を教えてくれるが、それは実に本能に忠実なものだった。


 しかし動物と考えればそんなに変な行動ではないし、感覚が人間のものとは異なるのかもしれない。


「いやー、なんかここ凄く落ち着くでヤンス。アニキも一緒にお昼寝するのはどうでヤンスか?」

「体裁というか、絵面がなんかなあ」


 まだ半分寝ぼけているサスケは幸せそうに笑いながらそんな誘いをしたが、高校生とショタが並んで眠るというのは少しばかりいかがわしいものを感じてしまう。もちろん彼にそんなつもりは一切無いのだろうけど。


「あ、犬モードならアリかも」

「犬じゃなくてオオカミでヤンスけど。え、でもここで?」

「ここでだ」

「……どうしてもやらないといけないでヤンスか?」


 犬モードになるにはまず全裸になる必要があり、そう考えれば俺はまあまあゲスなお願いをしている。


「そのほうが興奮するだろう? 俺はサスケをもふもふしたいんだ」


 サスケはあまり乗り気ではないのかかなり渋っていたが、俺はクワッとバキバキの目で主張を続けた。


 なおこれは別に性的な意味は一切無く犬をもふもふしたいだけである。


「は、はあ。アニキがそう言うなら」


 彼は根負けして物陰に隠れ、しばらくして犬モードになり戻ってくる。何度見てももふもふして実に愛おしい。


「よーしよしよし。いい子だ、いい子だ。サスケは可愛いなあ~」

「あうあう、あ、あの、アニキ、なんか手つきがやらしいでヤンスよ」


 俺はサスケを抱きかかえて再び吸引し全力で愛でまくった。


 もしもこれが人間形態ならば犯罪だが犬なので何も問題ない。ただの人と動物の心温まるふれあいだ。


「ここかぁ、ここかぁ? あー、すんごい癒される。流石合法ドッグ、やっぱ犬は最高の麻薬だな! ウホッ、ウホッ、ウホッ、んすはぁあ~!」

「だから本当にやましい気持ちはないでヤンスよね!?」


 興奮し過ぎた俺は目つきがヤバくなりサスケは恐怖を感じてしまうも、くどい様だがこれはただ犬をもふもふしているだけなのでとても合法だ。


「わー! このおにいさんへんなことしてるよー! こわいよー!」

「うぱー!」


 だがお昼寝していた純粋無垢なマタンゴさんとウーパールーパーっぽい生き物は得体の知れない恐怖を感じ逃げ出してしまったので、これは一般的には自主規制される限りなくアウトに近いセーフなのだろう。トラウマを植え付けちゃってごめんね。


「フゥー……グッドスメェル……オウイェェス……こんな変態に付き合ってくれてありがとうな」

「いいでヤンス、アニキが喜んでくれるのなら。ぐすん」


 存分にもふもふを堪能し、ようやくニオイフェチの変態から解放されたサスケは怯えた様に丸まってふて寝をした。


「ふぁ……」


 犬吸いでリラックスし、加えて睡眠不足により俺もまた猛烈な睡魔に襲われてしまう。


 ここは戦争とは無縁の平和な場所なのだし、生物の本能が求める欲求に身を委ねてもいいだろう。


「アニキ……?」

「もうちょいこのままで……」


 無意識にサスケの身体に伸びた手を彼は抵抗する事無く受け入れた。


 今度はちゃんと優しく撫でてあげると、彼は縁側で静かに終わりの時を待つ老人に寄り添う愛犬の様に俺の膝の上に乗った。


 今は何も考えずに眠ろう。この安らかな眠りは闇の中を彷徨い続けた俺がずっと求めていたものなのだから。

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